海外の女性の間で「禁欲」が流行中。男性とのセックスを断つ「ボーイ・ソバー」、その理由とは

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セックスは素敵な体験になりうる。

逆に、セルフケアとしてセックスを断つ「禁欲」を試したことはあるだろうか?

マッチングアプリでのあまりにもひどい経験に疲れ、短期間の禁欲を試している女性たちがいる。一部の人たちはそのトレンドを「ボーイソバー(男子断ち)」と呼んでいる。

専門家たちは、何年も前から「セックス不況」を観察してきた。調査によると、ミレニアル世代とZ世代のセックスの回数や相手の人数は、その両親や祖父母の世代の時よりも減っている。

異性愛者の独身女性の間では、カジュアルセックスへの幻滅が、セックスや男性から長期離れる主な理由になっている。

「多くの男性は女性を性的な対象として扱っていて、ただ『ヤレる』か試すためだけに私と寝ようとする男性には、本当にうんざりしています」

こう語るのは、1年半禁欲生活を続けている31歳のソフィーさんだ。

「マッチングアプリはデートをダメにしました。本当の恋愛関係を築こうという意図は消えて、男性の期待はカジュアルセックスであることが新常識となっています」

セックスや平日夜のがっかりするようなデートで時間を無駄にする代わりに、ソフィーさんはその時間を自分の目標を達成するために使っている。

それは、マッチングアプリが勝ち目のないゲームのように感じていた彼女にパワーをくれた。男性中心ではなくなった生活の中、ソフィーさんは心の平穏を楽しんでいるという。

「この1年半で、シングルで禁欲を続けたいという気持ちがより強まりました」

反マッチングアプリの動きが広がっている

シングル主義や反マッチングアプリの動きが広がっていることを疑うなら、マッチングアプリ「Bumble」が禁欲する人を批判した広告への多くの女性の声を見てみるといい。

「禁欲が答えにならないことは、あなたも分かってるはず」

「出会いを諦めて尼になるなかれ」

Bumbleがロサンゼルスに掲げた看板広告のキャッチコピーだ。

TikTokでは多くの女性がすぐに反応。禁欲は多くの女性が支持する正当な選択であることをBumbleは理解しておらず、その顧客層の半分を不快にさせた、と広告を批判した。

「女性の皆さん!家父長制が怯えてるよ!私たちを失ってパニックになってる!」とあるインフルエンサーは投稿。

俳優のジュリア・フォックスさんも、「禁欲生活を2年半続けてるけど、正直言ってこれよりいいことはない」とSNSに投稿した。

Bumbleはその後、広告について「現代のデートに不満を抱いているコミュニティに寄り添おうとした」が、誤った試みだったと謝罪。禁欲は多くの人にとってトラウマに対する反応であると認識し、DV被害者サポート団体に寄付を行った。

Bumbleのこの広告は、現代のデートに疲弊した人たちを揶揄したものだろう。女性たちは「デートに嫌気がさしたから修道院に入ろうかな」などと、実際に談笑しているのだ。

しかし、このメッセージを発信したのが、顧客を自社のサービスに留めることで利益を得るマッチングアプリだったため、無神経で見下したような印象を与えた。そして、そのメッセージは主にカジュアルセックス目的でアプリを利用する男性の私欲にまんまとはまった。

禁欲を実践したことのあるデートコーチのケルシュさんはこう語る。

「Bumbleは利用者から主体性と選択肢を奪い、代わりに女性たちに何をすべきか口を出し、的を大きく外しました」

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ある意味、女性がデートしたがらないのはマッチングアプリのせい

多くの女性にとって、デートをしたくない気持ちはマッチングアプリでの酷い経験に結びついている。2024年3月に行われたForbes Healthの調査によると、マッチングアプリを長期利用している女性の約80%が、マッチングアプリの利用にバーンアウトや疲労を経験したと答えている。

送りつけられてくる迷惑なペニス写真や、疑わしい身元調査、アプリが私たちの恋愛をゲーム化したことへの幻滅まで、疲労の理由はたくさんある。

マッチングアプリは私たちに「選択のパラドックス」を提供し、スワイプされるのを待っている良い相手がすぐそばにいる、と信じ込ませる。

アプリ上でどんな人と出会うかへの恐怖もある。男性は女性の偽プロフィールを心配するとのジョークがあるが、女性は殺されやしないかと心配する。

「男性 vs クマ」議論を考える

Bumbleの広告と、マッチングアプリを通してデートすることに対する女性の不安についての議論が広がったのは、ちょうど「男性 vs クマ」のTikTokミームが話題になったときだった。

「森の中で1人だったら、知らない男性かクマ、どっちと遭遇したい?」という質問だ。多くの女性は迷いもなく「クマ」と答えた。

NFLカンザスシティ・チーフスのハリソン・バッカー選手が5月、大学の卒業式で「女性は専業主婦になるべき」とスピーチしたことに批判が上がった際、この議論が再浮上した。

ある女性は「ハリソン・バッカーのような男性がいるからこそ、私たちはクマを選ぶことになる」とXに投稿した。

客室乗務員として働くデスティニーさんもクマ派だ。デスティニーさんがBumbleの広告を不快に感じたのは、禁欲、少なくとも一時的な禁欲が、身の安全を心配する彼女や友人たちにとっての実際の答えだからだ。

「アプリで知り合った男性と数えきれないほど危険な状況に置かれ、とても不快な思いをしたことがある」と話すデスティニーさん。Bumbleで出会った男性との2回目のデート中には、冗談で「収入以外の話をしない?」と言ったところ、男性は怒ってハンドルを叩き始めたという。

デスティニーさんは「親密さは神聖なもので、そこに感情がなければ楽しくない」と感じており、何年もカジュアルセックスをしていないという。禁欲はもはや自己防衛の1つの形なのだ。

安全面への懸念(そしてアメリカで増加する性感染症件数)だけでなく、マッチングアプリは人間のつながりによる魔法を消してしまったとデスティニーさんは語る。

「アプリは人を『使い捨て』のように感じさせ、男性はアプリ上で現実の世界よりもいやらしい行動をとる」と話し、「なぜ私や他の女性たちは、常に見下され、怖い思いをさせられるために多くの労力を費やさなければいけないの?」と苛立ちを見せた。

「ボーイ・ソバー」というデート用語を作り出したコメディアンのホープ・ウッダードさんは、女性が男性とのデートを避けることは、女性が男性の感情や思考、気持ちをセックスで受け入れる責任がある、という文化的信念に対する対抗手段だとNew York Times紙に述べた。

「私は自分自身と、これまで自分で選ばなかったと感じるセックス全てに怒りを感じる」と同紙の2月のインタビューで述べ、「今までで初めて、自分の体の所有権は私にあると感じます」と語った。

「ロー対ウェイド判決」が覆された後、禁欲は安全な選択肢

他の女性たちは、禁欲を選択する動機の一部は、最高裁が「妊娠中絶は女性の権利」と認めた「ロー対ウェイド判決」が覆されて以降、多くの州で性と生殖に関する権利が制限されていることへの懸念にあるという。

禁欲すること、少なくともセックスする相手を慎重に選ぶことは、ある種、理にかなっている。

「私たちを保護してくれる制度がない今、禁欲は私たちが自らの力を取り戻す手段なのです」

企業家のレベッカさんはそう話す。性的被害、カジュアルセックス文化、性と生殖に関する権利の後退を経験したことを受け、レベッカさんは3年間禁欲生活を続けた。

「それはセラピーと共に、再び自分の身体と繋がり、力を取り戻し、私を癒す術でした」

レベッカさんはその後、あるマッチングアプリで誰かと出会い、禁欲生活に終止符を打った。しかしその関係も終わり告げ、そもそもなぜ禁欲を選んだのかを思い出すこととなった。

そうした個人的な経験から、レベッカさんはBumbleの広告に失望した。

「女性が常に最初のアクションをとるという、女性のエンパワーメントのためのマッチングアプリとして始まったのに、今は金銭的利益のために女性を搾取する上場企業に変わってしまいました

禁欲によって多くのことを成し遂げられる

ニュージャージー州に住むタミーカさんは、Bumbleの広告は、禁欲をしている人たち(彼女たちは自分たちのことを“closed leg community=脚を閉じたコミュニティー”と呼んでいる)を軽視しているとTikTokで批判した多くの女性たちのひとりだ。

タミーカさんは自身の動画の中で、がっかりするようなデートや困惑するようなカジュアルセックスが続いた後、心を整理するために2016年に1年間の禁欲生活をしたと語った。

「私はセックスによって愛着が沸くタイプだと気づいたんですが、それはその人が好きだからなのか、それともルックスに惹かれているからか理解できなかったんです」

セックスに「ノー」と言う決意をしたのは、成長しない男性たちを罰するためではない。「それは100%、ベストな自分になるため」と断言した。

タミーカさんのデートなし、セックスなしのルールは1年間続いたが、今の婚約者に出会っていなければもっと長く続いただろう。

「女性が人生で望むものを手に入れるためにどれだけ集中できるかを、人々は過小評価していると思う」とタミーカさんは話し、カジュアルセックス文化がその邪魔になることもあると説明した。

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ライフスタイル・インフルエンサーであるタリアさんは、2019年に最後の恋愛が終わった後、3年弱禁欲を貫いていた。タリアさんは30代前半で、自分を取り戻し、人生の中で何を望んでいるのかを考える時間を必要としていた。コロナ禍が始まり、禁欲は予定より少し長引いた。

「相手が私を新型コロナに感染させない、と完全に信頼できるような環境でなければ、デートしたくないと即座に思ったんです」

タリアさんの人生を豊かにしてくれるような出会いを提供してくれなかったため、彼女はマッチングアプリを使うのをやめた。

「マッチングアプリはとても浅はかで退屈なものになってしまった。お客が戻ってきてこそのビジネスなのに、お金しか見ていない。カジュアルセックスはその瞬間はクールだけど、長期的には満たしてくれない」

現在、タリアさんは女性に禁欲生活のアドバイスを紹介するコンテンツを制作している。1番のアドバイスは「時間を有効に使い、仕事や個人的な目標に一生懸命励むこと」。デートせず目標に集中したことで、タリアさんは2020年に家を購入。仕事も絶好調だったという。

性欲のピーク期にセックスを断ったことをタリアさんは後悔しているだろうか?
タリアさんは「全くしていない」と断言する。

「自己意識がより強まったし、気が散ることなく、多くのことを成し遂げることができました」と語り、こう加えた。

「恋愛に何を求め、何を求めていないかがはっきり分かったし、孤独を愛することを学んだ。禁欲生活以降は、デートするのも楽になりました」

デートコーチのケルシュさんは、結局のところ、カジュアルセックスやマッチングアプリから離れたい女性たちの動機は1つではなく、多種多様な理由があるという。

それは断固たる構えでなくても良く、数カ月だけでもいい。もちろん男性も一時的に禁欲を選択することもできる(相手が見つからないから不本意に禁欲生活を送るのではなく、意図的にセックスをしないことを選ぶ、という意味で)。

「これは個人的なものですが、クライアントや友人から聞く最も一般的な意見は、マッチングアプリは浅はかで、時間を奪う、というものです」

人肌恋しかったコロナ禍が明け、人々はセックスやデートにおいて、量よりも質や深み、繋がりを切望しているとケルシュさんは話す。

「もしかしたら、『less is more(少ないほど良い)』という時代に突入しているのかもしれません。20人との繋がりや小話は、少数の人と深く知り合うほど満足を与えてくれるものじゃないのです」

ハフポストUS版の記事を翻訳・編集しました。

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