ESGのG(ガバナンス)としての内部通報制度(大渕愛子弁護士)

■組織を発展させる内部通報窓口のつくり方

近年、ビッグモーターの保険金不正請求事件、ダイハツの認証不正事件など、内部通報窓口が機能せずに長期にわたり不正が横行した結果、最終的に外部への告発によって問題が明るみに出るケースが相次いでいます。

2022年6月1日施行の改正「公益通報者保護法」により、内部通報対応体制整備の義務付けが従業員数301人以上の企業にも適用されることとなりました。また、公益通報対応業務従事者には守秘義務が課され、守秘義務に違反した者には「30万円以下の罰金」という刑事罰が科されることとなっています。

22年度には0件であった同法に基づく消費者庁による行政指導の件数も、23年度にはビッグモーターを1件目として24件にも上りました。消費者庁も動きを活発化させ、本年5月7日、11人の委員による「公益通報者保護制度検討会」の初会合を開催。今後、月に1回程度の検討会を開き、年末までに制度のあり方の見直しについて取りまとめるとしています。

■企業価値向上のために

なぜ内部通報制度が機能しないのでしょうか。中小企業の場合、そもそも内部通報制度を整備していないか、一応制度を作ったとしても、機能させるための取組みがほぼなされておらず、そのことについて問題意識が乏しいのが現実です。大企業の場合、一通り制度は整っているものの、機能させるための取組みが中途半端に終わっているため、不都合な事実について内部通報がなされた時に、それを言いがかりかのように扱い、なきものにしようとすることもあります。もちろん、全ての企業がそうとは言いませんが、多くの企業がそういう傾向にあるのではないでしょうか。

では、なぜ内部通報制度を機能させなければならないのでしょうか。内部通報制度が不正の早期発見と対処に資することは知られていますが、それだけにとどまらず、不正の抑止の効果が認められるため、企業価値の向上にも大きく貢献します。ESGのうちのG、ガバナンスの一環として極めて重要な意義を有しているのです。実際に不正が明るみに出たときにも内部通報制度が機能していたか否かで企業に対する社会の評価は大きく分かれます。また、内部通報制度を機能させるための取組みを徹底している会社に対しては従業員の信頼も厚くなり、離職率を下げる効果も期待できるでしょう。むしろそういう会社でなければ、生き残りも厳しくなっていくと考えておくべきです。

この連載では、内部通報を巡る訴訟において最高裁まで戦い勝訴判決を勝ち取った元オリンパス社員の濱田正晴さんの経験談を通じて、自社の内部通報制度を見直すきっかけにしていただくとともに、どのように内部通報制度を構築していけばいいのかという点についてもアプローチしていければと考えています。


大渕愛子(おおぶち・あいこ)アムール法律事務所代表弁護士2001年弁護士登録(東京弁護士会所属)。糸賀法律事務所にて企業法務の経験を積み、2010年独立。内部通報制度などの企業制度構築に関する講演・講義多数。

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