依存症は甘え? フリマアプリにSNS…ワーママやOLが陥る依存症の怖さ「女性ほど治療にアクセスしづらい」

『満タサレズ、止メラレズ』1話『買い物依存 ワンオペ・ワーママ前編』(C) 駒井千紘/ソルマーレ編集部

大谷翔平選手の元通訳・水谷一平氏による事件で、背景にあったとされるギャンブル依存症に注目が集まった。そんななか、身近に潜むさまざまな依存症をテーマにしたオムニバス漫画『満タサレズ、止メラレズ』(コミックシーモア (C) 駒井千紘/ソルマーレ編集部)がショートドラマ化。主人公は、“子持ち様”と言われ苦労するワンオペママ、結婚のプレッシャーを感じる独身OL、はた目には順風満帆な主婦など、いわゆる“ごく普通の女性たち”だ。彼女らはなぜ、買い物やSNSに依存してしまったのか。この主人公は自分だったかもしれない…そうしたジワリとした恐ろしさを秘めた本作について、作者の駒井千紘氏に聞いた。

■「依存症は甘え」「自分は絶対にならない」? かつての“アル中おじさん”の描かれ方が偏見助長

オムニバス漫画『満タサレズ、止メラレズ』で柔らかなタッチの絵柄で描かれるのは、一見ごく普通の女性たちが抱える生きづらさと、その果てに陥るさまざまな依存症の底なし沼。作者の駒井千紘氏は、「依存症は誰もがなる可能性のある病気だと知ってほしい」と本作を描いた思いを語る。

「以前にも依存症を扱った漫画を描いたことがあり、さまざまな反響をいただいた中には『依存症は甘え』『自分はアルコールもギャンブルもやらないから絶対にならない』といった意見も少なからずありました。しかし、実はこうした誤解や偏見が強い人ほど、いざ自分が依存症に陥ったときに『いつでも引き返せる』と軽視したり、家族が依存症に苦しんでいても『恥ずかしい』と隠すことで悪化してしまうケースはよく耳にします」

依存症の典型例として、アルコール依存が「一升瓶を抱えた中年のおじさん」といったステレオタイプに描かれてきたことも、「偏見を助長したのではないか」と駒井氏は言う。

「実際、取材をさせていただいたNPO法人リカバリーによると、歴史的には男性のアルコール依存症患者を中心に治療プログラムが組み立られてきたそうです。つまり、女性ほど依存症治療にアクセスしづらい。一方で、現代は女性ならではの依存症に陥る問題に溢れています。“ごく普通の女性たち”を主人公にしたのは、『自分には関係ない』ではなく、『この主人公は自分だったかもしれない』と捉えてもらうきっかけになればという思いからでした」

『満タサレズ、止メラレズ』では、買い物依存、SNS依存、摂食障害、アルコール依存の4つの症状が扱われている。その背景にあるのが、現代女性がさらされている社会的プレッシャーだ。

「買い物依存の主人公はワーキングマザーで、会社でも保育園でも謝ってばかり。SNS依存の主人公は、会社への貢献に邁進するキャリア女性で、それゆえに『ワーキングマザーへの不満』と『独身としての肩身の狭さ』への鬱憤が溜まっています。依存症は意志が弱くだらしない人がなるという偏見がありますが、実は逆で、患者さんには真面目で責任感が強い人が多いととよく言われています」

やがて、買い物依存の女性は会社の備品を横領してフリマアプリで転売したことで解雇に。SNS依存の女性はSNSの誹謗中傷が身バレし、個人情報を特定され、晒され、退職に追い込まれてしまう。

「お得な買い物ができたときや、SNSでいいねがついたときに『うれしい』と心が躍った経験は誰しもあるはずですし、それ自体は悪くないと思います。しかし、それが何かしら満たされない心を埋める行為になっていると、『うれしい』を繰り返し求めるようになり、やがて脳のブレーキが効かなくなってしまいます。『そうなってしまう前になぜやめられなかったのか』といった自己責任論で語られがちですが、自分でも気づかないうちに脳の機能が侵されてしまうのが依存症という病気なんです」

■完治が難しい病気、だからこそ「転んだ時の起き上がり方は示しておきたい」

スマホひとつあれば、その場でなんでもできてしまう時代。依存の対象はさまざまだが、ネットショッピングやSNSは手軽がゆえに「構造的に依存に陥らせやすい」と駒井氏は指摘する。もちろん便利なツールでもあり、依存か否かの線引きは難しいが、一般に人間関係や社会生活に支障をきたすようになったら危険信号だとされる。

「存症は犯罪とも結びつきやすいですし、わかりやすく表面化した犯罪は叩かれやすいものです。でも依存症の取材を続けるうちに、そこで思考停止していいのかな? という疑問も湧いてきました。特に日本は一度失敗した人を徹底的に排除する風潮があり、それが再犯にも繋がっているという指摘がありますが、それって誰にとっても望ましい社会ではないですよね。身近な依存対象と等身大の女性をテーマにしたのは、誰もがつまずくことはあるけれど、回復の道はあるということ。そして、回復した人を受け入れる寛容な社会になってほしいという願いもありました」

依存症への理解が進んだアメリカでは、カウンセリングや自助グループが一般に広く開かれており、芸能人やアスリートなどの著名人にも依存症を克服して再活躍している人も多い。『満タサレズ、止メラレズ』でも主人公たちは落ちるところまで落ちるが、最終的には治療や回復プログラムに結びつけている。しかし、結末は完全なハッピーエンドではない。

「依存症は完治が難しい病気で、一度回復しても常に再発リスクと隣り合わせです。だから都合よく『すべて丸く治りました』という描き方はできませんでした。それでも、転んだ時の起き上がり方は示しておきたかったですし、何より『誰もが完璧ではなく、不完全さを抱えながら生きているんだ』というメッセージになればという思いもありました」

ドラマは6月23日よりABCテレビで放送(後11:55~/TVer・ABEMAで見逃し配信あり)。

「依存症は誰もがなる病気。『自分が依存症になるとしたら、対象は何か?』という視点で見ていただけるとうれしいです」。

(文:児玉澄子)

© オリコンNewS株式会社