歯の噛み合わせの悪さも不眠の原因に 歯ぎしり癖のあった歯科医師が改善策を解説

歯の噛み合わせが不眠につながる場合も(写真はイメージ)【写真:写真AC】

虫歯はないのに口の中に違和感がある場合、もしかしたら歯の噛み合わせが原因かもしれません。そのまま放置していると、口腔内だけでなく、体のほかのところにも影響が及ぶ可能性があるそうです。改善することによって、不眠などの悩みが解消される場合もあるといいます。そこで、N.S.デンタルクリニックの長里康史歯科医師に、噛み合わせについて自身の経験を踏まえ解説していただきました。

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自分の癖によって噛み合わせが変化することも

歯の噛み合わせが変化する原因として、骨格異常や歯の治療の放置などが考えられます。また、口腔習癖も原因のひとつです。口腔習癖とは、日常生活において無意識に行っている、口に関する癖のことをいいます。唇や爪を噛んだり、指をしゃぶったりする行為のほか、頬杖や口呼吸なども。それらが癖づくと歯の位置が変化し、噛み合わせが悪くなります。

噛み合わせが悪くなると、バランス良く上下の歯が当たらなくなるため、その当たらない歯の分の力を別の歯で受け止めようとします。そうすると、余計な力がかかった歯牙にひびが入り、虫歯になったり、歯を支える骨(歯槽骨)が減って歯が揺れるようになったり、知覚過敏になったりすることも。歯の力の負担が大きい部分は汚れが溜まりやすく、着色して口臭につながることもあります。

また、咀嚼率が良い噛みやすい場所を率先して使うと、頬の張りやアゴの筋肉の発達に左右で偏りが生じます。さらに、歯の位置によって滑舌にも影響が出て、場合によっては頬粘膜(頬の内側)や舌を噛みやすくなってしまうこともあるでしょう。

噛み合わせの悪さは不眠の原因にも

歯の噛み合わせが影響を及ぼすのは、口腔内だけではありません。首や肩のこり、片頭痛などを起こすこともあります。また、噛み合わせの悪さが不眠につながることも。

ここからは私自身の話になりますが、以前から、就寝時に歯ぎしりをする癖がありました。歯ぎしりは眠りが浅いときに、無自覚に咬筋に力が入ることで起こります。歯ぎしりによって歯やアゴに大きな負担がかかると、噛み合わせに変化が生じることもあります。

私は歯ぎしりの経験から、歯ぎしりや食いしばりが起こると、自律神経の交感神経が刺激されて脳が活性化し、意識を覚醒させて睡眠の質を低下させてしまうのではないかと考えました。

そこで、適切な噛み合わせを再現できるように自分の歯に合わせたマウスピースを製作。就寝前にはめるようになってから、噛んだ際に過度に負担がかかる歯がなくなり、適切なバランスを保てるようになって知覚過敏も軽減しました。

患者さんから不眠で困っていると聞くと、私の経験上、その原因は噛み合わせにあることがほとんどです。噛み合わせ自体が直接的に睡眠の質に影響しているのか、歯ぎしりや食いしばりが引き起こすのかについては解明できていませんが、マウスピースをすることによって食いしばりによる力を適切に分散させ、不眠の不定愁訴の改善につながると考えます。

噛み合わせの矯正は大人になってからでも可能

噛み合わせを治すには、矯正治療が必要です。すべての事象において対応可能とはいえませんが、骨格的な異常があっても矯正することはできるでしょう。大人になってからでも矯正は可能です。気になる場合は、クリニックに問い合わせて相談してみるのも良いでしょう。

アゴの骨は、リモデリングといって、原形を維持しながら新しく作り替えられています。つまり、歯の位置も常に変化しているということです。もし、今の段階で歯ぎしりや食いしばりがなくても、現状を維持するために、就寝時に薄いタイプのマウスピースをつける習慣があると良いでしょう。これにより無自覚の歯ぎしり、食いしばりを浮き彫りにできますし、慣れておくと歯ぎしり用のマウスピースを製作した際に体が受け入れやすいと思います。

噛み合わせが悪いことで歯に痛みが生じた場合は、咬合性外傷という病気の可能性もあります。これは、食いしばりなどによって歯に強い力が加わることが原因です。歯周組織に負担がかかり炎症を起こしているため、なるべく刺激を与えないようにしましょう。悪化させると神経を取らなければならないこともあります。

噛み合わせが体に及ぼす原因はさまざま。不調が出る前に、日頃から予防することが大切です。歯科医院で定期的に検診を行い、自分の口腔内をチェックすることが予防対策につながるでしょう。

◇長里康史(ながさと・やすふみ)
奥羽大学歯学部卒業後、奥羽大学附属病院で臨床研修。都内の歯科医院に勤務し、N.S.デンタルクリニックを開院。自分の歯ぎしりの癖が動機となり、オリジナルマウスピース(特許出願中)を製作。

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