『花咲舞が黙ってない』第8話 菊地凛子の華麗なフェイスターン 真の「女性版・半沢」へ

2014・15年に杏と上川隆也のコンビで制作されたドラマ『花咲舞が黙ってない』(日本テレビ系)。キャストを今田美桜と山本耕史に一新して始まった後継シリーズも第8話と佳境に入ってきました。

今田美緒の花咲、いいと思うんですよね。基本的に明るく楽しい女の子なので、お言葉を返すときのギャップが映える。キッとなる今田美桜の顔面が、そのまま水戸黄門の印籠として作用している感じ。

作り手側もこの“印籠感”を活用していて、ときに穏やかにお言葉を返したり、バディの相馬(山本)に遮られてお言葉を返しそびれたり、1話中に二度三度とお言葉を返したりと、さまざまなバリエーションで楽しませてくれています。

では第8話、振り返りましょう。

■今回、勧善懲悪はそこそこに

『花咲』のフォーマットは、基本的に花咲&相馬の臨店班コンビが銀行にはびこる腐ったおじさん連中をやっつけるという勧善懲悪がベースになっています。

今回は、臨店に訪れた東京第一銀行の京橋支店で恒常的に勤怠記録の改ざん、サービス残業の強要が行われていることに気づいた花咲が、支店長の悪事を暴いて懲らしめるお話。すべてが明るみに出ても悪あがきする支店長に花咲がお言葉を返し、「黙れ」と一喝されて「黙りません!」と歯向かうシーンが印象的に描かれました。

何しろ『花咲舞が黙ってない』というドラマですから、花咲は黙らないのです。

身も心もボロボロになるまで働かされていた京橋支店の行員たちによる謀反もあって、不正は無事に本部人事部の知るところとなりました。

普段は事件を解決したらあとはエピローグを残すのみという感じでしたが、今回はまだ2/3くらい時間が残ってる。ここで、「腐った銀行を根本から変える」というドラマの大目標に回帰していくことになります。

京橋支店が現在のような奴隷方式の労働環境になったのは、本部経営企画部の紀本部長(要潤)が支店長だった時代の名残だといいます。9年連続で売り上げ1位を記録している京橋支店ですが、そこではかつて、紀本部長の側近である昇仙峡玲子(菊地凛子)と相馬に大きな影を落とす事件がありました。

相馬の同僚で昇仙峡の恋人だった優秀な行員が、紀本部長の暴虐によって心を病み、自ら命を絶ってしまった。同じように深い傷を負った昇仙峡と相馬でしたが、相馬がすべてをあきらめて窓際に身を置いていた一方で、昇仙峡はあえて紀本部長の下につき、上層部へ食い込もうとしていたのでした。

そんな昇仙峡から紀本部長への宣戦布告が描かれた今回。昇仙峡は紀本部長宛てに、彼岸花を送り付けます。差出人の名は「川野直秀」。亡くなった昇仙峡の恋人の名前です。添えられたメッセージは「また会う日を楽しみに」彼岸花の花言葉でした。

■鮮烈なフェイスターン

プロレスの世界では、悪役(ヒール)だったレスラーが善玉(ベビーフェイス)に転じることを「フェイスターン」と呼びます。

これまで、紀本部長の意向のままに働き、花咲たちを鼻つまみ者として扱ってきた昇仙峡が、その実、紀本部長の寝首をかこうとして近づいていたことが明かされます。亡き恋人の遺志を継いで、銀行を変える。そのために昇仙峡は経営企画部の中枢までたどり着いていたのでした。

花咲に対する冷徹な態度も、花咲の中に恋人を見ていたからでした。あなたのように真面目すぎるバンカーは、危うい。そのまま自らの正義のままに突き進んだら、死んでしまうこともある。それを誰よりも知っている昇仙峡だからこそ、花咲に冷たく当たっていたのでした。

すべてを知った花咲は、昇仙峡との共闘を誓います。

もともと『花咲舞が黙ってない』というドラマは、「女性版・半沢直樹」という触れ込みでスタートしました。しかし、今作では菊地凛子演じる昇仙峡玲子こそが真の半沢直樹となり、上層部に倍返しをしていくようです。

ドラマ終盤、そこに劇団ひとりの半沢直樹もかかわってくるでしょうから、もう展開はいかようにもですね。

今回の彼岸花のエピソードは、これまでの小説版『花咲舞が黙ってない』ではなく『不祥事』から引用されました。ドラマにおける原作の扱いについていろいろ見直されるべき悲しい出来事が起こったりしている昨今ですが、やっぱり最初から「どうぞ映像化してください」というスタンスで書かれた原作は強いね。そんなことを感じる今回の『花咲』でした。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

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