ターゲットと不倫関係に陥った「別れさせ屋」、交際女性を流産させた医師らが語った“反省の弁”〈不倫事件の法廷から〉

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不倫口止め料をめぐる改ざん事件で、トランプ前大統領に有罪評決が下された。不貞の是非ではなく、業務記録を改ざんした行為が罪に問われたものだ。しかし、不倫が大きな問題に発展することは珍しくない。

不倫から始まった関係が、痛ましい結末に至った事件について、裁判傍聴をもとに紹介したい。(ライター・高橋ユキ)

●〈事例1〉ターゲット女性と不倫関係に陥った「別れさせ屋」の男

今から15年前の2009年3月、交際する女性の首をビニール紐で絞めて殺害したとして東京都内に住む男・A(当時30)が逮捕された。当時の報道で「女性に妻子の悪口を言われ、カッとなった」と供述しており、ふたりは不倫関係にあったようだ。

ところが同年12月から東京地裁で開かれた公判で、女性は不倫関係と知らずにAと付き合っていたことがわかった。それどころかAが女性に近づいたのは、女性の元夫からの依頼を受けた“別れさせ工作”のためだった。

「女性の尊い命と笑顔を奪ったこと、多大な不幸をもたらしたこと、取り返しのつかないことをしてしまって本当に申し訳ない」と、罪状認否で述べたAは、検察側冒頭陳述によれば、探偵会社の社員となり、別れさせ工作の工作員として働いていたという。二人の出会いは事件の約2年前。女性の元夫からAの勤務する会社に“別れさせ工作”の依頼があった。

「別れさせ工作とは、依頼者の妻を誘惑してホテルに連れ込んだりして、浮気の証拠を作り、依頼者に有利な離婚をさせるという工作である。被告人は道を尋ねるふりをして女性に接触した。このときの偽名は『マツカワ ハジメ』。独身でコンピュータ会社の子会社に勤めていると嘘をつき、女性を騙し、誘惑してホテルへ連れ込むところを別の工作員が撮影した。同年11月、元夫の依頼通り、離婚が成立した」(検察側冒頭陳述)

こうして元夫が依頼する別れさせ工作により離婚に至った女性だったが、Aはその後も偽名を使ったまま、経歴も偽り続け、女性との交際を続けた。妻子のいたAは、女性との二重生活を続けていたが、勤務していた会社を通さず個人で探偵業務を請け負ったことが会社に知られ、解雇されてしまう。このとき女性に、Aが偽名を使っていたこと、本当は“別れさせ工作員”だったこと、そして妻子がいたこと、全てを知られてしまった。

事件前、女性は元同僚に泣きながら電話でこう話していた。

「バツイチだと言ってたのに子どももいた。下の子ができた時、私と付き合ってたの。もう、ご飯が食べられなくて、酒ばかり飲んでる。3人も子どもがいる人とはやっぱり難しいよね」

そして事件当日、女性から別れを切り出されたことから口論となり、犯行に至ったというAは、法廷では泣きっぱなしだった。「黙ってほしい、口を塞いでやりたい気持ちから……」(被告人質問での発言)犯行に及んだと被告人質問で述べ、質問の最後には突然立ち上がり「待って下さい!……ご遺族の皆さん、本当に申し訳ありませんでした!」と遺族に向かって土下座した。

法廷で女性への反省を涙ながらに表現したように見えたAだったが、女性の母親は調書で“Aは信用できない”と明かした。

Aには懲役17年が求刑され、懲役15年の判決が言い渡されている。

●〈事例2〉薬を使って流産させた医師の男

都内の病院に勤める医師だった男・B(当時36)は、2009年1月、妊娠した交際相手に子宮収縮剤を無断で投与し流産させたとして翌年5月に逮捕された。二股交際の末、妻との結婚生活を優先するための行為だった。

事件から数年前に妻と知り合い、交際を始めたBだったが、ほどなくして出会った女性を食事に誘い、二股交際がスタート。妻にも女性にもお互いの存在を隠して同時進行していた。Bは女性に「結婚したい人がいるって両親に話したんだ」と思わせぶりに伝え、女性に結婚を意識させる。いっぽう同時期、妻との結婚の意思を固め、マンションを購入し、入籍の予定を決めた。

するとBは、結婚を意識し始めた女性に対して「親に10億円以上の借金があって結婚できない」などと告げて諦めさせるよう仕向けるが、交際は続き、女性は妊娠に至った。

“妻との結婚が破談になる”と慌てたBは、女性に堕胎をするよう頼んだが、拒否されたため「認知はするし養育費は払う」と結婚はしない旨告げた。だが、女性が子を産めば、いずれ妻の知るところとなり、離婚することになってしまう……そんな思いで、女性を流産させるための薬を調べ、子宮収縮作用のある薬を入手する。

妻との入籍を済ませた直後から、女性に対しては「ビタミン剤だ」などと嘘を告げ薬を飲ませたり、点滴を投与したりすることを繰り返し、女性を流産させたという。

全てを隠されていた妻も調書で「許されることではない。その場しのぎのウソをつき続けた生き方に問題がある。夫にも、弱いからこその優しさがあり、そこが好きでした。でも、今後信じていくのは難しい。どう反省するかを見てから決めたい」と厳しく語った。

弁護人「被害者に対して、どう思います?」

被告「人格的な思いは以前と変わっておりません。ましてや、憎いことはありません。自分は、これまでの生い立ちの中で、正直に、きちんと認めて行動していくことに欠けていました。むしろ、そういうことに気づかせて頂いたと。被害者にご迷惑をかけないと気づけなかった。慚愧に堪えません」

「妻との関係があるので女性とは終わらせないと、と思っていたが、周りに言いふらされるのが怖く、ずるずると付き合っていた」とも調書に述べていた被告人に対しては「生命を尊重すべき医師という立場を利用して犯行に及んでおり、強い社会的非難を免れない」として懲役3年執行猶予5年(求刑懲役5年)の判決が言い渡された。

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