ホロライブがドジャースとコラボ BEAMSはVRChatに「どこでもない東京のどこか」をオープン

■ホロライブとドジャース、夢の共演 「VTuberの活動終了」に新たな形も登場

多角的な展開のつづく『ホロライブプロダクション』は、思わぬところとコラボを果たした。コラボ先は、ロサンゼルス・ドジャース。あの大谷翔平や山本由伸が籍を置くMLBチームだ。

企画実施日は7月5日。この日のドジャースの試合で、星街すいせい、兎田ぺこら、Gawr Guraの試合開始アナウンスやエールビデオが流れるほか、コラボドローンショー、等身大パネルの展示、7回裏の「Take Me Out to The Ball Game」歌唱に参加など、大々的なコラボが実施される見通しだ。

メジャーリーグの試合に日本のVTuberが関わるのは、もちろん世界初だろう。「ホロライブプロダクション」が世界的存在になりつつあることを実感する。

以前、本連載で触れた「VTuber業界で去就報告が続く」流れで、ゲーム情報サイト「インサイド」が運営してきたVTuber・インサイドちゃん三姉妹にも節目が訪れた。6月30日をもって、活動を終了することになったのだ。

ただし、あくまで「インサイドちゃん」としての活動を終了し、7月1日以後は名前と姿を変えた上で、YouTubeやXを引き継いで活動を継続するとのことだ。企業の看板キャラクターを辞めて、個人活動へと転向する、というイメージだろうか。

「キャラクターを譲渡された上で所属離脱」と「キャラクター譲渡不可なので活動終了」の二択が主だったVTuber業界において、「キャラクター譲渡はしないが、存在そのものは連続性を持たせる」という折衷案が登場してきたことになる。“中の人”を公表できないカルチャーゆえに、「卒業」と同時にキャリアの連続性が絶たれやすいVTuber業界において、いい塩梅の事例がひとつ出てきたと言えるかもしれない。

■「メタバース」の市場規模はどうなる? 矢野経済研究所が調査結果を発表

矢野経済研究所が先日発表した「オタク向けメタバースサービスに関する消費者アンケート調査」によれば、「メタバース」と呼ばれるものの認知度は「非オタク」よりも「オタク」のほうが高い、とのことだ。

同社の20000人を対象としたアンケート調査によると、このうち2098人の「オタク」を自認する層のメタバースプラットフォーム認知度は52.0%なのに対し、17902人の「非オタク」の認知度は31.3%だ。調査対象総数に対する「認知している人」の比率は、筆者のほうでざっくり計算すると33.5%。これを踏まえると、「オタクのほうがメタバースを認知しやすい」という傾向は、あながち間違いではなさそうだ。

そして、「アニメ・漫画・ライトノベル」「コンシューマーゲーム」「ソーシャルゲーム」「テーマパーク」「VTuber」「2.5次元ミュージカル」「コスプレ」「フィギュア収集」の8分野を「メタバースへの置き換えが期待できる」と仮定した上で、メタバース関連市場規模を「イベント参加費」は709億円、「ワールド使用料」は980億円、「アバター販売」の市場規模は270億円と推計している。

推計値の合算は1,959億円。これが、同社の考えるメタバース市場のポテンシャルのようだ。とはいえ、この調査が指す「メタバース」とは、『フォートナイト』も『VRChat』も混ぜ合わせたものと思われる。プラットフォームごとに、マネタイズの有効な糸口は異なる点には留意すべきだろう。そして、その把握には「現地調査」は必須だ。

■「どこでもない東京のどこか」を描く、BEAMSの『VRChat』ワールド

では、実際にメタバースの「現地」を知る企業の動向はどうか。先週、特に反響があったのは、セレクトショップ・BEAMSの公式VRChatワールド「Tokyo Mood by BEAMS」だ。

レンガ造りの高架下。密集した飲食店。整備された川沿いの通り。空き缶が投げ捨てられた川。道幅を狭めるように自転車が並ぶトンネル。そこに描かれたグラフィティ――どこか見覚えがあるものの、どこにもない、「東京の街のイメージ」が濃縮された空間が、このワールドには広がっている。

BEAMSのバーチャル店舗は、この雑多な「東京」の一角に建っている。しかし、入場地点からある程度歩かないとたどりつかない。まるで自分たちはこの街の主役ではないと言わんばかりのたたずまいには、「ユーザーに愛される、10年続く空間」というコンセプトが宿っている。

BEAMSはこれまで、「バーチャルマーケット」への出展を重ねつつ、ユーザーとの交流も積極的に重ねてきた、『VRChat』に注力する企業の代表格のひとつだ。アダストリアやANREALAGEなど、アパレル方面からの参入が続く『VRChat』にて、ついに同社の「拠点」とも言える場がついに立ち上がった形だ。

5月31日にワールドが公開されると、その日のうちに1万人が訪れ、アーティストを招いたこけら落とし公演も盛況を博すなど、幸先のよいスタートを切っている。なにより、ここは「いい感じの飲み屋街」でもある。今後、少なくないユーザーが日々の酒盛りに興じる場になっても、不思議ではないだろう。

そして、このワールド制作を手掛けたのが、 VR映画スタジオ「カデシュ・プロジェクト」であることもポイントだ。同団体は、作品・イベントを貫く独自の世界観と、全編を『VRChat』で撮影した映像作品がユーザーから支持を得る、人気のクリエイティブチームだ。

一企業が、こうした団体と手を組み、コンテンツを制作するという流れは、なにも本件に限らない。現地を歩むには、現地を知り尽くした人と手を組むのが、なにより肝要だ。

(文=リアルサウンドテック編集部)

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