『街並み照らすヤツら』“笑い”から始まった地獄編 正義を地獄に突き落とす澤本の自由さ

商店街のため、商店街のみんなのため。そんな想いでツチヤ(でんでん)からの危険な依頼を引き受けてしまった正義(森本慎太郎)。荒木(浜野謙太)と一緒に廃倉庫へと忍び込み、保険金目的で放火をしようとした矢先、倉庫のなかで冷たくなっているホームレスを発見。助けようとしているうちに火は放たれているし、荒木は逃げてしまうし、ようやく我に返ったものの家に帰れば彩(森川葵)は家出してしまっている。さらに訪ねてきた日下部(宇野祥平)から、荒木が倉庫の近くで捕まったと知らされるのだ。

『街並み照らすヤツら』(日本テレビ系)は6月1日放送の第6話から後半戦へと突入する。“地獄編”という物々しい名が付けられた第2章の始まりである。刑事として一度食らいついたらそう簡単には離さないような妙な迫力がある日下部に、正義と荒木がそれぞれ違う部屋で事情聴取を受ける序盤の一連。黙秘を貫こうとする荒木に、巧妙に痛いところを突いてくる日下部。かなり神妙な雰囲気から幕を開けるのだが、このドラマは根っからの喜劇。主人公の絶体絶命の危機ですら珍妙な笑いへと昇華していく。

口裏を合わせるタイミングもなく捕まってしまった正義と荒木が、なんとか供述を合わせようと試みて失敗したり、なんとしても正義に会おうとする澤本(吉川愛)が、いとも容易く日下部に制されてしまったり。第2章に突入しても、彼ら登場人物のとことん“うまく噛み合わない”様は生き続け、第1章の時と変わらぬかたち/原理でじわじわとした笑いを生み続ける。そういった意味でも今回は、これまで周囲と180度ズレ続けていた澤本の奇妙奇天烈な行動がうまく機能していたといえようか。

澤本が突発的に彩の実家を訪ねてくることによって、ちょうど庭先で話し合っていた正義と彩に割って入る格好になり、家のなかからその様子を窺っていた彩の両親に正義が浮気していたのだと錯覚を与える。初めは澤本が誰だか思い出せなかった彩が、刑事であることに気付いた後、うっかり“偽装強盗”のワードを出そうとしてしまい呑み込むことで、彩はなんだかんだいっても正義を守ろうとしていることが確認できる。そして自分から“偽装強盗”を知っていたと言い出した後の正義と彩のぽかんとした一瞬の間。構わずにマウントを取るように喋り続けることで、完全に場をかっさらっていく。

しかもこの澤本の刑事としての一線を越える行動にたどり着くために、正義の事情聴取をこっそりしようとする澤本らしい行動から入り、正義が釈放された後に謝りに行くと言いだす→正義が出かけるのを目撃→日下部に嘘をついたのがすぐにバレ、日下部が彩の実家を訪ねてきてしまうという巧妙かつトントン拍子な負の連鎖を生む。結果的に彩と正義の和解に向けた話し合いを見事に遮断。一連の澤本の自由さが、あろうことか正義を逃亡者に仕立て上げてしまうという“地獄”までも作りだすのである。なんということだ。

一方で、そんな澤本によって仕立て上げられた地獄のジェットコースターに乗り込むことになった正義がひとりで夜の道を走る時、さらなる地獄の気配が外堀を埋めるようにして商店街に近付いているではないか。荒木のビリヤード場におそらく“本物”の強盗が現れ、商店街の誰かだと思って無防備に近付いた荒木が襲撃され、また商店会長の大村(船越英一郎)も何者かに襲われ重体。これはまさしく“地獄編”。取り返しのつかない事態が、なおさら取り返しのつかないことになろうとしている。

(文=久保田和馬)

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