「1打でも勝てばいい」シニア初Vの片山晋呉 18年前にタイガー・ウッズとの最終日最終組で学んだこと

片山晋呉がシニアツアー参戦2年目で初優勝(提供:PGA)

<すまいーだカップ 最終日◇1日◇イーストウッドカントリークラブ(栃木県)◇6867ヤード・パー72>

片山晋呉がついにやった。シニアデビューから11試合目。そろそろピッタリ1年というタイミングでツアー初勝利を手にした。「もうちょっと早く勝てるかなと思ったけど、意外に勝てなかった。『やっと勝てた』というだけです。ちょっと長かったですね」。うれしさ爆発というよりは、ようやく義務を果たしたような少し冷めた片山がいた。

昨年6月の「スターツシニア」で満を持して国内シニアツアーにデビュー。トップとは6打差の4位に終わった。レギュラーツアーでも上位で戦える力があり、シニアで勝つのは時間の問題に思われた。本人もそう考えていたはずだ。しかし、同年10月の「福岡シニアオープン」では同い年の宮本勝昌にプレーオフで敗れ、11月開催だった今大会では2日目が悪天候で中止になる不運も重なり、最終日に伸ばしながらも4位に終わった。

そうして迎えた今年、開幕戦では2日間とも60台を並べながら2位タイと優勝に届かず。シーズン2戦目となるこの大会では、「もう今週しかない」と、並々ならぬ思いを持って会場に入った。その理由は“1年以内”に勝ちたかったから。次戦のスターツシニアでデビューから丸1年となるのだ。「1年経っちゃうので、すごい嫌だった。絶対に今週で決めようと思っていました。“1年以内”は自分の中で合格なんです」。

今大会が行われたイーストウッドカントリークラブは、ドッグレッグや池絡みのホールが多く、優勝するにはマネジメント力とショット力が必要となる。それこそ片山の真骨頂。2日目まではピンチらしいピンチもなく、ボギーフリーでトータル12アンダーまで伸ばし、最終日を1打差の単独トップで迎えた。

最終日は13番で唯一のボギーを叩くものの、トータル15アンダーまで伸ばして1打差で逃げ切ることになるのだが、ここにも片山なりの考えがある。「ぶっちぎろうとか、カッコよく勝とうとか全然思っていない。全員より1打でも勝てばいいという思いでやっている」。優勝争いの中にいるプロの考えは大きく2つに分かれる。リーダーボードを一切見ないで「自分との戦い」に徹するタイプと、自分の位置や状況を常に確認しながら「相手と戦う」タイプ。片山は完全に後者だ。

その考えに至ったきっかけは、2006年の国内男子ツアー「ダンロップフェニックス」で当時世界ランキング1位に君臨していたタイガー・ウッズ(米国)と最終日最終組で回ったことだった。

「あのゴルフを生で見て、そうとう勉強になりました。並ぶまでは絶対にピンを狙わない。グリーン真ん中に打って2パット、長いのが入ったらラッキーみたいな。超安全にプレーしていた。それが、同じ最終組で回っていた(パドレイグ・)ハリントンが並んだ瞬間から、残り3ホールは全部ピンにいったのよ。『うわー、変わったー』って思いましたね。あれを目の当たりにしてから、僕も最終日にトップに立っていたら絶対にピンを狙わないって決めている。だから、きょうも前半は基本的にピンを狙っていない」

結局その年は、ハリントンがタイガーをプレーオフで下すのだが、片山にはタイガーの戦い方が強く印象に残っている。「タイガーのスーパーショットがたまたま映っている場面をよく目にするけど、全然違うから。超堅い。日本人でタイガーと最終日最終組で回っているのは、僕と(横尾)要くらいじゃないかな。あれ以来、泥臭くていいから人より1打勝てばいいとしか思わなくなった」と、自身の優勝よりも熱を持って語る。

片山はさらに続ける。「相手が墓穴を掘るのをタイガーはずっと待っている。『俺が行かなきゃ』と(相手に)思わせた方が勝ちなんですよ。ゴルフって行こうと思って行っても、成功する確率は低いからね。だから僕もトップに立っていたら、相手を嫌にさせるって決めているんです。それでさらに勝ち星が多くなりました」。タイガーの戦略を学んでから積み上げたツアー勝利数は、今大会で11個目となる。

では、優勝争いをしていて自分が追う立場だったら?「相手のタイプや、同じ組で回っているか回っていないかによって組み立て方は変わりますね」。あくまでも相手を見て勝負しているのだ。

最終日は10番までに4つのバーディを奪い、一時は後続を4打引き離す場面もあったが、最後は「相手を見て『パーでいいや』というのをやり出して、ちょっとバタバタしながら」の1打差。確かに片山の言うように何打差で勝とうが、勝利には違いないだろう。リードしているのが分かっていた最終18番パー5では、ティショットでドライバーを使わずフェアウェイウッドを選択し、グリーン左の池を警戒しながら、きっちり3オン2パットのパーで締めくくった。

そして片山は、この勝利の先に米シニアツアー優勝を思い描く。昨年は今年の「全米プロシニア」、「全米シニアオープン」の出場権が得られる国内シニアツアーの賞金ランキング4位以内に入ることができなかった。今年は2戦を終えて2位、優勝という成績で、賞金ランキングトップに立っている。大会前週には昨シーズンの賞金ランキング1位の宮本、同3位の藤田寛之、同4位の増田伸洋が全米プロシニアに出場しており、宮本は39位、藤田は51位に入り、増田は予選落ちした。片山は帰国後すぐに今大会に出場した彼らとも話をしている。

「宮本には『あのゴルフで通用しないのはショック』だと伝えました。去年は宮本と一緒に回る機会が多くて、いいゴルフをしていると思った。球筋に表れるからね。球がフェースに乗っかっていた。それなのに向こうで優勝争いできないのは、想像よりもレベルが高い。これは作戦を練らないといけないのかな」。中学時代からお互いを知り、水城高校、日本大学の同級生だったライバルをリスペクトしつつ、来年の海外メジャーに早くも思いを馳せる。

片山が米シニアでも勝てると信じて疑わないのは、現在のレギュラーツアーのレベルの方が高いと考えているからだ。「レギュラーツアーは40、50人が勝つ力があるかもしれないけど、米シニアはテレビを見ていると20人くらいの誰かが勝つみたいな感じ。この3日間のゴルフをしていれば、20人には入っていると思うんだよね」と言い切る。もちろんそこに宮本も入ると考えている。

米国で勝つ50歳からの夢を追うために、19年から大きなスイング改造に取り組んできた。「球は飛んでいるし、スイングでやることはほぼない。パッティングもすごく思ったところに打てているから、あとは細かいところとか…」。「マスターズ」で4位に入ったこともある男は、優勝会見の最中でもゴルフがもっと上手くなる方法を考えている。51歳になった今も、好奇心や向上心はまだまだ衰えていない。(文・下村耕平)

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