令和にガラケー愛用・おにぎりは鮭一択・愛車は30年カローラ…変化を毛嫌う「年収550万円の55歳おひとり様」、アパート取り壊しで恐る恐る住宅購入→老後恐怖で「NISA」を始めて大惨事のワケ【FPが解説】

(※画像はイメージです/PIXTA)

NISAの拡充で拍車がかかる投資ブーム。しかし、依然、金融リテラシーが低く、甘い投資の儲け話に騙されてしまう人はあとを絶ちません。本記事ではAさんの事例とともに、安易な投資の危険性について、長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。

投資ブームも、金融リテラシーは低いままの日本人

ここ数年の株式市場の活況によって、個人投資家による投資ブームともいえる状態が続いています。2024年には日経平均株価が34年ぶりに過去最高額を更新。政府は「貯蓄から投資へ」の掛け声のもと、少額投資非課税制度(NISA)をさらに拡充しました。それらによって投資に興味を持つ個人が急増しています。

日本証券業協会「NISA口座開設・利用状況調査結果(2023年9月30日現在)」によると、証券会社におけるNISA口座数は2023年9月末の時点で1,356万口座。2014年末は513万口座でしたが、つみたてNISAが始まった2018年から現在まで毎年大幅に増加し続けている状態です。

そのうち投資未経験者の割合は一般NISAで52.9%、つみたてNISAにいたっては90.9%と、いかに投資初心者が多いかがうかがい知れます。政府の狙いどおり、日本国民は貯蓄から投資へと興味を持ち始めているのは間違いないでしょう。政府はNISA口座を3,400万口座にしようと目標を掲げています。

それだけを聞くと、日本人の金融リテラシー(金融知識)のレベルも急激に高くなっているように感じるかもしれません。しかし現状はまったく異なります。投資熱に比べ金融教育はさほど進んでいるとはいえない状況なのです。

投資詐欺に騙されまくる日本人

その理由のひとつとして、投資詐欺の被害件数の多さが挙げられます。

日経平均株価の上昇に合わせる形で、SNSなどでの投資詐欺の被害件数が増えています。認知されているだけでも2024年1月から3月だけで1,700件発生。被害額は同時期で219億円と非常に高額です。マッチングアプリでロマンス詐欺に遭った人もいます。あるいは最近話題になりましたが、著名人を騙った広告で騙された人も数多くいます。

詐欺の内容は特に巧妙というほどではなく、金融リテラシーがあれば騙されないような雑な内容です。筆者が勧誘されたことがあるものでは、「某大手企業がある事業に進出する。金融の専門家だけに情報を流している。いまのうちに株式を買えば儲かる」という幼稚な詐欺案件がありました。

「永遠に上がり続ける株はどこにもない」「インサイダー情報によって投資するのは犯罪である」などという基礎的な金融リテラシーがあれば、いくら感情を煽られても騙されるはずがないのです。

わずか2.1年で解約…積み立て投資を続けられない人々

投資詐欺に騙されるのは極端としても、それよりももっと多くの家庭が陥っている事象があります。それは、家計の実情に見合わない金額の積み立て投資を始めてしまう人の存在です。

積み立て投資は20年以上の長期にわたる投資を続けることによって、安定した運用成績を出すことを想定しています。そのため、株価などが急落したときも積み立てを続けるべきとされます。ところが無計画な金額の投資を始めてしまったため、決まった額を毎月積み立てられない、あるいは途中で積み立てが困難になり解約してしまうという状態に陥るのです。

つみたてNISAを解約した人の平均保有期間は、わずか2.1年だったというデータがあります(QUICK資産運用研究所調べ)。2年ほどで解約したのは「利益確定のため」と推測するのは、金融リテラシーが高い金融業界の従事者でしょう。しかしFPとして数多くの世帯を見ていると、金融リテラシーが高いとは思えない解約理由が浮かび上がってきます。

「家計が厳しく、継続して積み立てるのが難しい」

「利益が出ているのでいっそのことやめることにした」

という声が非常に多いのです。言うまでもなく積み立て投資は毎月一定額を家計から「支出」します。それは普通預金とは異なり、原則的に引き出して生活費に充てることはできません。長期で運用するということは「支出」したお金は、今後もずっと生活費には使えないということです。

誰でもわかるはずの当たり前の話ですが、家計のキャッシュの流れを計算することもなく、思い付きの金額で積み立てを始める世帯が驚くほど多いのが実情です。その原因のひとつは、投資への本質的な理解の不足が挙げられます。

「友達が投資をしていて、運用成績が好調なのを自慢していたのを見て羨ましくなった」という、「投資=お得な情報」と勘違いした動機が非常に多く見られます。

金融資産が潤沢ではない会社員世帯にとっての投資とは、ライフプランに沿って検討し、必要であれば行うものです。人生において投資の明確な目的・目標・許容できるリスク度があり、それに応じて投資額を含めた方針を定めるべきです。「増えたら嬉しい」というだけの動機では、金融資産が潤沢ではない会社員世帯は手を出すべきではないでしょう。

ライフプランのうえで検討した結果、現金だけで十分な資産形成ができるため、投資のリスクを背負う必要がない場合もあります。あるいは積み立て投資をする余裕が家計にない場合もあります。

積み立て投資は長く続けなければ無意味とはわかっていても、家計簿をつけていない世帯が20年以上にわたって積み立てを続けることは難しいといえます。次頁からは、投資の優先順位を間違えてしまった事例をご紹介します。

「失敗したくない症候群」の50代独身女性

<事例>

Aさん(女性)
55歳 会社員
未婚
年収550万円
貯蓄 500万円
住宅ローン残高 3,000万円 完済時80歳

Aさんは会社員として勤務する55歳の未婚女性です。30歳のときに両親が相次いで亡くなったため実家はなく、ずっとアパート暮らしをしてきました。「いつまでも賃貸暮らしはできない、老後のことも考えて持ち家を買うべき」と同僚に言われ続けましたが、Aさんはずっと避けていました。

Aさんは失敗を過度に恐れる性格をしているのです。「失敗して後悔するのが怖い」というのが口癖で、新しいことを生活に取り入れるのに時間がかかります。

いまだに携帯電話はガラケーを愛用しています。電話とキャリアメールの機能しか使わず、メッセージアプリは怖くて使えません。当然ながらGAFAのサービスとは一切無縁。ネット上で買い物をするなど考えただけで恐怖を感じるそうです。コンビニで選ぶおにぎりもいつも同じ鮭、新発売の飲料には手を出しません。ファミレスの注文もだいたいいつもドリアを選び、髪型も学生時代から大幅に変えることはなく、車はカローラに乗り続け、車種を変えずに30年以上乗っています。無難好きなのです。

そんなAさんなので、住宅を購入するなど恐怖でしかなかったのです。

しかし住んでいるアパートが解体される予定があり、1年以内に退去するよう管理会社からお願いされたことがきっかけで住宅購入の検討をはじめることになりました。ところが検討を始めただけで、契約の決断がまったくできません。

この住宅メーカーでいいのか、この分譲地でいいのか、この資金計画でいいのか、この壁紙の家でいいのか、分譲住宅でいいのか、マンションがいいのではないのか、など、次々と選択肢を増やしていき、決断までたどり着けません。その理由はやはり「失敗して後悔したくない」でした。

それでもアパート退去の期限が迫ったため、なんとか分譲住宅を購入することで決断。住宅購入の計画は、

資金計画 3,700万円
自己資金 700万円
住宅ローン 3,000万円
25年返済 変動金利
月返済額 10万6,400円

という内容になりました。アパートの家賃が6万5,000円だったので、月に約4万円支出が増えました。定年退職は65歳。その後15年間も住宅ローンが続くことになります。65歳時の住宅ローンの残債は1,845万円。

「老後のためにお金を貯めなければならない」とAさんは強く思いました。現在の貯蓄は500万円。退職金は1,500万円を想定しています。しかし年齢的にもう昇給はしないし、働き方改革によって残業がなく残業代は見込めません。むしろ年収が減っていくと思われます。

もっとお金を貯める方法はないかと考えているときに、高校時代の同級生に会ったのです。

専業主婦の同級生「ほったらかしで100万円増えた」

もともと保険会社に努めていたものの、結婚して現在は専業主婦をしている同級生Bさんは、数年前からつみたてNISAを始めたと教えてくれました。最近の株式市場によって、「ほったらかしで100万円以上増えた」と自慢しました。

「100万円? すごい!」と驚くAさん。「でも、投資なんて損することもあるのでしょう?」

Bさんは答えます。「インデックス投資なら絶対に損はしないよ」

その言葉にAさんはときめいてしまいます。老後資金に大きな不安があるし、もし投資をして絶対にお金が増えるなら住宅ローンの返済も助かるのではないか、そう思ったのです。

それからAさんは投資を始めました。ですが、もちろんすぐには増えません。そこで、投資によって「稼ぐ」方法を教えてもらおうと、職場の同僚の紹介でFPに相談します。

しかし、FPからはAさんの期待とは異なる話をされることに。現在の家計状況と、家を買った経緯、そして老後のために投資を始めたい旨をFPに伝えたところ、こんなやりとりが。

「住宅を買うのにそこまで不安感を感じて決断できなかったのに、投資はなぜそんなに強気なのですか?」

「それはもちろん、お金を増やしたいからです。老後に住宅ローンを返さなきゃいけないので」

「それはわかります。でもお金が増えるとは限りません。減ることもあります。それは不安ではないのですか?」

「減るなんてことはないと言っていました! だから心配していません」

「誰がそんなことを言っているのですか?」

「友達です」

「その方はどのような根拠で言うのですか?」

「インデックス?というのは損をしないのだと言っていました。彼女はFPの資格も持っているので間違いないと思います」

FPは一瞬無言になってしまいました。家を買うときはあれほど決断できなかったのに、なぜ投資には根拠のない情報を信じ込むほど無防備になるのか、FPには理解ができないのです。

「1万円でも増えたら嬉しいですから」とAさんが続けます。「一番儲かるファンドを教えてください」

FPが冷静に言います。

「1万円でも増えたらと言いますが、Aさんは現在住宅ローンの返済をしていますよね。3,000万円の借り入れで、25年返済、金利0.5%として利息は192万円です。今後住宅ローン金利が上がることも予想されるため、利息はより多くなるかもしれません。まずこの利息を少なくすることが優先だと思いますよ」

住宅ローン減税の期間である13年が過ぎたころ、あるいは定年退職をした時点で、繰上げ返済をし、元金を減らすことで利息の軽減ができることをFPが伝え試算しました。

65歳時に1,000万円を一部繰上げ返済すると、返済期間は約8年短縮され、利息は約66万円節約できます。金利がもし上がったとしたら、節約される利息はより多くなります。

「節約された利息を『利益』と考えると、繰上げ返済は確実に利益が受け取れる投資ともいえます」

しかしAさんは難色を示します。「たった66万円じゃ投資として面白くないです」とAさん。

「投資の目的は面白さなのですか?」とFPが尋ねますが、Aさんは、生命保険を解約してそれも投資に回したい、いまの貯金500万円も投資したいなどと続けます。それも友達のBさんがアドバイスしたとのこと。

「今後、建物のメンテナンスにお金がかかるし、自動車の買い替えもあります。病気をしやすい年齢に入っていきまし、それには現金と保険でしか備えられません。現金での貯蓄をまずは優先し、無保険にはしないでください」

Aさんは納得できないと首をひねるばかり。友達の意見を絶対的に信じ込んでいる様子。

「FPは儲かるファンドを教えてくれるのかと思っていました」と言い、失望した様子で帰ってしまいました。

目先の儲けに目が眩むと…

Aさんは目先の「儲け」に目が眩み、家計のやりくりのことを無視するようになっていたのです。本来臆病な性格であるはずがここまでリスクを考えなくなるのは、お金への欲なのか、老後への強い不安なのかはわかりません。間違えた知識を伝える友達の存在も、それを信じ込む心理も問題をややこしくしています。

Aさんの家計は住宅ローンの返済額が大きく、収支に余裕がありません。独身であるため、もし大病をして働けなくなったら、投資どころか住宅ローンの返済にも困ることになります。

定年退職後に借金が残り大きな負担であるため、ここをなんとかしたいと思う不安感も理解できますが、わずか10年しかない運用期間で老後資金をまかなえるほどの利益を得られるとは断言できません。家計の余裕も、時間の余裕もないのです。

Aさんがすべきことは、

・繰上げ返済の原資を貯める
・普通預金を優先する
・65歳以降にも働けるよう職場に相談する
・保険を使い病気で働けなくなったときに備えておく

というものです。そのうえでゆとりがあれば少額での積み立て投資を行い、後期高齢時期の生活資金の一助としてもいいかもしれません。

投資の情報だけが先走り、金融知識が周回遅れに

今後、投資をすべきではない、する余裕がない人までがリスクを背負う危険があります。YouTubeやSNSでは株式市場の好況が強調されることが多く、冷静な意見は見向きもされない現状があります。

目先の欲で投資行為に飛びつくのではなく、まずはライフプランニングによって自分にとって許容できるリスクと、目標とする運用成績を算出することが優先です。

無理な積み立て投資を行い早期で解約してしまうのは、金融知識が乏しく無計画であるのが理由なのです。

長岡 理知

長岡FP事務所

代表

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