【サッカーにVARは本当に必要か】検証(2)FIFA発表「最新テクノロジーFVS」導入とVARの「害悪」、大迫勇也の「幻ゴール」

FIFAは新システムの導入を検討しているという。ヴィッセル神戸‐京都サンガF.C.戦では、VAR判定で大迫勇也の得点が認められず、その後、PKを決められずに神戸が敗れた。撮影/中地拓也

サッカーはピッチ上の技術や戦術のみならず、テクノロジーも日々、進化している。一方で、VARなどの技術の介入、乱用には批判、疑問の声も多い。イングランドで出たVAR廃止論を糸口に、サッカージャーナリスト大住良之がサッカーにおけるテクノロジーのあり方を考える。

■両チーム2回ずつリクエスト権のある「新システム」

そうした中、このニュースとタイミングを合わせるように、国際サッカー連盟(FIFA)が、下部のリーグにも広めようと、新しいシステムをテストしていることを発表した。正式認可の直後の2018年ワールドカップでVARを使い、その成果を誇って以後の大会でも使い続けているFIFAである。新しいシステムを「フットボール・ビデオ・サポート(FVS)」という。

複数台のカメラで撮影された映像を使って正しい判定に導くという点ではVARシステムと同じだが、FVSシステムでは、映像を見て判定をチェックし主審を助ける「ビデオ・アシスタント・レフェリー」を置かず、ビデオ・オペレーターのアシストを得て主審自身が映像を見て最終判断を下す。映像チェックは、両チームが1試合に2回ずつ権利を持つ「リクエスト」によってのみ行われる。

■「一般人や学生の大会でも使える」と胸を張るも…

対象となる事象は、「得点」「PK」「退場」「カードの人間違い」の4種類で、VARシステムと同じだが、リクエストによって判定が変われば「2回」の権利は維持され、判定が変わらなければ1回分の権利がなくなるという、他の競技でよく見られる形式である。

FIFAは5月上旬のユース大会でカメラの台数を3~7台にするなどさまざまなテストを行い、非常に良い結果を得たという。そして「アマチュアや学生の大会でも使える」と胸を張るが、実際にどれほどの経費がかかるのか、明らかにはしていない。

だが、「グラスルーツ(草の根、一般大衆のレベルで行われる運動)」にまでビデオ判定を持ち込むことに大きな疑問は残る。ワールドカップやプロの1部リーグには、1得点、1勝ち点に大きな「経済的意味」すなわち金銭価値が直結する。だからVAR導入は仕方がないと考えているファンも多いに違いない。しかし、グラスルーツで厳密に「正しい判定」を求めることに、どんな意味があるのか。

■VAR導入よる「サッカー文化」への寄与と害悪

2018年ワールドカップ終了後、FIFAは「キー・インシデント(試合の行方を左右するような重大な事象=得点、PK、退場など)の判定の精度が、「95.6%から99.35%に上がった」と胸を張った。その差は「3.75ポイント」である。言い換えれば、「キー・インシデント」100回の判定で、VARによって「間違い」が正されたのは、4回弱ということになる。

そもそも、「レフェリー(主審)」とは、試合する両チームが判定をお願いしているものであり、その判定は「神聖」などという性質のものではないが、間違いなく「尊重」すべきものであるというのが、サッカーという競技の根本的な精神ではないか。そこに勝負だけでなく金銭がからみ、それが途方もない額になって恐れおののき、サッカーの根本精神を忘れて「正しさ」を求めた結果がVARの導入だった。VAR導入の思想が、サッカーという文化にどれだけ寄与しているか、むしろ大きな害悪になっているのではないかと思える面も少なくない。

© 株式会社双葉社