「光る君へ」大反響のタイトルバックを徹底解剖!

吉高由里子主演の大河ドラマ「光る君へ」(NHK総合・日曜午後8時~ほか)のタイトルバックの企画と演出を手掛けたフィルムディレクターの市耒健太郎。本作では1,000年の時を超えるベストセラー小説となる「源氏物語」を生む紫式部(まひろ)の生涯が、平安の貴族社会で最高権力者となる藤原道長(柄本佑)との関係を交えて描かれるが、放送から半年を経てもなお「艶めかしく美しい」として注目を浴びているのがタイトルバックだ。市耒が「1,000年前も1,000年後も変わらぬロマンティシズムを、光と触感で美しい暗号として描きたい」というコンセプトのもと作り上げた映像を解説した。(編集部・石井百合子)

【動画】「光る君へ」オープニング・ノンクレジットVer.

感性の芽生え

1:花

甘美的なイメージの象徴として、なおかつ、まひろの創造性、波乱万丈な人生が開花することの象徴として、トップカットを花にしました。また、毎週訪れる本編との区切りを華やかにしようとしました。花の種類は、菊、椿、薔薇などいろいろ考えたのですが、特定できるものだとつまらない気がしたので、オリエンタルポピーという花をモチーフにアレンジしています。官能的な、かぐわしい生命力のようなものも意識していて、色もホットなルビーオレンジという感じにしています。

2:まひろ

主人公を示すカットを序盤に入れた方がいいのではないかと。ただし、ここではまひろをはっきり描き切らず、光で彼女の輪郭を美しく彫刻するように、たゆたうようなイメージで撮っています。

3:題字

お気づきの方もいらっしゃると思いますが、題字が2回出てくるんですよね。1回目では、平安時代に使われていた和紙のトーンをなるべく再現して、書道指導の根本知先生に題字を書いていただきました。そこに光が差し込むことで、あたかも紫式部がその時代に書いたかのようなリアリティーをもたせるようにしています。

光の霊性に触る

4:男女の手

オープニングの中で言うとここからが本編に当たります。タイトルバックの全体的なテーマでもある「光と触感」を表すものです。劇中の、2人の絶妙な距離感を表現しています。近づきたいんだけど近づかない、 近づいているんだけど心に距離があるといったような。指先と光というのが、ある種運命に翻弄される様子も表現できれば、と考えました。

5:リキッドアート

リキッドアートは随所に差し込んでいますが、ここでは抽象的な美を意識した上で、人類の創造性の芽生え、あるいはうつろいゆく恋心みたいなものを描く意図でした。プレパラートにインク、粘土、雲母などを散らして延々、高精度カメラで撮りました。実は2日間撮り続けていて、全部で30時間分ぐらいあるんです。その中の一番いいところを使っています。

6:男女の手

2人の手が重なって離れるというのを光と共に描いています。手そのものではなく、光を撮るように。まるで光が手のようなものを彫刻するように心がけました。

7:リキッドアート

ここでは「創造性の宇宙」をイメージしています。CGではないかと言われるんですけど、7センチぐらいのプレパラート上で起きていることです。墨の上に白く粘度が高い液体を散らして、それらを動かしながら、下から光を当てています。

人生という旅

8:まひろ

彼女が創造性の旅に出るセクションになります。音楽も駆け上がるところで、旅と同時に、まひろの作家として生きる決意みたいなものもどーんと表すシーンで、初めて大きな風景の中の吉高さんを捉えています。吉高さんの前に綿毛、あるいは泡を散らして、そこに逆光を当てながらスローモーションで撮りました。まひろの髪、あるいは裾などを透過する光を捉えることで、彼女が運命的に作家として目覚めていく様子を描けたらと思いました。

9:まひろ

まひろの決意を具体的に示すカットです。光と彼女の生命力がシンクロしているところを1カットで撮りました。

時空を超えて

10:平安京

1,000年前に書かれた「源氏物語」、まひろの創造性が時空を超える雄大さを表現するもので、京都市平安京創生館にある平安京の復元模型を撮りました。時間制限もあって、なおかつ絶対に破損してはいけないので細心の注意を払って撮影を行いましたが、悩んだのがサイズの関係でどうしても平面的に見えてしまうことでした。光をサイドから立体的に当てて、カメラを寝せて撮影し、なるべく隆起を目立たせ、立体的に撮ることに苦労しました。

11:琵琶

平安の芸術品を、生きた光が撫でるような形での撮り方をしています。琵琶を琵琶として撮らずに、何か芸術的なフォルムの中を運命の光が踊るようなイメージで撮っています。

創造性の目覚め

12:書

まひろが作家として目覚め、筆がダイナミックに、ぐいぐい加速する様子を表現しています。こちらも根本先生に書いていただいて、それを下から撮りました。

13:リキッドアート

ここからクライマックスになっていきますが、まひろの作家としての創造性の広がりを込めて作りました。これもプレパラート上に粘度の高い白い液体と、粘度が比較的低い墨を混ぜて、吹き飛ばすようにしたものを、スローモーションで撮りました。雲母も散らしてキラキラさせています。

この思いは永遠に

14:まひろ

当初すごく迷ったところです。もっとカットを割って、さまざまな展開を感じるような映像にしようかとコンテを描いていました。しかし、当日、カメラ前の吉高さんの存在感がすごいので、よしワンカットで行こう、と。射抜くような眼差し、運命をつかもうとする手と表情など、とにかく素晴らしかったのでうまくいったなと思います。照明は、“光のシャワー”を浴びているようなイメージ。吉高さんには“1,000年後の人に語りかけるような強い目線で見つめてください。作家としての意志を強く見せてください”とお願いし、見事に応えていただきました。

15:男女の手

まひろと道長のもどかしい関係も含めてのカットバックです。二人が人生を駆け上がるなか、お互いが男女を超えたソウルメイトとして強く想っている様子を象徴したかったんです。離れた2人の手がやっと重なりそうになったところで本編に行くことで、実際にどうなるのかは視聴者の方の想像にゆだねる形にしました。道長の手の向きが最初と違うのは、2人が初めと同じ場所にいないことを表しています。色んな形で出会っていることを表現しようとした形ですね。

市耒健太郎(いちきけんたろう)プロフィール

東京藝術大学大学院修了。博報堂を経て、独立。クリエイティブディレクター兼フィルムディレクター。創造性を研究する学校、UNIVERSITY of CREATIVITY を主宰。

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