妻のママ友と不倫し、殺害…夫が法廷で語った言い分 妻は「ちゃんと償ってほしい」〈不倫事件の法廷から〉

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不倫は周囲に深刻なダメージを与えるものだが、当事者たちはそのゴールまでも想定して関係を始めるわけではない。妻のママ友と不倫関係に陥った男の場合、関係解消を告げられると女性を暴行した挙句、妻とともに彼女の自宅を訪問し、殺害に及ぶ——。2016年に起きた事件の裁判で男、そして妻が語った心情とは。(ライター・高橋ユキ)

●妻のママ友と不倫、関係解消を告げられ激怒

C(当時26)は2016年7月、東京都立川市のマンションで住人のパート従業員女性(26=当時)を絞殺したとして逮捕され、のちに殺人罪で起訴。翌年、東京地裁立川支部で裁判員裁判が開かれた。

Cは結婚しており、妻と長女(当時4歳)、次女(当時1歳)と暮らしていた。被害女性はシングルマザーで、実母、実妹とともに、長女(当時3歳)と暮らしていた。女性はもともとCの妻と友人で、お互い出産後も、ママ友としての付き合いがあり、家族ぐるみの交流もあったという。だが、Cと女性は事件の約2年前から不倫関係にあった。Cの妻の目を盗み、ホテルで逢瀬を重ね、頻繁にLINEを送りあっていた。

「2人は不倫関係にあり、人目を偲ぶ交際をしていた。会いたい時に会うわけにはいかない。いびつで不安定な不倫関係では不安や不満が募り、すれ違いから喧嘩も少なくなかった。その関係にさらに拍車をかけたのが、女性に彼氏ができたこと」(弁護側冒頭陳述)

そのため女性からCに不倫関係の解消を求めたところ、Cはこれを拒否。話し合いの最中に激昂し、女性の顔面をビンタする。

「引き続き、被告人の車の中で話し合いを続けたが、女性は別れたいと告げたため、被告人は再び激昂した。被害者が車から降りようとしたとき、車を急発進させてこれを阻止し、髪の毛を引っ張り、結束バンドで手を縛るなどしたため、女性の右肩には痣ができた」(検察側冒頭陳述)

このため女性は帰宅後、被害届を出すことも念頭に置いているとCに告げ、実母になりすまして「娘に痣を作ったのあなたですよね、もう娘と関わらないでください」など警告するLINEを送信した。「被害届が出されると刑務所に行くことになる、そうなると終わりだ、死んでしまいたい」(弁護側冒頭陳述)と、追い詰められたというCは、この日の夜から怒涛のLINE送信におよぶ。

女性はCとLINEのやりとりをしながら、友人に「友人の旦那と関係持って 終わらせたいのに終わらせられない」とLINEを送っていた。

別れたい一心か、女性は事件当日朝、Cの妻に不倫をLINEで打ち明けた。するとCは妻のスマホから妻になりすまして連絡を取り、女性には“C妻との2人での話し合い”と思わせた上で、妻と一緒に女性宅へ向かった。

家を出る時に白い電気コードをバッグに入れた。妻と女性との話し合いの最中、Cも部屋に入り、妻を部屋から出し、その隙に電気コードをバッグから取り出し、首を絞めて殺害した。

Cは殺害行為について罪状認否で「被害者の同意があった」と述べ、殺人罪には当たらないと主張した。

●「『一緒に死ぬか』と言うと彼女はうなずきました」

LINEのトーク履歴からは、妻子がいるにもかかわらず、そして、女性に暴力を振るい愛想をつかされたにもかかわらず、全てをうやむやにしようとして、なおも女性との関係を続けようとしたCの狡猾さが浮き彫りになった。

Cは被告人質問でも“殺害ではなく心中だった”という趣旨の発言を繰り返した。

「『死にたいのは私の方だ、今すぐ飛び降りたい』と言われたので『一緒に死ぬか』と言うと彼女はうなずきました。心中しようとして先に彼女の首を絞めてから、自分もベランダにコードをかけて首を絞めたのですが、死ねなかった」

殺害後、妻とともに昭島署を訪れ「女の人の首を絞めたかもしれない」と伝えているが、それも「記憶がない」と述べる。

検察官「昭島署で『女から首を絞められた』とも言ってませんでしたか?」 C「殺すことを匂わせる話をしたのは覚えてますがそれ以外は記憶がありません」

殺害行為は女性が同意したものであると主張し、その他全て「記憶がない」で通す姿勢に、傍聴席からは何度も失笑が漏れていた。さらに情状の被告人質問になると態度は一変。泣きに泣き、嗚咽を漏らしながら、時折証言台に突っ伏し、女性への謝罪を語り続けるのだった。

「自分が命奪って…申し訳なかった…(嗚咽)…当時後々のこと考えてなかったし、後悔してます…」

検察官も「あなた、本当に反省してるんですか? 泣きながらごめんって言えば反省してると思ってもらえると思ってない?」と厳しく問いかけ、また傍聴席から失笑が漏れる。

ママ友と夫が不倫関係にあった、当の妻は複雑な心境を覗かせた。

「謝罪がなかったし、怒りの方が……不倫を隠されたりしてたんで。旦那へも同じ気持ち。隠されていたので怒りはありますけど、ちゃんと償ってほしい」

懲役15年の判決を言い渡した裁判長は「被害者が被告人からの加害行為を極度に恐れていたのに、事件当日会ってからわずか数時間のうちに死ぬことに同意するとは考えづらい」と述べ、Cの『首絞めに合意があった』という主張を退けた(求刑懲役18年)。

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