【安田記念 みどころ】 香港最強馬vs日本馬 混沌とするマイル界を制するのは...

左上からソウルラッシュ、ナミュール、セリフォス、ロマンチックウォリアー

【第74回安田記念 見どころ】

2024年、日本競馬のマイル路線は主役不在の混戦模様となっている。

昨年のこのレースの覇者であるソングラインは現役を去り、彼女のライバルだったシュネルマイスターも種牡馬の道へ進んだ。マイルGⅠ3勝を誇るソダシも昨年秋には現役を去り、繁殖牝馬として牧場に戻った。

だからだろうか、今年の安田記念なら勝負になるとして、香港からも2頭がエントリー。

中でもロマンチックウォリアーはこれまでにGⅠ7勝を挙げ、香港最強馬の称号をほしいままにしている実力馬で、今回も上位人気に推されることが予想されている。

安田記念に外国馬が押し寄せるようになったのは90年代から。これまでに延べ56頭が海を渡ってきたが、印象深いのはちょうど30年前のこのレース。

安田記念史上最多となる大挙5頭もの外国馬がエントリーし、1番人気にスキーパラダイス、そして2番人気はサイエダディと外国馬が優勢とされた。その時の日本馬もちょうど、今年のように大将格となる馬が不在だった。

だが、この1994年の安田記念を制したのはこれがGⅠ初制覇となったノースフライト。異国の実力馬を相手に完勝した彼女はこれで自信を付けたか、秋にはマイルCSを制してマイルの女王となった。

ソウルラッシュ (C)SANKEI

あれから30年後の今年。安田記念に挑む日本馬のメンバーはまさにこの時と同じような主役不在の混戦模様。

それだけに新たなスター誕生を期待したいが......その筆頭格としてソウルラッシュを挙げたい。

2歳暮れにデビュー勝ちを収めたが、2勝目を挙げたのはそれから1年後とその歩みは決して順調なものではなかったが、それから怒涛の4連勝。

マイラーズCを制してGⅠ初挑戦となったのが2年前のこのレース。しかしこの時は相手が強く13着に大敗。秋もマイルCSで4着に敗れるなど、マイル王にはあと一歩届かなかった。

5歳となった昨年もそうだった。マイラーズC3着から臨んだこのレースはまたも中団から伸びずに9着大敗。しかし、秋には京成杯AHで重賞2勝目をマークすると、マイルCSで2着。暮れの香港マイルでも4着と気を吐いた。

「春はイマイチでも秋になると活躍する」という傾向が見られたソウルラッシュだが、6歳緒戦となったマイラーズCでは2年ぶりに1番人気に支持されると、それに応えるかのように中団から鋭く伸びて快勝。上がり3ハロン34秒6でこのレース2勝目を手にして見せた。

3度目の挑戦となる安田記念。これまでを考えると期待しづらいように感じるが、2年前は直線で不利があり、昨年は出遅れが最後まで響くなど明確な敗因があったことは確か。

週末の府中は雨模様となっているため、道悪馬場での開催となることが濃厚。そうなれば稍重以上の道悪馬場で4戦全勝という成績も生きてくることだろう。悲願のGⅠ制覇へ待ったなしだ。

マイルチャンピオンシップ ナミュールが代打・藤岡康太騎手でGI初制覇 写真:産経新聞社

忘れてはならないのが、昨年のマイルCSを制したナミュールだ。

デビューからトントンと2連勝を飾り、クラシック候補として期待を寄せられた彼女だったが......桜花賞では1番人気を裏切り10着大敗、オークス、秋華賞では巻き返したとはいえ2着、3着と勝ち切れず。

4歳からはマイル路線へとシフトしたが、どこか勝負弱い面が見え隠れし、昨年のこのレースでも16着。見せ場一つ作れなかった。

しかし昨年の秋、ナミュールは目を覚ました。復帰緒戦となった富士Sで久しぶりの勝利を挙げると、続くマイルCSでは急遽コンビを組むことになった藤岡康太とともに4角15番手から豪快に伸び、上がり3ハロン33秒0という素晴らしい末脚を見せて勝利。

ようやくGⅠタイトルを掴んだ。その後、香港マイル3着、5歳緒戦となったドバイターフで2着と再び輝きを取り戻した。

しかし、前走のヴィクトリアマイルは2番人気に支持されながらまさかの8着大敗。出遅れたとはいえ直線で見せ場を作ることができず、急逝したかつてのパートナーへのはなむけの勝利を挙げることはできなかった。

再び東京マイルを走る今回。昨年は出遅れて後方から動くことができなくなったが、今年はどうか。前走と同じく手綱を取る武豊とともに、リベンジを果たしたい。

2022マイルCS(GI)セリフォスが優勝 写真:日刊スポーツ/アフロ

復活を果たしたいのはセリフォスも同じだろう。

これまで13戦中12戦で芝1600mを走っているという誰よりもマイル戦を愛する男は3歳時にこのレースに挑んで4着。

そして、秋にはマイルCSを制し新たなマイル王としてマイルGⅠ秋春制覇を目指した昨年はソングラインにわずかに届かず2着だったが、実力を遺憾なく発揮してみせた。

しかし、秋以降のセリフォスは今一つだった。連覇を狙ったマイルCSでは3番手でレースを進めたが直線で失速して8着。香港マイルでも伸び脚を欠いて7着と結果を出せなかった。

そうした経緯もあり5歳緒戦のマイラーズCも厳しいかと思われたが......場体を増やして臨んだこのレースでは直線でよく伸びてきて2着に健闘。

勝ったソウルラッシュには届かなかったが、猛然と追い込んできた様子はかつてのセリフォスそのものだった。叩き2戦目となるこのレースを制し、再びマイル王の頂に到達するか。

ロマンチックウォリアー Photo Getty Images

そして最後に香港最強馬、ロマンチックウォリアーを紹介したい。

2年前の香港ダービーを制した直後に挑んだクイーンエリザベス2世Cも難なく勝利してGⅠ初制覇を果たすと、その年の暮れに開催された香港Cでは2着に入ったダノンザキッドに4馬身半という大差を付けて圧勝。

以降香港の中距離会を牛耳り、毎回のように日本馬にとって厚い壁となっていた。

圧巻だったのが昨年の秋。オーストラリアのコックスプレートに挑むと、香港調教馬として初めてこのレースを制し、続く香港近Cではヒシイグアスらを凌いで連覇達成。

そして今年も香港ゴールドCを制してから臨んだクイーンエリザベスCでプログノーシスを力でねじ伏せて勝利。これでこのレースは史上初となる3連覇を達成し、目下4連勝中。しかもそのすべてがGⅠなのだから恐れ入る。

2000m戦が主戦場となる馬でマイル戦は昨年1月のスチュワーズC以来となるが、好位からつけていけるスピードを考えると十分対応可能。日本馬の脅威となることは間違いない。

香港最強馬が来日することで盛り上がりを見せる今年の安田記念。

30年前のあの日のように、新たなマイル王へと羽ばたく日本馬は現れるか、それとも外国馬がその力を見せつけるか......今週も府中のターフから目が離せなくなりそうだ。

■文/福嶌弘

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