【韓国ドラマ】ビョン・ウソク大ブレイク!『ソンジェ背負って走れ』の魅力とは?軽快なラブファンタジーにとどまらない面白さを生んだキーワード

『ソンジェ背負って走れ』U-NEXTにて見放題独占配信中 (C)CJ ENM Studios Co., Ltd.

ラブファンタジーにほとんど興味のない筆者もハマりにハマった『ソンジェ背負って走れ』。視聴率は最高を獲得した最終回でも5.8%だったが、話題性は4週連続1位(グッドデータコーポレーションが発表する「TV-OTT統合ドラマ話題性指数」。2024年5月31日現在)。

韓国の人気お笑い芸人チャン・ドヨンは、YouTube番組で「『砂時計』(1990年代の金字塔的な韓国ドラマ)の時と同じ反響」と本作を評していた。その魅力はどこにあるのか。(以下、一部ネタバレを含みます)

■話題作『ソンジェ背負って走れ』の魅力とは?長身イケメン、ビョン・ウソク大ブレイク!

物語の序盤は、最愛のアイドルの死に絶望したヒロインが、15年前にタイムスリップし、将来“推し”が命を落とさぬよう奮闘していく姿が描かれていく。「成功したオタクの物語?」と思うが、観進めていくと「ん?違う?」とすぐに感じる。ラブファンタジーに、コメディ、青春ドラマ、サスペンスも盛り込まれ、物語の面白さが肉厚でまったく飽きさせない。

このドラマの人気を後押ししたのは間違いなく、30代のアイドル歌手、10代の高校生、20代の大学生を通して演じたビョン・ウソク(ピョン・ウソク)だろう。

モデル出身で190.3㎝の高身長(189㎝と言っていたが最近データを更新!)と完璧なルックス。まさにスターなキラキラ衣装でのピアノ弾き語りから、高校・大学時代の甘酸っぱいツンデレ、号泣姿やヒロインとのラブラブシーンまで幅広い魅力を見せた。

単なる好みの話になって恐縮だが、影のある役をうまく演じられる俳優に惹かれる傾向にある。それが良き俳優へと羽ばたく条件のひとつだとも思っている。

そういう意味では、ビョン・ウソクは前作『力の強い女 カン・ナムスン』の悲劇のヴィランで素晴らしい表現力を見せた。

『偶然見つけたハル』『SKYキャッスル~上流階級の妻たち~』などで知られるヒロインのソルを演じたキム・へユンも、映画『ブルドーザー少女』のやさぐれた娘役が印象深い。

そんな2人がピュアで真っすぐな役柄を演じたからこそ、切実なイメージが醸成され、トキメキや切なさがより高まったのではないか。

『ソンジェ背負って走れ』U-NEXTにて見放題独占配信中 (C)CJ ENM Studios Co., Ltd.

ちなみに、初主演にして大ブレイクを果たしたビョン・ウソクは1991年10月31日生まれで現在32歳。かつては30代で10代の高校生を演じることは珍しく、こうしたラブストーリーで30代になってからブレイクすることもほぼなかったように思う。

『ディア・マイ・フレンズ』で俳優デビューして8年。これまで100回以上もオーディションに落ち、厳しい言葉を投げかけられたこともあったそうだが、変にひねくれることなく、こうしたみずみずしい印象を保ち続けられたのは、本人の努力と度量によるものだろう。

「ハマり過ぎ!」と言われそうだが、そう考えるとさらに“ソンジェ”というキャラが生まれた奇跡に感激する。

軽快なラブファンタジーと思いきや、物語の構成、謎の散りばめ方や小道具の使い方が絶妙で、いろいろ考察したくなってしまうのも本作の大きな魅力である。デジタル腕時計、懐中時計、黄色い傘、ペパーミントキャンディ……などは、これからも語り継がれていきそうだ。

考察の仕方はいろいろあるだろうが、個人的に本作を観ていて浮かんだキーワードは“瞬間”と“記憶”だ。

■笑って、泣けて、しかも美しい、新たなラブファンタジーの名作誕生!

『18の瞬間』という青春ドラマの名作があるが、韓国ドラマは“瞬間”をとてもロマンチックに捉える。本作にも、「再び過去に戻ってようやく気づいた。もしかしたら逃しちゃいけない瞬間がどこかで光を放ちながら、私に合図を送っていたのかもしれない……」というヒロインの印象的なひとり語りのセリフがあり、ひとつの瞬間に自分が思いも寄らないことが詰まっているかもしれないことを、所々で描いている。

最も象徴的なのは、大人になったソンジェとソルが橋で再会する場面。このシーンが劇中何度も登場する。ソルが時空を行き来したことにより見方や状況が次第に変わっていくのだが、ひとつの場面を変形させて、ソルの想い、ソンジェの想い、変化する気持ちなどが表されていく名シーンだ。

そのほか、未来に起きることを話すと時が止まるシーンや、目の前で告白する声とイヤホンから聞こえる告白の声がダブるシーンなども、2人の心情が重層的に降り積もるようで、「うまい!」と唸らせられる。

もうひとつのキーワードである“記憶”は、物語をミステリアスにすることに一役買っていた。例えば、物語序盤、ソルは自分がなぜ足が不自由になったのか記憶を失くしている。そのことが、ソルやソンジェに危険をもたらす。その後も、タイムスリップした間の記憶がなかったり、その記憶がふと思い出されたり、そして最後にはソンジェが……。

“記憶”の導き役になっていたのが、認知症になったソルの祖母というのも、よく考えられてるなと感心した。祖母が正気に戻ったときに発した「私は記憶の中を旅している」「頭では忘れても、心の中ではすべて大切に覚えている」というセリフには、まさにこれぞ韓国ドラマ!と興奮させられた。

始まる前はほとんど期待されていなかったという『ソンジェ背負って走れ』。一途に愛を貫くソンジェとソルを演じたビョン・ウソクとキム・ヘユンのハマりっぷりが本作の大きな魅力ではあるが、それを支えていたのはやはり丁寧な演出と脚本だろう。

とにかくひとつひとつのシーンの作り込み方がすごい。緻密で説得力がある。その積み重ねが、笑って泣けてしかも美しい、新たなラブファンタジーの名作を完成させたように思う。原作小説にかなり改変を加えたようだが、原作ファンにも好評だったという。

ビョン・ウソクというスターを誕生させ、話題性という人気のバロメーターを証明した作品としても記憶されていきそうだ。

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