世界の技術、大阪に集結 大阪・関西万博、社会課題の解決へ 吉村知事インタビュー

【吉村洋文大阪府知事】

 大阪市の人工島・夢洲で来年4月に開幕する大阪・関西万博。160の国と地域が「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに最新技術を紹介し合い、共通課題の解決を目指す。一方、パビリオンの建設が遅れているほか、会場建設費は当初の見積もりから大幅に増額。会場の「軟弱地盤」を指摘する声も上がる。伊勢新聞社本社(津市本町)を訪れた吉村洋文大阪府知事に、万博への思いや準備の状況などを聞いた。

 ―万博まで残り1年を切りました。注目の一つはパビリオンの「目玉」だと思います。

 今回の万博は単なる展示会や国威発揚型ではなく、社会課題解決型にしようと思っています。テーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。大阪館では、iPS細胞で作った「iPS心臓」を展示します。心臓と同じような動きをします。最先端の技術ですが、今は治らない病気でも将来は治るようになるかもしれません。子どもたちに見てもらいたいです。「令和の人間洗濯機」も展示します。1970年の大阪万博で展示した人間洗濯機は実用化に至りませんでしたが、今回の人間洗濯機は頭も洗えて健康も測定できます。少子高齢化社会の介護という面でも重要な技術です。それ以外にも空中を浮く靴や光る植物も展示します。ただ、これらはあくまで大阪館の話。全体で90ぐらいのパビリオンが出展します。各国のパビリオンはコンセプトを打ち出していますが、目玉はまだ内緒。開幕に近づけば、どんどん発表されると思います。ぜひ楽しみにしてもらいたいです。

 ―パビリオン以外での目玉は。

 来場者が空飛ぶクルマに乗って自由に移動できるようにしたいです。三重でも空飛ぶクルマで離島に行ける時代が来るかもしれません。まだ実証実験ですが、血液の輸送などでも、空飛ぶクルマを使えば非常に早く届けることができます。それから、完全自動運転のバスを会場内で走らせたいです。

 さらに、建築物では大屋根のリングをぜひ見てもらいたいです。建設途中ですが、衝撃を受けました。圧倒的な存在感と荘厳さ。「清水の舞台」と同じ建築技術で耐震性も高い。木のぬくもりと芸術性があります。さまざまな価値観がある中でも世界が一つになろうというメッセージが込められています。

 幅は30メートル、高さは20メートル。世界最大の木造建築物になります。1周が2キロもあります。鳥羽のイルカ島が入るくらいの大きさだそうです。SDGs(持続可能な開発目標)の観点から環境と地球の共存がテーマになっている中、木造建築物が注目されています。日本の木造技術は世界に発信し、共有できるものだと思います。

 いずれにしても、社会課題を解決するため、各国が最新の技術を持ち寄り、未来社会を考える意義を共有できればと思います。見どころは満載。ぜひ足を運んでもらいたいです。

 ―一般の来場者が空飛ぶクルマに万博で乗れるようになりますか。

 ただ、数が多いのでどういうことになるのかは分かりませんが、来場された方に乗ってもらえるように準備を進めています。

 ―一方で、工事期間の遅れが心配されます。軟弱な地盤の埋め立て地からの移転を提言する声もあります。現場ではガス爆発が発生し、安全への懸念があります。どのように不安を払拭していきますか。

 安全対策は最も重要だと考えています。ガス事故については原因を解明し、再発防止策を取った上で工事を再開しています。地盤は決して弱くありません。近隣の埋め立て地では、高さ256メートルのビルが何の問題もなく立っています。会場の夢洲は災害対策を考え、海面から10メートルの高さにしています。南海トラフ地震で津波が来ても対応できます。ただ、どんな災害が起こるかは分かりません。8月には、万博開催中に大規模災害が起きた場合にどう対応するかの計画を作る予定です。

 ―埋め立て地という性質上、工事が遅れているわけではありませんか。

 各国が独自に建設する「Aタイプ」のパビリオンが、かなりタイトになっているのは事実です。各国の事情や契約、ルールで定まるので、どうしても日本のようなスピードでは進まないところがあります。そもそもドバイ万博がコロナで一年ずれたことで、スタートが遅れています。ただ、開幕までには問題なく間に合わせるように対応しています。53カ国がAタイプ、100カ国は日本がパビリオンの外枠を準備する「B・Cタイプ」。地盤が(遅れに)関係しているわけではありません。

 ―大屋根リングの強度は。

 すごく頑丈で、清水の舞台と同じ工法で造られています。地震大国で培われた耐震性の高い工法です。仮設建築物としての許可は下りているんですが、恒常的な物として残していくために必要なのは、耐火性の方なんです。どう残そうか、という議論も始めています。僕は一部でも何らかの形で残したいと思っています。それぐらい素晴らしい物が出来上がります。全て撤去するのはもったいないという声が間違いなく出ると思います。

 ―2018年時点で1250億円だった会場建設費の見積もり額が、現在では2350億円に増えています。県が関西パビリオンに出展する費用も、資材費の高騰などによって当初の見込みよりも高くなっています。どう対応していきますか。

 大阪府や大阪市の財政を立て直し、自身の身を切る改革もして財源を生み出してきました。税に厳しい感覚を持っています。ただ、今回の資材費高騰は専門家でも予測が難しかった。ウクライナ戦争や円安などにより、ここ数年で資材費は1.3倍に高騰しています。職人さんの人件費も。仕様変更などで削減していますが、価格に反映せざるを得ない実態があります。ただ、第三者の専門家による費用監視委員会を立ち上げ、かなり厳しく見ながら進めてもいます。資材費の高騰を前提に予算を運用しているので、これ以上増えることはないと思っています。3兆円とも言われる経済効果を最大限に発揮できるよう、取り組みたいと思います。

 ―収入をしっかり確保することも必要だと思います。日本国際博覧会協会は1400万枚の前売り入場券を販売する想定のようですが、現状で販売したのは200万枚。開幕まで1年を切った中で、吉村知事の手腕も問われると思います。

 運営費を賄うチケット収入は重要ですが、販売に大事なのは万博の中身です。万博に行ってみたいと思ってもらえるような具体的な中身を示すことが重要です。まだ万博に具体的なイメージが湧かない部分もあると思いますが、万博の意義を具体的に伝えていきたいです。チケットの買いやすさも重要。今はインターネットでしか購入できないので、高齢者の方々は買いにくいと思います。協議をしていますが、例えばコンビニで買えるようにすることなど、身近で手軽に買ってもらえるようにしようと思っています。

 ―直近で三重県内を訪れたのは。

 20日前、息子や友達の家族らと鳥羽に行きました。息子に海釣りの経験をさせたいと思ったんです。いかだ釣りをしましたが、本当に面白かったです。アジが80匹釣れました。ヒラメも。非常に楽しい経験ができました。初めて来たのは小学生の時、修学旅行でしたね。二見浦に行きました。伊勢志摩は風光明媚(めいび)で素晴らしい。海の幸、山の幸も豊富です。さらには歴史も深い。伊勢神宮があって。海外からもお客さんが来始めたと聞きました。世界から見た三重の素晴らしさを発信すれば、どんどん広がっていくと思います。

 ―三重県の印象はいかがですか。

 大阪の近所で、お隣ぐらいの感覚だと思っています。自然や歴史があって住みやすい。大阪にも名古屋にも近いことを生かして人を呼び込む戦略を立てていけば良いと思います。万博の関西パビリオンに出展する三重県のブースでは、ミキモト真珠島の「自由の鐘」が展示されると聞いています。国内外から2800万人が訪れる万博は、三重の魅力を発信する絶好の機会でもあります。パビリオンをきっかけに三重に行こうとなれば、三重の活性化につながると思います。

 ―万博の開幕に向けた県民へのメッセージをお願いします。

 来年の今ごろには、大阪で万博が開催されています。こんな機会はそうそうありません。160カ国が一堂に会し、世界の社会課題を解決するために技術を持ち寄り、未来社会を共に考えます。損はさせない万博にします。前売り券の値段以上に価値があります。各国の個性豊かなパビリオンが立ち並びます。世界の多様な価値観と文化を体験してもらいたいです。皆さんの来場をお待ちしています。

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