【コラム・天風録】青カビの功罪

 現代の脳外科医が幕末にタイムスリップし、持てる知識で患者を救う。村上もとかさんの医療漫画で人気ドラマにもなった「JIN―仁―」は専門家の監修がリアルさの源だ。「無理でしょう」「これならいける」。議論の末にペニシリンを登場させた▲世界の医療を変えた抗生物質。1928年に英国で発見されるずっと前なのに主人公は米のとぎ汁や菜種油などを使い、試行錯誤の末に青カビから生成に成功する。さほど荒唐無稽に思えないのが作品の醍醐味(だいごみ)だろう▲餅に生えるなど身近な青カビに由来する物質は毒にも薬にもなるようだ。ペニシリンが人類を救う一方、小林製薬の「紅こうじ」サプリメントの原料には有害なプベルル酸が入っていた▲健康被害が発覚して2カ月。やはり製造工場から青カビが見つかったらしい。国は早々と機能性表示食品の衛生管理強化などを示すが、深刻な事態に至ったプロセスは分からないままだ▲不安を抱く消費者のためにも粘り強い実験で解明してほしい。ちなみに「JIN」のペニシリン生成は各地の読者が同じ手法で挑み、漫画発表から20年を経て福井の高校生が本当に成功した。村上さんの感謝の手紙も届いたと聞く。

© 株式会社中国新聞社