『6秒間の軌跡』橋爪功×原田美枝子、名優2人の無言劇 “出会い直し”に滲む愛情

自分がいなくても、この子はもう大丈夫。そう思えることが、親にとっては寂しくも一番嬉しい瞬間なのかもしれない。『6秒間の軌跡~花火師・望月星太郎の2番目の憂鬱』(テレビ朝日系)第8話では、幽霊の航(橋爪功)が星太郎(高橋一生)の前に再び現れた理由が明らかとなった。

星太郎が火薬の配合場所への立ち入りを許した直後、ふみか(宮本茉由)が行方をくらました。望月煙火店に代々伝わる火薬の配合レシピを盗まれたかもしれない。それだけでもショックなのに、花火の師匠でもある父・航から「花火師、失格だ」と叱咤され、星太郎はひどく落ち込む。

そんな星太郎を見かね、ひかり(本田翼)はふみかの実家である、秋田県の野口煙火店に行くことを決意。ひかりが家を出て、久しぶりに幽霊の航と2人きりになった星太郎のもとに、母・理代子(原田美枝子)が訪ねてくるのだった。

やっぱり、理代子には不思議なパワーがある。先ほどまで失意の表情を浮かべていた星太郎も彼女と会った途端に笑顔になった。ニッカポッカ姿で理代子とスマホで自撮りする星太郎は照れ臭くも嬉しそうで、微笑ましい気持ちになる。

そんな息子を仕事場に送り出し、仏壇の前に座った理代子は航の遺影に語りかける。理代子の話を隣で聞いている航の姿は幽霊だから本人には見えていない。けれど、お互いのことを知り尽くしている2人の“会話”は絶妙に成り立っている。

流石は元夫婦。一度は別れたものの、不倫という形で元サヤに収まるくらい、2人の間には離れがたいものがあるのだろう。死が二人を分かっても、お互いへの愛は消えない。「いくつになっても縁側で、2人で一緒にお茶飲めたらいいね」と約束した航と理代子は横に並んで縁側に座る。その瞬間、理代子には航が隣にいるように思えた。姿は見えずとも、言葉を交わさずとも、心と心で通じ合っている2人の間に境界線はどこにもない。橋爪功と原田美枝子という2人の名優が見せる台詞無用の無言劇に思わず胸が熱くなった。

その後、理代子と夕飯を共にした星太郎はふと「親が息子に会うのに理由なんかいるかよ」という航の言葉を思い出す。理代子はただ星太郎に会いたくて家にきただけで、何か目的があったわけじゃない。それは航も同じだった。航は「お前が心配で出てきたんじゃないの。大丈夫だと思ったから出てきたの」と言う。

航の死後、“イマジナリー親父”を自分で作り出してしまうほど以前は心許なかった星太郎。けれど、紆余曲折あって、星太郎は幽霊の航がいなくなっても取り乱さずに日々を過ごせるようになった。だからこそ、他には理由が見当たらず、再び航が現れたことを不吉な未来の暗示だと思ってしまったのだ。

それはある意味、星太郎の成長であり、もう自分がいなくても大丈夫だと思えたから航は再び現れた。もし星太郎が大丈夫じゃない状態で現れたら、いつまで経っても彼は航に頼りきりで、1人の人間としても花火師としても成長できないままだから。けれど、息子には会いたいから、その成長を見届けた上で航は会いにきたのだ。それは航なりの不器用な星太郎への愛情。理代子が、星太郎から会いにくるまで自分からは一度も会いに行かなかったのも、勝手ではあるけれど母としての愛情だったのかもしれない。何らかの理由で別れた人たちが“出会い直す”には時間が必要なのだ。

では、何が星太郎を航がいなくても“大丈夫”にさせたのかといえば、それはきっとひかりの存在なのだろう。ひかりはなんだかんだ言いながらも、ぐじぐじ悩む星太郎にいつも付き合ってくれる。星太郎がふみかに火薬の配合レシピが盗まれたと不安になった時も、レシピ通りに料理を作っても同じ味にならないように花火もそうではないのか、と冷静に諭してくれたひかり。そんな彼女のことだから、「野口さん、うちの配合レシピを見たそうです」という要領を得ない報告メールも何かの意図があるはずだ。

次週は早くも最終回。星太郎はふみかが不在のまま、ひかりと一緒に花火競技会に臨む。花火と同じで、本作が最後に見せる美しくも一瞬の煌めきを見逃さないようにしたい。

(文=苫とり子)

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