東宝特撮と怪獣映画の“いま”をつなぐ「平成ガメラ」を特濃解説!『エヴァ』や『シン・ゴジラ』の源流となった唯一無二の3部作

『ガメラ2 レギオン襲来』©KADOKAWA 日本テレビ 博報堂DYメディアパートナーズ 富士通 日販/1996

昭和『ガメラ』のセオリーを再開発

『シン・ゴジラ』(2016年)に『ゴジラ-1.0』(2023年)、そして『ゴジラxコング 新たなる帝国』(2024年)など、すっかり日本発の怪獣特撮は新時代を迎えた感がある。これらはかつての特撮のテイストこそ残っているものの、CGI主体の作品群である。6月にCS映画専門チャンネル ムービープラスで放送される「平成ガメラ3部作」は、オールドスクールな特撮と現在の怪獣映画、その架け橋となるようなミッシングリンク的なシリーズである。

元々の大映『ガメラ』シリーズ(1965年ほか)と言えば、日本人と外国人の少年コンビが連れだって、宇宙人と怪獣の地球侵略のたくらみに気づき大冒険を繰り広げ、最終的にはガメラと敵怪獣のがっぷり四つの決戦を最前線で応援&状況説明。ガメラも戦う途中で意気揚々と段違い平行棒を決めたり(それを見た外国人少年が「オー! 9.95!」と採点する)と、非常にキッズフレンドリーな内容であった。そして「平成ガメラ」も、その本来のテイストをどうするかは課題だった。

1作目『ガメラ 大怪獣空中決戦』(1995年)制作当時、監督の金子修介も脚本の伊藤和典も元々の『ガメラ』シリーズをあまり評価していなかった。しかし大映には、ガメラの物語では子供はカギであると、従来通りの子役の投入を求められた。最初のうち金子は、キャラの設定が荒唐無稽すぎるので「いっそコメディにしてしまおうかと思った」くらいだったという。そこで2人は大映と格闘し、キャラクターを再開発しようとした。ガメラと心を通い合わせられる少女・草薙浅黄(演:藤谷文子)は、その折衷案として産まれたものである。

東宝特撮への憧れとトラウマものの負傷シーン

「平成ガメラ」の誕生には、東宝怪獣特撮への憧れがあった。金子は『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』(1966年)、伊藤は『キングコング対ゴジラ』(1962年)の現代版と、作りたいものの方向性は違ったが、下敷きとして東宝特撮が念頭にあった。「平田教授」は『ゴジラ』(1954年)の芹沢博士を演じた平田昭彦の名から取られているなど、随所にその痕跡がある。

さらに制作に当たって金子は、東宝特撮の名監督、本多猪四郎のゴジラ映画を念頭に置いて作っていたらしい。彼は子供時代から、本多の作品は他の怪獣映画に比べて洗練されていたと感じていたので、本多ならこのシーンはどう撮るか、を考えて『ガメラ』を撮ったそうである。「ガメラをゴジラに匹敵する存在にしよう」との思いが強すぎて、スタッフはたまにガメラをゴジラと言い間違えてしまったほどだそうである。

個人的に、他の怪獣ものとガメラの大きく異なる点――もっとも強烈に子供心に印象づけたのは、ガメラの負傷シーンだ。敵の攻撃に傷つき、血を流すガメラ。それも緑色の血を……。しかもおあつらえ向きに、敵怪獣も頭が包丁になっているギロンや先端が鋭利にとがっているバイラスなど、触れれば切れそうなものばかり。そんな彼らの攻撃が、明確にガメラの胴体にブッ刺さる。苦しむガメラ……。楽しいものを見ていたはずなのに、何か見てはいけないものを見てしまったような感覚。子供向けと言いながらも、それらはトラウマ対戦シーンとして強く記憶に残っている。

そのテイストは「平成ガメラ」にも受け継がれていて、傷口からおびただしい血をまき散らしながら飛び去るガメラなど、あの痛々しさを想起させるシーンも随所に登場する。さらに、『ガメラ2 レギオン襲来』(1996年)では、ガメラの特徴の一つでもある甲羅が破壊される悲痛なシーンまである。主役怪獣の部位破壊は、かなり珍しいのではないだろうか。

また意外なことに、シリーズ3作を通して、ガメラに直面する人が誰一人としてガメラを亀と比べたり、亀が巨大化したのでは? という疑いを持たない。これについて金子監督は「亀という生物が存在しない世界」という設定だったと挙げている。大胆かつユニークな世界観と思ったものだが、結果として『ガメラ3 邪神<イリス>覚醒』(1999年)での古代神話との融合という展開も効いてくるというものである。

「大人向け怪獣映画」の根底に流れる子供たちの願いや祈り

金子は、「平成ガメラ」3部作ではアメリカ文化の影響の強いSFというよりも、日本独自のSF感を生み出したいと考えていた。そのため、神話やファンタジー的要素を融合させていく。『~邪神覚醒』のクライマックスが京都を舞台にしているのは納得の展開なのだが、町を破壊する怪獣に対し「歴史ある京都で撮影して古都を破壊するのは日本を侮辱している!」という抗議が来ないよう、撮影には特に気を使ったという。そうして京都を舞台とした数少ない怪獣映画の1本となった。

元々のガメラの生みの親、湯浅憲明は「平成ガメラ」シリーズ全体を「ガメラは子供のための物なのに、大人向けすぎる」と、あまり気に入っていなかった。しかし実際にはしっかりと、ガメラの危機に子供たちの願いや祈りが重要な要素としてあり、ちゃんと子供向け映画としての怪獣映画の基本は押さえられている。

全3作を通してガメラの依童(よりわら)として活躍する草薙浅黄だけでなく、“子供の味方であるはずの怪獣”というジャンルの基本設定を覆し、『~大怪獣空中決戦』のギャオスとの戦いで父母を失ってガメラを憎み、イリスを呼び覚ます少女・比良坂綾奈(演:前田愛/前田亜季)など、かつての『ガメラ』シリーズで子供に仮託されていたものを、少女に乗り移らせた。ここにも現代的でありながら神話的要素も入れ込んだ、日本独自の怪獣映画のさらなる発展を目指そうという意図がうかがえる。

古びない“平成”の空気感、怪獣の脅威を実感させた特技班の貢献

よく『~邪神覚醒』の渋谷壊滅シーンで若者が死ぬあたりで、当時の時代性とともに語られたりすることも多い「平成ガメラ」シリーズ。たしかに『~レギオン襲来』の、レギオンが巣くう地下鉄構内での作戦シーンが地下鉄サリン事件を想起させるなど、何より世紀末の不安な時勢、空気感を表してもいる。

この手の時事、空気感を入れ込んだシーンというものは大抵、古くささを感じて、「ああ、この頃はこうだったんだろうな」と見てしまうものが多いだろう。それはつまり“昔の事象”になってしまったということなのだろうが、ガメラ3部作については、あまりその感覚はない。それは今と地続きになっている作品だからなのだろう。

制作当時は、SF的モチーフに「もし今の日本に怪獣が現れたらどうなるのか」というリアルなシミュレーション感を持ちこんだ物語が頻繁に編まれていた。『ガメラ』の他にも『エヴァンゲリオン』や『パトレイバー』など、似たテーマが多く扱われていた時期だった。

特に『~レギオン襲来』に顕著であるが、都市が怪獣に破壊され、その危機が地方にとどまらず首都に迫ってくる、というリアルな戦略的側面としての怪獣映画という要素が、「平成ガメラ」3部作には非常に強い。地勢的なリアリティや、自衛隊を主軸としたミリタリーアクションに政治的な思惑などが絡んでいく……これはすっかり今の特撮の語り口のスタンダードになっているだろう。

もちろん怪獣の脅威をリアリティを持って感じることができるのは、やはりミニチュアセットで精密に再現された都市、そしてそれが破壊されるシーンあればこそだ。これを実現した特技班の力は大きいだろう。怪獣のサイズに合わせるために、特技監督の樋口真嗣は雨の代わりにもっと粒子の細かい砂を用いたり、ガメラのブレスはスーツの中にドライアイスを入れて実現するなど、細部への徹底したこだわりでリアルな街や怪獣を現出させた。これが、没入感ある都市破壊シーンを生み出しているのだ。

『ガメラ2 レギオン襲来』副音声解説番組も放送!

おなじくムービープラスで6月に放送される「副音声でムービー・トーク!」では、かつてアーノルド・シュワルツェネッガーの『トータル・リコール』(1990年)も取り扱った。あちらも90年代初頭に、今までのマットペインティングやミニチュアなどの技術とCGなどの最新技術とを融合させ、その両方の良さを併せ持ったゴージャスな特撮技術を堪能できる作品だったが、今回の副音声版『~レギオン襲来』でも、かつての『ガメラ』シリーズから『エヴァ』や『シン・ゴジラ』へとつながる流れの源であるあたりが語られている。

『~大怪獣空中決戦』はSF、『~レギオン襲来』は戦争もの、『~邪神覚醒』は超自然、と同一サーガの中にありながらも、作品ごとに扱うテーマが異なった見事な、唯一無二ともいえる「平成ガメラ」3部作。今回の放送を機に見比べるのもいいだろう。

準備稿のアイデアを膨らませ、少年とのふれあいからガメラの成長、というまた異なるガメラ物語を一から描いた『小さき勇者たち~ガメラ~』(2006年)、NetflixのCGアニメ作品『GAMERAーRebirthー』(2023年)など、平成以降も関連作品は作られ続けている。

また、ゴジラやキングコングのモンスターバース展開、ウルトラマンの新展開など、様々な怪獣特撮ものの展開がある中、リアル志向の怪獣映画の祖として世界中に名をとどろかせ、多くのフォロワー的作品を今も生み出し続けている。『ガメラ』にさらなる新たな展開があることを期待して待ちたい。

文:多田遠志

『ガメラ 大怪獣空中決戦』『ガメラ2 レギオン襲来』『ガメラ3 邪神<イリス>覚醒』はCS映画専門チャンネル ムービープラス「特集:平成ガメラ三部作イッキ観!」で2024年6月放送

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