創業40年オーバー「レジェンド駄菓子店19」小売業「冬の時代」に店主が明かした「生き残る秘策」

創業約45年・菊地商店・東京都品川区(写真・木村哲夫)

「駄菓子屋さんって、お菓子やゲームを売っていて、カプセルトイがあって、小上がりがあって……と、どこも同じだと思っていませんか? しかし、店主のキャラクターはもちろん、その地域の習慣や、血と涙と汗が染み込んでいるんですよね。同じ店は2つとしてありません」

そう語るのは、「駄菓子屋研究家」の土橋真氏。

「いまの小売り業は『冬の時代』で、駄菓子屋さんだけが減っているわけではないし、新たに開店する人もなかにはいるんです。

そんななかで店を続けていくには、地元の住民たちとまず良好な関係を築ける『人間力』や、『持ち家比率の高さ』がカギかもしれません(笑)。それでも、この変化が激しい世の中で、地元のランドマーク的な存在として愛され続けているのは、すごいことだと思います。

価格を据え置く駄菓子メーカーもそうですが、駄菓子屋さんはみな、『子供たちが買えるように』という責任感を共有しているんですよね」

コンビニやスーパーでも駄菓子の人気は高まる一方だが、閉店する思い出の店も多い。創業40年以上の、現在も元気に生き残る駄菓子屋さんに秘策を聞いた!

●駄菓子屋研究家・土橋真さんが選んだ「レジェンド駄菓子店」19店

■創業約45年【菊地商店】(東京都品川区)

かつて夫婦で青果店を営んでいたが、隣に開店した駄菓子店にいまは専念。入口付近に10円ゲーム、店内には駄菓子ブースのほか、ネオジオや『ファイナルファイト』などゲームコーナーも充実している。映画『闇金ウシジマくん』ほか、ドラマや映画のロケ地としても有名(土橋氏)

「ボケ防止でやってるんだよ」。店主の菊地和子さん(84)はそう笑うが、カゴいっぱいに大人買いしても、算盤で瞬時に税込み代金をはじき出す。

「前は5軒くらい駄菓子屋があったけど、いまはうちだけだ」

壁には『あぶない刑事』や『凪のお暇』など人気作品の企画書やFAXが、何枚も貼られたままに。みんなこの店を目指し、ロケで訪れたのだ。最近、近くにスーパーができたが「買うときに会話がないじゃないの」と、まるで相手にしていない菊地さんだ。

住所/東京都品川区南大井4-14-19
営業時間/10時~17時
定休日/月、火、木、金

■1983年創業【コスモ】(東京都足立区)

「店の中で走り回ってはいけない」

店内には、店主の手書きによる独特のルールが掲示されている。ここ「コスモ」は1983年創業。「駄菓子屋の聖地」として全国的に知られている。低価格の「駄菓子とゲーム」で営業を続けている。店主の海野光正さん(76)に、「コスモがコンビニに負けない秘訣」を訊(き)いた。

「根性と我慢。儲からないから母ちゃん(妻)にいつも怒られている(苦笑)。だってさ、ウチは卸値12円のお菓子を10円で売っているからね。儲けようと思ったらできないよ、この商売。時給に換算したらゼロだよ」

陳列棚には、定価の半額を下回っている商品もある。

「1円単位での商売なんてできないからね。子どもからそんな細かいお金はもらえない。うちは消費税も取ってないから安いんだよ。ここは土地も家も、俺が大学時代に親父の植木屋を引き継いで儲けた金で買ったものだから、家賃がかからない。だからなんとかやっていけるんだよ。やっていけてないけど」

室内のスペースの半分を占めるゲーム機は、1プレイ10円が基本で、壊れたら光正さん自ら修理をする。

「商売ってさ、みんな儲けようと思ってやってるじゃない。俺からすると、なんでそう思うのかが不思議でしょうがない。そこそこでいいやっていう商売もあるんだよ」

“母ちゃん”の昌枝さんが思いを代弁する。

「子どもがさ、10円くじを引いて当たりが出ると喜ぶじゃない。一緒になって親も喜ぶんだよ。ふつうに暮らしていて、10円でそんなに喜ぶことなんてないでしょう? それを作り出すのがこの仕事なんだよ」

子どもが店内を走った。

「おい! もう帰れ!」

光正さんの容赦ない罵声も「コスモ」の名物。いや、愛のムチだ。

住所/東京都足立区興野2-22ー20
営業時間/14時(土日祝は11時)~18時
定休日/火(第2、4)、木

■1942年創業【服部商店】(群馬県大泉町)

タバコ・印紙・塩などを扱う総合食料品店として開業。 初代のあだ名が「いっちゃん」で、いまでも地元の子どもに「いっちゃんち」と呼ばれ愛される。店内には子どもたちや店主によるイラストが飾られていた(土橋氏)

3代目・服部光江さん(56)「コンビニには負けてると思いますよ(笑)。子どもたちが気軽に来られて、スーパーやコンビニのように列ができないから、 “買い物の訓練” としてみなさん、子どもを寄越してくれるんです」

住所/群馬県邑楽郡大泉町寄木戸416-1
営業時間/12時~18時
定休日/日

■1982年創業【小島商店】(栃木県足利市)

以前は両毛一円の駄菓子店に卸す問屋だったが、いまは小売(駄菓子)をメインに、業界を盛り上げる。店内は非常に広く、駄玩具や10円ゲームもあり、アットホームな素敵なお店。高齢者福祉施設のお年寄りも買い物にやってくる(土橋氏)

店主・小島さん「卸として創業したのは1957年です。いまも、親子3代で来てくださっている方が多いですね。“秘策”ですか? とくにあらためて聞かれても……思いつかないですけどね(笑)」

住所/栃木県足利市百頭町1960-2
営業時間/10時(木は夕方から)~18時
定休日/無休

■1931年創業【石崎菓子玩具店】(茨城県水戸市)

水戸城の城下町として栄えた下市で、4代目になって駄菓子が充実。店内ではカード類で遊びに興じる子どもたちの姿も見受けられる(土橋氏)

4代目・小瀧泰さん「子どもと親しくあいさつや言葉をかわすことですね」

住所/茨城県水戸市本町3-3-1
営業時間/9時~18時30分
定休日/木

■1950年創業【きんぎょや】(川崎市川崎区)

2代目として、祖父母からバトンを受けたお孫さんが新しい感性で店づくり(土橋氏)

2代目・初野愛子さん(49)「男の子だと『給食何だった?』とか行事の話を、女の子には髪の毛を切った話や、『洋服かわいいね』とか、些細なことでも気づいたことは話しかけるようにしています。塾に行く前に顔だけ見せに来る子や、大人になって子どもを連れてくる子も少しずつ増えてきました」

住所/神奈川県川崎市川崎区田島町5‐1
営業時間/14時30分(土日祝は13時30分)~17時(変動あり)
定休日/不定休

■1972年創業【小林孝商店】(東京都板橋区)

子どもと来店したオヤジ世代も圧巻の駄菓子類+10円ゲームラインナップ、そしておじちゃん、おばちゃんの温もりに感涙すること間違いなし(土橋氏)

店主・小林美津子さん(76)「レトロゲームがそろっているので、土日には車で子どもを連れて遊びに来る方も多いです。娘が跡を継ぐ予定で、いまは帳簿や仕入れを学んでいます」

住所/東京都板橋区蓮根2-26-16
営業時間/12時(土日は11時)~17時
定休日/木

■昭和初期創業【ほったや】(埼玉県東松山市)

たこせんにマヨ、かつお節、「ベビースターぐるぐるもんじゃ」が乗った「ほったやスペシャル」180円(店舗価格)。飲み屋さんなら500円はくだらないでしょう(笑)(土橋氏)

4代目・江原正康さん(45)「先代が病気で店を閉めているときに、シャッターの前で待つ子どもたちを見て、涙が……。そのとき、脱サラすることを決めました。以前はドラッグストアに勤め、店舗運営や陳列術を学びました」

住所/埼玉県東松山市大字高坂1173-9
営業時間/9時~18時
定休日/火、水(祝日は開店)

■創業約75年【重兵衛商店】(千葉県浦安市)

漫画『浦安鉄筋家族』に登場する駄菓子店のモデルで、ドラマ版ではロケ地にもなった。経済成長とともに浦安の町並みは変わったが、放課後に子どもたちが集まる光景は変わらない(土橋氏)

店主・内田朋子さん(81)「『やめないで』という昔からのお客さんのおかげで続けてこられました。ドラマが放送されてからは、遠くからファンの方が見えてくれて、ありがたいですね」

住所/千葉県浦安市堀江3-13-1
営業時間/10時~17時
定休日/不定休

■創業約80年【梅屋菓子店】(東京都目黒区)

地域の子どもたちは日々の買いもののほか、課外授業でも梅屋を訪れる相思相愛っぷり!(土橋氏)

2代目・猿倉孝司さん(81)「会社を定年してから、店を継ぎました。にぎやかだった商店街も、いまはさびれてきましたね。うちもこのたび、新宿中村屋の特約店をやめることになりました。ですが、商店街には新しくカレー店ができるし、繁盛している飲み屋さんもあります。うちも、お菓子でがんばってみるつもりです」

住所/東京都目黒区目黒本町4-2-7
営業時間/9時~19時
定休日/不定休

■1959年創業【松よし】(東京都豊島区)

ネット検索では「閉業」と出るが、じつは営業中の、子どもたちや駄菓子への愛があふれた店(土橋氏)

店主(匿名希望)「コロナ禍に閉めていた時期はあったけど、閉業はしてないわよ。ただ、いまは月に1回しか仕入れに行けないから、雑誌に載って大人買いされると、子どもたちが買えなくなるから “ありがた迷惑” なのよ。住所も『巣鴨』までにしておいてね」とのこと。

住所/東京都豊島区巣鴨(以下非公表)
営業時間/不定営業
定休日/不定

■1955年創業【みきや】(名古屋市東区)

会社勤務のかたわら、先代から店を引き継ぎ、土日のみ駄菓子店を開く店主は、子どもたちの相手をすることが「趣味」という粋で楽しい人(土橋氏)

3代目・松浦健さん(65)「コンビニに勝るところは、消費税を取らずお金の端数が出ないようにして、小さな子でも計算ができるようしている。店を継続している理由は(1)子供たちにパワーをもらえる(2)子供のころのこの街の思い出を、いつまでも持ち続けてもらいたいため」

住所/愛知県名古屋市東区出来町1-7-3
営業時間/土日12時~18時30分
定休日/月~金

■創業100年以上【白川屋】(岐阜県中津川市)

お茶や袋菓子を売っていた名残で、地元では「白川茶」と呼ばれる。間口が広い店舗構造に、名古屋圏の駄菓子店の特徴が見られる(土橋氏)

店主の息子(匿名希望)「昔は市内にも何軒も駄菓子屋があったんだけど、我慢強く商売していたら、いつのまにかうちだけが残っていた(笑)。母は88歳で、私は息子なんです。いま、平日は不定期営業なのでご注意くださいね」

住所/岐阜県中津川市本町2-1-26
営業時間/10時~17時(土日は15時、平日は不定営業)
定休日/水

■1938年創業【船はし屋】(京都市下京区)

国内外の観光客、オールウェルカム! 辻さんお手製のマンガや、360度に広がる陳列は圧巻(土橋氏)

2代目・辻誠一さん(85)「うちのモットーは“うまい、安い、楽しい”。それを貫き、お客さんに喜んでもらうことを第一に考えてきたから、儲からんです(笑)。最近、しんどなってきて閉店を20分早めたんです(笑)」

住所/京都府京都市下京区寺町通綾小路下る中之町570
営業時間/13時30分~17時40分
定休日/木(祝日、学校の長期休暇中は営業)

■創業約50年【カネマス】(大阪府大東市)

タバコ、飲料、食品もそろう全世代対応店。土間づくりの店内は、親子の愛情がいっぱい!(土橋氏)

母・難波千恵子さん(77)、娘・藤村千明さん「昔は小さい子どもから大学生までたくさんお店に来てくれて忙しかったのですが、いまは毎日来てくれる子どもたちと話をしたり、みんなの成長を見たりすることが楽しみです。親になっても来てくれるつながりが、長く営業できている秘訣です」

住所/大阪府大東市野崎1-26-1
営業時間/9時(火は14時)~19時
定休日/月

■創業約100年【お菓子の種屋】(東京都北区)

戦前、種や苗のお店であったため屋号は「種屋」。東京・赤羽にある3階建ての自社ビルの1階に店舗を構え、関東屈指の品ぞろえで知られる。コンビニに負けず……というか儲かってる!? その理由は?

「駄菓子の知識です。この『ビンラムネ』は、一度販売が中止になったんですけど、岡田商店さん(東京・足立区)があとを継いで、歳月をかけて再販にしてくれました。また、この『ヤッターめん』の梱包箱。カラーだったのが白黒に変わったんだけど、これは駄菓子の価格を抑えるための企業努力なの。本当に、作っていただいてありがたいですよね。こんなふうに、ただ販売するだけではなく、お菓子のトリビアも紹介しています!」

4代目となる石井紀江さんと、娘の中島麻美さんが毎日店頭に立ち、笑顔で案内してくれる。同じ赤羽の駅前店も、元気に営業中。

住所/東京都北区赤羽1-29-10
営業時間/8時~20時
定休日/無休

■1926年創業【あまのや繁田商店】(静岡市葵区)

駄菓子自体のことはもちろん、経営者視線で業界のこれからを考えている昌大さん。駄菓子好きの方は、静岡観光の際に、ぜひ要チェック(土橋氏)

4代目・繁田昌大さん「いま『あまのや』は直営3店、フランチャイズ16店、別の名前の店舗が5、6店あります。私は、前職のドン・キホーテで、小売りの陳列や勘を養いました。

駄菓子は、小さなメーカーの商品でも知名度が大きく、単一で全国展開していたりと、商品力は圧倒的です。ですが、それを子どもの下校時間にチマチマ売っているようでは、“道楽”としてはいいかもしれませんが、利益を出すことはできません。

私は、28歳でドンキを辞め、家業を継ぎました。『駄菓子業界で食っていかなきゃいけない』というプレッシャーが、強くあったんです。

いま駄菓子が語られるとき、とにかく“ロマン”の方向に行きがちです。ロマンでは従業員を雇えないし、うちもメーカーも終わります。

ディズニーランドではポップコーンが3000円するのに、駄菓子屋がそれをしてはいけないのか。旗艦店の呉服町店は静岡市の中心にあり、老若男女に『楽しかった』と言ってもらえる店です。私はそこで、12円の『うまい棒』を15円で売っています。クレームはありませんよ。そうやって、駄菓子屋として継続的に利益を上げていきたいんです」

住所/呉服町店:静岡県静岡市葵区呉服町2-2-8
営業時間/10時~20時
定休日/無休

■1974年創業【トミーショップ】(東京都江戸川区)

2021年にリニューアル。遠目からでもよく目立ち、早くも葛西エリアの “映えスポット” になっている。店内にはいろいろ隠された秘密があるので、探してみよう!(土橋氏)

2代目・冨田憲政さん(51)「駄菓子だけでは商売が成り立ちませんから、タバコや葉巻、自販機、見せ方など、トータルで利益を出せるように工夫しています」

住所/東京都江戸川区北葛西5-29-8コクリエ1階
営業時間/9時(月は14時)~18時30分(13時~14時は昼休み)
定休日/日

■1972年創業【余田(よでん) 商店】(兵庫県丹波市)

たこ焼きや、自販機でおやつセットを販売したり、令和の世も挑戦を続ける店。2年後、目の前の小学校の廃校が決まったのですが……(土橋氏)

4代目・余田康夫さんの妻、典子さん「この地域にはなんにもないんです(笑)。うちも昔は食料品を置いたり、魚の行商をしてりしたんですけどやめてしまって……。子どもらが来られる店になれば、と駄菓子を増やしてきたんですけど、小学校がなくなったら遊んでる子らもいなくなりますしね。『どうしようかなあ』と言うてるんですが、最近はSNSで知ってもらった方が来てくれるようになって、休日のほうが人が多いこともありますね」

住所/兵庫県丹波市市島町酒梨200-1
営業時間/9時~18時
定休日/不定休

監修/写真提供・土橋 真氏(駄菓子屋研究家)
会社員のかたわら、全国350軒以上を訪問。『マツコの知らない世界』ほか出演多数

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