『光る君へ』松下洸平は心の動きをまなざしだけで表現する 周明はまひろたちの味方?

『光る君へ』(NHK総合)第22回「越前の出会い」。まひろ(吉高由里子)と為時(岸谷五朗)は立ち寄った敦賀の松原客館で宋人の朱(浩歌)と通事の三国(安井順平)らに迎えられる。まひろは浜辺に出かけた際、そこで佇む周明(松下洸平)と出会った。翌日、為時たちは越前国府に到着し、大野(徳井優)、源光雅(玉置孝匡)に出迎えられるも、為時は早々に激務で体調を崩してしまう。そこへ医師として現れたのは、周明だった。

為時は激務に心労とさっそく災難続きとなる。越前介である源光雅は為時に賄賂を渡す。賄賂を渡すことで、越前の者による宋人の扱いに為時が口を出すのを阻もうとしたのだ。国司としての務めに実直に向き合おうとする為時は当然憤慨し、賄賂を突き返すが、そのせいで為時の仕事に誰も協力しなくなってしまう。たった1人で数えきれない人の申し出に耳を傾ける為時の、傾聴に努めるが困惑と疲労の色が隠しきれなくなっていくさまは、同情を誘いつつもコミカルだった。為時が周明の鍼治療を受ける場面にもおかしみがある。為時があげたなんともいえない叫び声と、施術後、感心したような面持ちで「よくなったやもしれぬ」と打ち明ける姿の緩急には面白みがあった。

為時演じる岸谷五朗の演技には、為時の真面目な一面だけでなく、宣孝(佐々木蔵之介)がまひろに伝えたようにかつては破天荒な一面もあったのだとうかがわせるような好奇心旺盛な一面もうかがえる。宋人たちとの宴での為時は心なしか胸を躍らせているようだった。

なお、公式サイト内のキャストインタビュー動画「君かたり」で、為時を演じている岸谷は、宋語を披露する場面について、宋の発音などを中国語の先生に習い、先生から「これ95点ですよ」と褒めてもらえたにもかかわらず、「監督から『もっと下手にやってください』って言われて」とコメントしている。「『下手にやれ』って(言われて)こんなにがっかりしたことはありませんでしたね」と岸谷は気さくな声色で話していた。この気さくさが、人間味を感じさせる為時の佇まいに滲み出ているのだと感じる。

さて、第22回では松下洸平演じる周明が強く印象に残った。第21回の終わり、宋人たちが言い争う中、1人離れたところでたたずみ、騒ぎを見つめる冷静な面持ちが印象的だった。まひろと初めて言葉を交わした時も、周明はどこかかたい顔つきのままである。ただ、まひろに宋の発音で「ヂョウミン」と自らの名前を教える時、宋の言葉に不慣れなまひろに対して発音を正す周明の表情には優しさのある一面が垣間見えたし、宴の後、まひろが周明がやったように拳を合わせて「シェシェ」と宴の礼を言うと、初めておかしそうに笑った。

物語序盤では松下が台詞を発する場面はあまりない。だが、松下はまなざしだけで、周明の心の動きを巧みに見せる。まひろから宋の言葉で「また会いましょう」と言われた周明は、興味深そうにまひろが去るのを見つめていた。来航した宋人の朱らが本当に商人なのかなど彼らの真の目的が定かではないこともあり、周明からも謎めいた雰囲気が漂うが、まひろを追うまなざしにまひろへの関心が見受けられる。

鍼治療を行う周明の手元や為時を気遣う様子や声色も印象的だった。朱の前でも、為時の前でも、まひろの前でも、周明はあまり表情を変えないため、今はまだ彼が何を考えて行動しているのかが読み取れない。けれども、鍼治療を行う周明の姿は医師そのものだ。宋の言葉で「お大事に」と言う周明からは、為時を労わるやさしさが確かに感じられた。

周明は謎は多いがまひろや為時への敵意はなさそうに見えた。だが、第22回の幕引きには驚かされた。通事の三国を殺めたとされる朱への裁きは越前で行え、という道長からの返事の文に為時が頭を抱えていると、周明が見知らぬ者を連れてやってくる。

「話があって来た」
「朱様は通事を殺していない。証人だ」

はっきりと、日本語で、周明は為時に訴えかけた。周明は為時の目を見て、明瞭な言葉で主張する。真剣さが伝わる松下の立ち居振る舞いによって、周明の訴えに真実味が増したように感じる。一方、まひろは突然の出来事に驚き、息を呑んでいた。

物語の終わりに流暢な日本語を話すことでまひろを驚かせた周明が、まひろの越前での暮らしにおけるキーパーソンであることは疑いようもない。周明はなぜ、日本語が堪能であることをまひろたちに明かさなかったのか。宋人たちの真の狙いや通事の死に関係する人物、越前の事情はいかに。

(文=片山香帆)

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