【安田記念】ロマンチックウォリアー「勝つのは、俺だ!」雨空の中で見せつけた、完全無欠の横綱競馬

2024年 安田記念 香港のロマンチックウォリアーが優勝 (C)SANKEI

第74回安田記念回顧

その走りは、香港どころか世界最強と呼んでも差し支えのないものだった。それくらいロマンチックウォリアーが見せた走りはあまりにも衝撃的なものだった。

【安田記念着順】1着ロマンチックウォリアー、2着ナミュール、3着ソウルラッシュ

2年前のクイーンエリザベスCを制してGⅠホースの仲間入りを果たすと、それ以来破竹の勢いでロマンチックウォリアーはGⅠタイトルを積み重ねて香港最強の称号をほしいままにしてきた。

香港Cでジャックドールやダノンザキッド、クイーンエリザベスCでプログノーシスらを完膚なきまでに叩きのめしてきたのだから、日本の競馬ファンにもその強さは存分に知れ渡っていた。

だからこそ、混沌としたメンバー構成となった今年の安田記念で彼は1番人気の座を射止めた。

日本に来るのはこれが初めてな上、マイルを走るのは1年ぶり。本来の得意条件とは若干異なる舞台ということで過信はできないと思われたが......パドックに姿を現した彼はそうした思いを吹き飛ばした。

馬体重は522キロと前走時と比べてマイナス12キロ。この馬にしてはやや細身の馬体となったが、パドックで見せた馬体はそうした数字を感じさせないほどパワフルなもの。

かつてのサイレントウィットネスやブリッシュラックなど筋肉隆々のパワフルな馬体の持ち主が多いイメージがある香港馬だが、ロマンチックウォリアーもそうした歴代の香港の強豪たちと同じように堂々たる場体でパドックを闊歩。

その姿はホームであるはずの日本の馬たちよりも逞しく映った。

そうしたロマンチックウォリアーの振る舞いを見た日本の競馬ファンも次第に感じたのかもしれない。「この馬が安田記念を勝つ」と。

その証拠に10レースまでは4倍前後で推移していた単勝オッズは、ロマンチックウォリアーがパドックに現れたころからグングンと下がり、最終的には3.6倍に。

直近3年で最も低いオッズとなり、ロマンチックウォリアーは1番人気の支持を受けた。外国馬が1番人気になるのは2001年のフェアリーキングプローン以来、なんと22年ぶりのことである。

ただでさえアウェーな状況で決して得意とはいえないマイル戦......

そうした不安があったのだが、いざゲートが開くと、ロマンチックウォリアーはレース前にささやかれていた不安要素を全てなきものにして見せた。

ゲートが開いた瞬間、最もいいスタートを切ったのは実はロマンチックウォリアーだった。

いざとなれば逃げの手を打てるくらいの好スタートだったが、すぐに内からドーブネ、外からウインカーネリアンの2頭が逃げる形で前へ。

すぐ後ろにフィアスプライド、ジオグリフ、ステラヴェローチェらが付けていき、ロマンチックウォリアーはそれらを見る形で5番手前後へ。ちなみにそのすぐ後ろには同じ香港からの遠征馬、ヴォイッジバブルが付けていた。

ドーブネとウインカーネリアンが前でペースを握ったためか、前半の3ハロンは34秒5と小雨の降る稍重馬場にしてはやや速い流れに。

ソウルラッシュやナミュール、セリフォスらの実力馬が軒並み後方で脚を溜めていることを考えると、前にいる馬たちには厳しい流れになることが予想され、その中を5番手に付けていたロマンチックウォリアーにとっては苦しいレースになるかと思われたが......

直線に入った途端、それが杞憂であることを証明してみせた。

そうして迎えた最後の直線。実力馬たちが外で末脚を伸ばしていく中、ロマンチックウォリアーはと言うと馬群に包まれる形に。

内にはフィアスプライド、そして外にはステラヴェローチェという形で囲まれてしまい、抜け出すのも厳しいように思えたが......ロマンチックウォリアーはそうした壁をはじき返した。

その姿はまるで「勝つのは、俺だ!」と言わんばかりに。

残り300mを過ぎたところでジェームズ・マクドナルド騎手が左鞭を一発、また一発とロマンチックウォリアーに入れると、グングンと力強く伸びて先頭へ。その末脚はカミソリというよりもまるでナタ。鋭さよりも逞しさを感じる切れ味で前を行く馬を捕まえた。

そんなロマンチックウォリアーに向かってきたのがナミュールとソウルラッシュ。

いずれも後方で脚を溜め、外から末脚を爆発させてきた2頭。ホームグラウンドである日本の競馬場で外国馬に王座は譲れないとばかりに2頭が並んで香港最強馬を捕らえに行った。

しかし、ロマンチックウォリアーは迫りくる2頭に前を譲らなかった。

脚色は後方から来た2頭が優勢に映る。だが、ロマンチックウォリアーの力強い末脚は決してバテることなく、一歩一歩着実に伸びていく。

そうしてナミュールがロマンチックウォリアーに半馬身差迫ったところが安田記念のゴールだった。

ゴールした瞬間、マクドナルドは右腕を大きく天へと突き上げ、派手なガッツポーズを見せた。

そしてウイニングランでも集まった大観衆に「もっと声援を!」と言わんばかりのポーズを見せた。そこにいたのは香港最強馬ではなく、世界最強馬・ロマンチックウォリアーだった。

異国の地で激走し、香港馬としては18年ぶりとなる安田記念制覇を果たした愛馬に対し、マクドナルドはレース後、インタビューでこんなコメントを残している。

「まさにチャンピオンホース。心の広い馬で今日もベストを尽くしてくれた。この馬の強さを皆さんに見せられて嬉しい」

今日の府中は小雨が降り続いていたが......もしかするとこの雨はロマンチックウォリアーの勝利を祝う、恵みの雨だったのかもしれない。

■文/福嶌弘

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