『アンメット』不器用な二人の純愛を岡山天音と生田絵梨花が好演 医療の課題投げかける

丘陵セントラル病院へ救急搬送された初老の男性は見知った顔だった。『アンメット ある脳外科医の日記』(カンテレ・フジテレビ系)第8話は、不器用な二人が心を通わせるエピソードだった。

往診の途中で交通事故に遭った綾野(岡山天音)の父・勲(飯田基祐)は性格が一変してしまった。感情や欲求が抑えられなくなり、急に怒り出したり、落ち込むことが増えた。勲がなったのは脳の損傷に起因する社会的行動障害で、高次脳機能障害に分類される。リハビリ中の父に代わって、綾野が過疎地の診療を担当することになった。

地域医療に情熱を注ぐ父と、その背中を見て育った息子。採算が取れない地域医療を廃止すれば、綾野病院の経営は改善する。けれども勲はそれを望まなかった。葛藤する父と子の対立軸は、入院をきっかけにしてそれまでと異なる様相を見せる。診療所で患者と触れ合う中で、綾野は父の本当の姿を知る。勲は見舞いに訪れた麻衣(生田絵梨花)から息子の人柄を聞いた。

記憶障害になった医師の回復を描く『アンメット』で、物語のもう一つの軸になっているのが、綾野病院の再建をめぐるエピソードである。採算重視で病床数を拡大しようとする大病院と、住民に必要な医療を提供しながら経営難にあえぐ弱小病院の対比は、今作が伝える医療の課題である。命を守るための医療が効率重視であることの矛盾。それらを背負い、望まない結婚の相手として出会った二人は、当初からすれ違いが目についた。

ミヤビ(杉咲花)の過去を知る人物である綾野と麻衣は、今作の恋愛パートを担っている。綾野と舞の恋愛模様はぎこちなくて、心を通わせようと努力する姿が、かえってよそよそしさを漂わせていた。けれども、二人は互いにとって最良の理解者だった。他人のために自分を抑える、自己犠牲という点で綾野と麻衣はそっくりだった。そんな二人なので、互いに遠慮してしまい、はた目からは不似合いに見えるものの、本人たちは意外と居心地が良かったのかもしれない。

婚約が仕組まれたものと知った麻衣は、綾野に別れを切り出すのだが、皮肉なことに、その時すでに麻衣の心は綾野のもとにあり、綾野もミヤビに指摘されて自身の本心に気づいた。引き裂かれる運命にある二人をつないだのは、リハビリ中の勲だった。第8話は珠玉のラブストーリーだった。表情の奥の隠れた感情をのぞかせる岡山天音と、いつになく伏し目がちで、湧き上がる想いを所作に行き渡らせた生田絵梨花が、2024年ドラマのベストカップルをかっさらった感がある。

ただし、そこで終わらないのが今作たるゆえんだろう。綾野と麻衣の変化は、ミヤビの中に眠る記憶と感情のトリガーとなった。展開上も、不明な点が残るミヤビの記憶障害と西島グループの経営拡大の関係に示唆を投げかける。その鍵を握っているのは、ミヤビの主治医で関東医大教授の大迫(井浦新)だ。大迫は綾野たちの仲人を務める予定だったが、計画に狂いが生じた。ラストでミヤビが自身の記憶障害の原因を尋ねる場面があったが、大迫がひた隠しにする事実に本作の核心的な謎があると想像がつく。

社会的行動障害を持つ勲を演じた飯田基祐。医師の役で自身の症状を認識する一方で、コントロール不能な感情に翻弄される心と体のミスマッチを全身で表現した。感情の出力がリミットを超えてしまうことのためらいや苦しみ、社会性をまとまわないむき出しの自我を表出しながらも、息子を思う父の理屈を超えた愛情を感じて目頭が熱くなった。

(文=石河コウヘイ)

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