田中みな実、“退場”しても放ち続ける存在感 『Destiny』カオリの行動が最後の謎のカギに

「少し大人になったカオリにも会いたかったな」

ゆったりとした空気の中で久しぶりに奏(石原さとみ)とお茶をしながら知美(宮澤エマ)は笑った。最終回間近の『Destiny』(テレビ朝日系)だが、何があっても奏をはじめとする大学時代の仲間たちの中にはカオリ(田中みな実)がいる。

カオリは奏たちの同級生で、親が病院を経営する名家の娘。女性が少ない法学部の中でも目立った存在だった。華やかな容姿で、高級車を持ち、身につけている服もバックも高級品。学生たちからは羨ましがられていたが、カオリ本人は「本当に欲しいものは手に入らない」と打ち明けていた。親しい友人たちが司法試験を目指して勉強する中、カオリは就職活動をするがあまりうまくいかず、同じ時期にずっと想いを寄せていた真樹(亀梨和也)と奏が恋仲になっていくのを目の当たりにしてメンタルが不安定になっていく。

奏と初対面の時、自己紹介をしながら体を寄せすぐに甘えてみせたカオリ。奏は驚いていたが、カオリはこんなふうに人に構われるように振る舞うことが得意だった。しかし、それと他人に弱さを見せることができることは別である。カオリは極端に他人に弱さを見せることができなかった。

たとえば、就職がうまくいっていなかった時にカオリが「就職活動がうまくいかないよ~」と冗談めいてでも誰かに話せたり、カオリの心中を察して「カラオケ行こうよ!」と誘った真樹に乗っかれる余裕があったなら、心の中に澱んだ色々を溜め込まずにいられたかもしれない。

でもカオリにも、プライドや必死で頑張る仲間たちに心配はかけたくないという優しさがあっただろう。そうしているうちに周りが気づいた頃には、カオリは手遅れなほど精神不安定になっていた。いや、もしかしたらカオリ自身もなかなか気がつけなかったのかもしれない。

そう考えてしまうのは、カオリを演じている田中みな実の不安定な時とそうではない時の“切り替わり”があまりにも“見える”からだ。第1話で「環境エネルギー汚職事件」を調べたカオリはわかったことを奏と真樹に伝えるかで知美と言い争うが、カオリの中には、それを聞いただけで不安定になってしまう“地雷ワード”が存在している。でもおそらく、カオリ自身はそれに気がついておらず、体が先に反応する。そしてこの言い争いをきっかけにカオリは完全に“闇堕ち”してしまう。真樹を呼び出して行き先を告げずに車を走らせたカオリの目は完全に据わっていた。もう“あちら側”からは帰ってこれない。それが一目でわかってしまうことが、よりカオリの危うさと怖さを強調しているのである。

知美が夢を諦めても祐希(矢本悠馬)や希実(潤浩)と幸せに暮らしているように、あの事件がなかったらなにがしかの形でカオリにも幸せな未来が待っていたかもしれない。だが逆に考えると、カオリの行動がなかったら、繋がっていると思われる「カオリの事故死」「環境エネルギー汚職事件」「野木邸放火事件」の3つの事件の真相は明らかにならなかっただろう。もしかしたら辛い真実が待っているかもしれない。だけど真実が闇に葬られるよりは何倍もいいはずだ。この大きな事件の最初の糸口を見つけたカオリの想いを背負って、今こそ奏が歯を食いしばり、最後の一踏ん張りをする時だ。
(文=久保田ひかる)

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