【6月4日付社説】認知症対策/地域で支える仕組みが急務

 厚生労働省が認知症の高齢者数の推計値を公表した。2025年は471万人で、65歳以上の人口がほぼピークとなる40年には584万人にまで増える見通しだ。

 認知症の予備軍とされる軽度認知障害(MCI)の高齢者数の推計値も初めて示された。60年には高齢者の2.8人に1人が、認知症かMCIに当てはまる。

 長生きすればするほど、認知機能に障害が生じるリスクは高まるだけに、誰もが認知症やMCIになる可能性はある。発症したとしても当事者が不自由なく暮らし、家族ら周囲の人が不安などを抱くことがない社会づくりが急務だ。

 認知症は15年の前回推計より約200万人少なくなった。食事や運動など生活習慣の改善、禁煙などでMCIから認知症に進む割合が低下したことが主な要因だ。MCIの場合、早い段階で適度な運動や栄養バランスのある食事を取るなどの対策を講じれば、回復できるとの研究結果がある。

 発症リスクや認知症への進行を減らすには、早期発見と、一人一人が健康意識を高め、対策を実践していくことが欠かせない。しかし、適切な治療や予防策で認知機能を維持、回復できる可能性があると知っている人は少なく、物忘れなどの症状を自覚していても診断に抵抗のある人は多い。

 国や自治体は、認知症の正しい知識や早期診断の重要性、予防活動による効果を示し、認知症やMCIが改善したり、進行を遅らせたりできることを周知すべきだ。

 認知症の患者には体力などに問題がなく、仕事や趣味などで社会への参加意欲があり、自立した生活を望む人は少なくない。

 一方、自立を支える側の家族らの負担をどう軽減するかは大きな課題だ。総務省の調査で介護を理由に離職を余儀なくされる人は年間10万人に上る。介護サービスの現場でも賃金などの待遇が恵まれないことを理由に人材が不足し、事業所の撤退も相次いでいる。

 今後、身近に支えてくれる人がいない1人暮らしの高齢者の急増が見込まれる。本来ならば介護サービスで支援すべきだが、地域全体で認知症の当事者、家族らを支える態勢づくりは避けられない。

 国や自治体は、一般の人が正しい知識や接し方を学んで活動する「認知症サポーター」の養成、当事者や家族の交流拠点となる「認知症カフェ」の整備などを進めている。こうした取り組みの推進とともに、サポーターらが患者の日常生活に寄り添い、家事や移動などを手助けすることができる仕組みの構築などが求められる。

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