『虎に翼』“ライアン”沢村一樹の登場でコメディ色満載に 戦後も残る“ナチュラルな差別”も

「私を裁判官として採用してください!」

寅子(伊藤沙莉)は戦後の日本国憲法に希望を見出し、再び法曹の世界へ。男女平等が約束された日本で、これまでは男性にのみ、その資格が与えられていた裁判官を志す。

第10週から「裁判官編」として新たなスタートを切った『虎に翼』(NHK総合)。その初回の放送となる第46話は、沢村一樹演じるクセ強キャラ・久藤の登場によりコメディ色満載の回となった。

空襲で被害を受けた司法省の仮庁舎がある法曹会館に単身で乗り込んだ寅子。裁判官として雇ってもらうべく人事課を訪れたところ、そこにいたのはなんと桂場(松山ケンイチ)だった。桂場には過去にはる(石田ゆり子)がケンカを売ったこともあり、寅子はあまり良いイメージを持たれていない。それでも怯むことなく、自分を売り込む寅子に興味を持ったのが久藤だ。

頼安という下の名前から“ライアン”と呼ばれる彼のおかげで、一応採用を検討してもらえることになった寅子だが、後日家までやってきた久藤から「今はご婦人の裁判官を採用することはできない」と告げられる。しかし、代わりに自身が主任を務める民事局民法調査室で寅子を雇いたいという久藤。ありがたい申し出に家族一同は恐縮するが、当の本人である寅子はあまり嬉しそうじゃない。彼女にそうさせるのは、久藤から滲み出る胡散臭さである。

民法調査室には大学時代の同級生・小橋浩之(名村辰)がいた。小橋といえば、女子部の生徒たちに子供っぽい嫌がらせを繰り返し、よね(土居志央梨)に股間を蹴られたこともある“失礼垂れ流し野郎”。そんな小橋が親切にも声高々に久藤のことを教えてくれた。それによると、久藤は旧久藤藩藩主の家柄で、世が世なら殿様になっていたお坊っちゃま。相当な変わり者として有名で、日米開戦前に米国の裁判所を視察に行き、すっかりその魅力に取り憑かれたアメリカかぶれだという。

『らんまん』で要潤が演じた田邊や、『ブギウギ』で新納慎也が演じた松永など、西洋かぶれキャラはもはや近年の朝ドラのセオリー。その中でもとりわけ、胡散臭い久藤は息をするように男女関係なく他人を褒めまくる。寅子のことも“サティー”とあだ名で呼び、フランクに接するが、寅子は絆されない。特に彼女の“はて?”レーダーが発動したのは、「GHQも大喜び」という久藤の発言だ。

この頃、日本は連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)の指導の下で敗戦処理と国民の民主化を行なっていた。そのGHQが五大改革指令の一つとして“婦人の解放”を要請しており、それもあって久藤は寅子を採用したのだ。特別扱いと言ったら聞こえがいいが、ありていに言えば、寅子はGHQのご機嫌取りに利用されたのである。

「憲法が真の意味で国民に定着するかどうかも定かではない」と桂場が寅子の採用に難色を示したように、憲法が新しくなっても、女性というだけで散々色眼鏡で見られていた頃から何も変わらない扱いにがっかりしつつも、寅子は家族を養い、直明(三山凌輝)の学費を稼ぐためにも久藤の下につく。職場は男性ばかりで、その様子を見るに誰一人として寅子のことを仲間として受け入れてはいない。コミカルな展開ながらも、今後の問題提起につながる要素がちりばめられた第46話。寅子の存在が、ナチュラルな差別意識を感じる久藤や同僚たちにどんな影響を与えていくのかが見ものだ。
(文=苫とり子)

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