作家・阿川佐和子氏が提案!〈あまり親しくない人〉との会話で、話題に困ったときに使える“渾身のひと言”【会話術】

初対面の人との会話で、「何を話せばいいのかわからない」「緊張してしまう」という人も多いのではないでしょうか。しかし、「沈黙の時間でも、無理して話す必要はない」と、作家の阿川佐和子氏はいいます。阿川氏の著書『話す力 心をつかむ44のヒント』より、初対面の人との会話を楽しむためのコツを、詳しくみていきましょう。

沈黙は「悪」でも「マナー違反」でもない

ときどき、さほど懇意ではない方と車で同乗することになると、さあ、車中でどんなやりとりをしようかと、かすかに緊張します。

私の場合は、やはりゴルフ場へ行くとき、そんな状況になることがよくあります。家がお近いようですから、なんならウチの車でご一緒にと誘われて、お迎えにきていただく。それが運転手さんつきの立派な車だったりします。

「どうも恐れ入ります。今日はよろしくお願いします」

恐縮しつつ、いざ後部座席に並んで座ってみたものの、しばし沈黙。なにか声をかけなければ。何の話題にしようかな。外の景色に目を向けながら、頭をグルグル大回転させる。ふと思いつき、

「今日のゴルフ、どうやら雨の心配はなさそうですね」

まずは天気の話題あたりから。「そうですね。午前中、ぱらぱらっと来るみたいですが、午後は晴れそうですね」

そこでいったん休止。ううう。続かないぞ。しばらくの間ののち、

「ゴルフはいつも、どちらでされることが多いんですか?」

話題をゴルフにしてみよう。

「昔はよく千葉のほうに通っていたんですが。もう3年もやってないんですよ。だから今日はまったく自信がなくて」

「いやいや、久しぶりにやるほうが調子いいって、よく言いますよ」

根拠のない慰めの言葉を吐いてみたものの、お相手からは「そうですかねえ」と苦笑いしか返ってこない。

なにか他に面白い話はなかったかなあ。こういうときに限って何も思いつかないぞ。相手の話の中から話題を拾おうにも、ここまで交わす言葉が少ないと、拾いようがない。と、そんな気まずい空気になることは誰にでもあるものです。

でも最近、思うのです。そういうときは無理をしなくていいんじゃないか。そう自分に言い聞かせます。沈黙は、決して悪でもマナー違反でもありません。

人にはそれぞれ「話すリズム」がある

人にはそれぞれのリズムというものがあります。私のような喋り好きの人間にとっては長い沈黙に感じる時間でも、相手にしてみれば、心地よい「間」となっていることがあるのです。相手が自分に対して敵意を抱いているというならいざ知らず、とりあえず友好的な関係であると双方了解している以上、ときの流れに身を任せ、特段に話すことが思いつかない場合は、しばらく外の景色でも楽しんでいればいいのです。

こんなことを言うと、「話す力」の本と称して身も蓋もないように思われるかもしれませんけれど、黙っていても問題のないときがあります。

相手も、「どんな話をしようかなあ」と探っている最中かもしれません。話題を探るのに時間がかかる人もいます。あるいは少し黙っていたいという気分かもしれません。眠くて眠くてしかたがない場合もあるでしょう。必ずしもポンポン言葉が途切れることなくスピーディに行ったり来たりしなければいけない、なんてことはないのです。自分のリズムを押しつけるより、相手のリズムを察するというのも、会話のうちと考えてみてください。積極的に社交しなければいけないという義務感を放棄してもいいときがあるはずです。そのうちに、

「あ、富士山だ!」

窓から外を見て、どちらからともなく、自然に言葉が出てくることがあります。

「ホントだ。きれいですねえ」

富士山の美しさに共感したことをきっかけにして、自然に話が広がるかもしれません。

「富士山って、登ったこと、ありますか?」

なんとなく思いついた質問をしてみたら、意外にも、

「はい。実は10回、登ったことがあるんです」

「そんなにぃ⁉」

そこからは、しめたもの。いくらでも質問が浮かんできます。

10回も? どうして登るようになったんですか? 頂上まで行ったらどんな感じですか? 一人で? 富士山って簡単に登れると思ったらいけないんですよね。どれぐらいの装備で行くものなんですか?

登ったことのない私はどんどん疑問が湧いてきます。

そんなタイミングも見つからず、こちらも話題を探すのに疲れたら、奥の手があります。

「どうぞ私にお気遣いなく。お休みになってください。私もちょっと寝ますね」ってね。車で移動中、あるいは列車で隣り合わせになったときなど、話題に困ったら、このひと言をオススメします。

阿川 佐和子
作家

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