“ワープドライブ”が実現する日が来るかも? 新研究が示唆することとは

SFファンが「ワープ航法」と聞いて頭に思い浮かべる作品は「スター・トレック」かもしれません。同作品はテレビ放映が1966年に始まって以来50年以上にわたってシリーズが続いています。最新作「スター・トレック ディスカバリー」では菌糸ネットワーク(mycelium network)(※1)とワープ航法とを結びつける斬新な試みがなされており、視聴したSFファンを魅了してやまないかもしれません。

※1…菌根類の個体どうしが土のなかで作る菌糸のネットワークのこと。ほかの植物ともつながり共生関係を築く。

アメリカのシンクタンク「Applied Physics」の研究員であるJared Fuchs氏が率いる研究グループは、新しいワープドライブ(航法)を考案した模様です。Fuchs氏は、米国アラバマ大学ハンツビル校で博士号(PhD in Physics and Astronomy)を取得しています。

【▲ ワープ航法で移動する宇宙船の想像図(Credit: NASA)】

■負のエネルギーをもつ“エキゾチック物質”を前提するワープドライブの原型

Fuchs氏の研究の土台となった研究成果は、メキシコの物理学者ミゲル・アルクビエール氏が1994年に提案した「アルクビエール・ドライブ」(アルクビエレ・ドライブとも)です。アルクビエール・ドライブはスター・トレックを製作したスタッフが考案した方法と似ており、宇宙船を取り囲む「ワープバブル」によってワープが可能になるようです。ワープドライブ理論は一般相対性理論に基づいており、宇宙船の前方の時空が収縮し、後方の時空が膨張することで、ワープバブル内の宇宙船が出発地である地球側から目的地へと押し出されるのだといいます(※2)。

アルクビエール氏自身が指摘するように、アルクビエール・ドライブの問題点は「負のエネルギーを持つ物質を前提としなければ実現不可能である」ことのようです。こうした“エキゾチック”な物質の存在は古典的なマクロな世界では禁じられているといいます(※3)。

※2…アルクビエール氏は論文のなかで、「ワープバブル(Warp Bubble)」という用語を用いていない。アルクビエール氏は計量を定義し、負のエネルギーをもつ物質が存在すると仮定するならば、上述した時空の歪みを発生させられるので、遠く離れた恒星まで任意の小さな時間(arbitrarily small time)で航行できるとしている。この意味で、宇宙船が“光速を超えて”移動できると表現されることがある。

※3…アルクビエール氏は論文のなかで、量子場の理論で負のエネルギー密度をもつ物質の可能性を示唆する。しかし、ワープドライブへの批判的検証を続ける物理学者のEthan Siegel氏は、エキゾチック物質の候補だった反物質が負の重力をもたないことが、欧州原子核研究機構(CERN)での実験によって示されたため、アルクビエール型のワープドライブ理論は“死んだ”のだと指摘している。

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■エキゾチック物質の代わりに前提する「物質殻」

これに対してFuchs氏らの研究グループは、エキゾチックな物質を前提とすることなくワープドライブが実現可能なモデルを考案したようです。研究グループは、負のエネルギーをもつ物質の代わりに安定した物質殻(matter shell)があればワープバブルを作り出せると主張しています。そのためには、内側の半径が10m、外側の半径が20mというサイズでありながらも、木星の約2.3倍の質量(約4.7×10の27乗kg)を持つ非常に高密度の物質殻が必要になるようです。

ただし、このワープドライブで可能となるのは光速を超えた移動ではなく、一定の“光速に準じた”速度でのワープである模様です。恒星間を瞬時に移動できるとは言えませんが、光速よりもわずかに遅い速度で移動できることに加えて、船内の飛行士はワープドライブの使用中に打ち上げロケットのような加速度を受けることがないというメリットもあるようです。

研究グループによると、ワープドライブの理論的可能性の進展が見られるようになったのは、計算機でシミュレーションできるようになったことが一因のようです。アインシュタイン方程式は複雑であるため、解析的な方法でワープドライブの解を見出すには時間がかかりすぎるのだといいます。研究グループは、Applied Physicsが開発した数値解析ツール「ワープ・ファクトリー」を活用することで数値解を求めることに成功した模様です。

■ワープ時代の幕開けとなるか?

とはいえ、研究グループが提案した新しいワープドライブが本当に実現するかどうかについては不明のようです。研究グループのひとりであるChristopher Helmerich氏も「依然としてばく大なエネルギーが必要となる」と課題を自覚しているようです。

それでもなおApplied PhysicsのCEOであるGianni Martire氏は、「我々に恒星間を航行する準備はまだできていないが、(今回の研究成果が)新しい可能性を開いたはずだ」と述べており、「我々は人類がワープ時代(の流れ)に乗れるよう、着実な進歩を続けていくだろう」としています。

Source

  • Space.com – ‘Warp drives’ may actually be possible someday, new study suggests
  • Business Wire – New Study Achieves Breakthrough in Warp Drive Design
  • Fuchs, J. et al. – Constant Velocity Physical Warp Drive Solution
  • Helmerich, C. et al. – Analyzing Warp Drive Spacetimes with Warp Factory
  • Alcubierre, M. – The warp drive: hyper-fast travel within general relativity
  • White, H. S. – Warp Field Mechanics 101
  • Big Think – I wrote the book on warp drive. No, we didn’t accidentally create a warp bubble.
  • Big Think – Warp drive’s best hope dies, as antimatter falls down
  • JSTOR – Is Star Trek’s Warp Drive Possible?

文/Misato Kadono 編集/sorae編集部

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