野球に打ち込んだ“筋肉ムキムキ”中2少女が運命の芸能スカウト “復讐JK”の怪演が話題に

池田朱那は“フルスイング”の役作りで演技力を高めている【写真:冨田味我】

おのぼりさん状態で母親と歩いていたら竹下通りでスカウト 大の巨人ファン、始球式でも話題 池田朱那

ただひたすら野球に打ち込んでいた女の子が、「女優さんになりたい。お芝居をやりたい」。中2で運命のスカウトを受け、もう1つの憧れの舞台へ――。快進撃を続けている若手俳優がいる。池田朱那だ。テレビ朝日系連続ドラマ『東京タワー』(土曜午後11時)にレギュラー出演。家庭教師で勉強を教わる男子大学生と母の不倫を目撃し、戦慄(せんりつ)の復讐を仕掛ける女子高生役の“怪演”が話題をさらった。小学1年から7年間野球に取り組んだ経験から“令和の野球少女”の愛称を持ち、普段は明るさ全開のキャラで、コツコツと役作りに励む努力家でもある。22歳の新星の素顔とは。(取材・文=吉原知也)

カメラのレンズを向けると、バラの花の前で憂いの目線を投げかけたと思えば、ガールズアイドルグループが大好きだけにハッピーな笑顔全開でキュートなポーズを決める。表情豊かで、人懐っこさがにじみ出ている。

そんな彼女は、出演中のドラマ『東京タワー』で、打って変わった演技を見せた。MEGUMI演じる母・喜美子と、Travis Japanの松田元太演じる大学生・耕二の不倫を帰宅時に目の当たりにしてしまい、普通の女子高生の比奈が豹変してしまう。そんな難役を見事に演じ切ったのだ。

「『ここまでやるの?』。脚本をいただいた時、最初にこう思いました。せりふにもあるのですが、比奈は『2人の関係を壊したい』と次々と行動に出ます。でも、本当にこんなことが起きたとすれば、心が壊れてしまうほどの強いショックとトラウマを受けると思います。比奈がそうなってもおかしくないと感じました」

復讐心にとらわれる恐怖じみた役柄について、こう振り返る。

役作りはいつも全力投球だ。母親役のMEGUMIのことを深く知ろうと、過去のインタビュー記事などを読み漁り、インスタグラムの写真をチェック。人となりを“徹底取材”した。「MEGUMIさんのことを本当の母親のように思うこと。まず、私の心をそう作っていく作業に取り組みました。撮影に関しては、実際にあんな経験をする高校生の女の子はほとんどいないと思うので、撮影自体を自分自身の体験だと捉えることにして、そこで湧き出る感情や表情を大事に演技することに努めました」。論理的に考え、撮影に臨んだ。

笑顔なのに笑ってない目、背筋が凍る追い詰め方なのにかわいらしいしぐさ。まさに“狂気”を感じさせた。「監督さんから、耕二君の前では心の動揺を見せないようにと指導をいただきました。視聴者の皆さんも、自分自身でさえも『この子、強い子じゃん』と思うぐらいに、自分をだます演じ方を意識しました。比奈は自分自身も偽るのですが、このパートの終盤にお母さんに自分の気持ちをぶつける場面があります。『比奈はやっぱり高校生の女の子だったんだ』と思っていただけるかもしれません。そのシーンの撮影の時のことです。立ち位置などを確認するだけのリハーサルで、私自身が言葉に詰まってしまい、MEGUMIさんも泣かれました。全員が役に入り込んでいたのかなと思っています」。こうして撮影秘話を聞くと、“母との対峙(たいじ)シーン”はもう一度見たくなる。

人生と切っても切り離せないのは、野球だ。祖父、父と巨人ファン一家に育ち、2歳上の兄の影響で、幼い頃から自然と野球に興味を持ち始めた。小学1年の時に、兄と一緒の野球チームに入った。ショートのポジションを中心に活躍。日々走り込み、バットを振り、白球を追いかけた。自慢の兄は地元一の選手で、「フォームもそっくり」になってしまうぐらいに、兄の背中を追い続けた。

一方で、年頃になってきて、もう1つの夢も芽生えた。芸能界への憧れだ。中学1年で野球に区切りを付けた。ある決意を固めた。「7年間ずっと野球一筋でやってきたのに、親、監督さん、チームメート、みんなを裏切ることになるかもしれない。そう思われないように、女優さんになる夢を実現させないと」。バットを置き、心機一転で歩み始めた。

たくさんの夢を語ったブレーク俳優の池田朱那【写真:冨田味我】

「努力の積み重ね方も野球に教えてもらいました」

夢見る中学2年の少女に、すぐに運命の瞬間が訪れた。「群馬生まれなのですが、母と『とりあえず東京へ行こう』となったんです。それで行くなら、芸能界の空気が感じられそうな原宿かなとなって(笑)。行き方も路線図もよく分かっていなくて、群馬から東京に出てくるまでに疲れ切っちゃう。そんな状況でした」。東京・原宿の竹下通りをおのぼりさん状態で母親と歩いていたら、声をかけられた。スカウトをしたのが、現在の所属事務所ボックス・コーポレーションのスタッフだった。

「日焼けで真っ黒で、私は筋肉質なので野球の名残でムキムキだったのですが、こんな私によくお声をかけてくださったと今でも思っています」。芸能界への道が開けた。レッスンを重ね、高校から上京。2016年にデビューを飾り、今年2024年は夏公開予定の映画『威風堂々~奨学金って言い方やめてもらっていいですか?~』など、短編を含む映画主演3本、ドラマも続々と出演が決まっており、ブレークの兆しが高まっている。

もちろん、野球との関わりはずっと大事にするつもりだ。野球がテーマのショートドラマや野球ゲームCM出演でバットを力強く振り、全力プレーに取り組む姿を披露。2年前の夏には、阪神甲子園球場でのファーストピッチセレモニーに参加し、夢の甲子園のマウンドに立った。それに、巨人は大ファンの阿部慎之助が今季から監督を務めており、先日は東京ドームに観戦に行き、巨人ナインのプレーに元気をもらった。「小学5年の時に人生で初めてファンレターを送ったのは、阿部慎之助選手です。いつか東京ドームで始球式ができたら、その時に阿部監督がキャッチャーをやってくださったら…私の大きな夢です。それに、これからも野球のお仕事があればすごくうれしいです」と目を輝かせる。

野球を通して学んだことは、演技の世界で奮闘を続ける今もしっかりと生きている。「野球をやっていたからこそ、今の自分があると思っています。毎日の練習はつらいことも多かったので、当時の自分によく続けてくれたとお礼を言いたいです。以前いただいた野球のお仕事の前に、地元に帰って当時の野球仲間に声をかけて、キャッチボールを一緒にやってもらって肩を作りました。撮影では監修の方からバッティングフォームを褒めていただいて、本当にうれしかったです。今もバッティングセンターに行ってバットを振ることもあります。野球を通して、あいさつから始めるといった礼儀正しさ、人間関係について学びました。それに、負けず嫌いの精神が身につきました。努力の積み重ね方も野球に教えてもらいました」。野球への感謝も込めながら語った。

役者としての将来像を力強く描く。西川美和監督作品への出演という熱い希望を持っている。「毎回100パーセントの自信を持って演じますが、完成した作品を見ると、100パーセント満足できたかと言われると、そんな作品はなかなかないです。それに、視聴者の皆さんの評価はそれぞれ違ってきます。形として残る評価は何かと考えたら、賞なのかなと。いつか演技界の賞を取れたらとずっと思っています。もし賞をいただければ、もっと自信を持ってお芝居に臨めるんじゃないかなと考えています。それに、自分の武器である野球をこれからも生かしていきたいです!」と前を見据えた。

□池田朱那(いけだ・あかな)2001年10月31日、群馬県生まれ。小学1年から中学1年まで野球に打ち込む。2016年にデビューし、映画やドラマ、CMなど出演を重ねている。趣味は読書、映画鑑賞、料理。NiziUの大ファン。吉原知也

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