初来日前…若き日の〝狂虎〟タイガー・ジェット・シンは正統派だった

バーベルで首を鍛える25歳のシン。見事な肉体だ

【昭和~平成スター列伝】〝狂虎〟タイガー・ジェット・シンは、4月に政府から2024年春の叙勲授賞「旭日双光章」を贈られ、大きな話題を呼んだ。〝燃える闘魂〟故アントニオ猪木さんの最大のライバルとして1973年から数々の死闘を展開したが、実は新日本プロレスに来日前、カナダで将来を期待された正統派レスラーだった。1967年12月22日付本紙には若き日のシンが初登場している。

「カナダマット界で2年間の間に頭角を現し、スターの座を獲得したのがヒンズー・ハリケーン、本名タイガー・ジット・シンだ。最強レスラーと呼ばれた闘聖グレート・ガマの流れをくみ、188センチ、113キロ。まだ25歳で強じんな足腰、体全体が柔軟でスプリンターのようなバネを秘めている。インドのパンジャブ地方出身でプロレスラーになるために生まれてきたような男だ」と特派員は絶賛している。

米修行時代のジャイアント馬場も指導した名伯楽フレッド・アトキンスがトレーナー兼パートナーを務め、20キロの減量を命じると、連日砂浜を13キロランニングし、アトキンスの指導の下、猛トレーニングに励んだという。試合ではシングルでザ・ビースト、ホイッパー・ビリー・ワトソン、ブルドッグ・ブラワーら強豪と戦い、タッグではアトキンスと組んで週6試合を戦ったという。同年6月にはジョニー・バレンタインからUSヘビー級王座を奪取。年末にはアトキンスとカナダタッグ選手権を獲得した。

「カナダ・トロントの専門誌は『鎖から解かれて獲物に突進する飢えた虎』と形容し、必殺のコブラツイストを〝地獄の責めワザ〟と表現している。シンは日本人をしのぐ殺人的空手を持ち、首を叩きのめす。25歳のインドの若者ヒンズー・ハリケーンの前途は洋々と開けている」(抜粋)

シンは日本では無名の存在だったが、カナダではメインイベンターの地位を確立し、ジン・キニスキーのNWA世界ヘビー級王座、ブルーノ・サンマルチノのWWWF世界ヘビー級王座にも2回挑戦している。そして73年5月に衝撃の新日本プロレス登場を果たし最凶の〝狂虎〟として猪木と歴史に残る抗争に突入した。

カナダ式背骨折りやブレーンバスターなど正統派の技も得意としたシンだが、カナダで正統派としての基礎を叩き込んでいたからこそ、猪木との命懸けの壮絶な抗争で一時代を築き上げられたのだろう。 (敬称略)

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