「花粉症おさまった…」と安心してる場合じゃない、来春を快適に過ごすための治療は今が重要

今年の花粉症治療、まだ終わりじゃない!

ようやく6月となり、花粉の飛散もおさまったと安心している人も多いだろう。だがその今こそ、「花粉症の治療を始めるチャンス」と話すのは、これまで多くの花粉症患者を治療してきた『クリニックフォア』亀戸院の院長・加納永将先生。いわゆる対処療法ではない、「舌下免疫療法」をこの時期から始めることで花粉症が発症しづらくなるとのこと。比較的新しい、この治療法とは?

■花粉をあえて接種する治療? 今始めれば来春の症状を緩和できる

――「舌下免疫療法」は、まだ広く知られてない新しい治療法です。どういったものなのでしょうか。

「簡単にいえば、あえてアレルギーの原因物質を先に体内に取り込み、治療していくという方法です。適切な表現ではないかもしれませんが、この場合は花粉をあえて接種する治療。抽出された花粉のエキスが薬の錠剤となっていて、それを舌の下に1日1回、投与する。これを継続していくことで体が花粉に対して慣れてきて、いずれは克服していくという治療になっています」

――インフルエンザワクチンにように、先にウイルスを投入して免疫を作り、予防するような方法でしょうか。

「もちろん全く治療方法は違いますが、おおまかな原理は一緒ですね。舌下免疫療法は、その症状を止めるという一般的な花粉症の薬と異なり、発症しないよう根本から治していくという治療法になります」

――つまり、花粉症の症状自体が出づらくなることが期待される…?

「おっしゃる通りで、WHO(世界保健機関)からもその明確なデータが出ております」

――治療を始めてどれぐらいで効果が出始めるものなのでしょうか。

「早い方は数ヵ月、できれば1年以上。3年前後続けると、さらに克服が期待されます。ただまだ新しい治療法なので、20年後に花粉症がぶり返すかどうかいうと、まだそのデータはありません。ただし現状では、舌下免疫療法を行うことで明らかに花粉症の症状は抑えられます。療法中に症状が出ても、花粉症の薬を併用しても問題はないので、花粉症の方にとって舌下免疫療法は有力な選択肢と言えます」

――効果が出るまでに時間がかかるということは、なるべく早く始めた方がいいということでしょうか。

「推奨は前年の6月以降になります。というのは、花粉は5月頃まで飛んでいるからです。GW明けから始めるという先生もいらっしゃいますが、私は基本的には花粉の飛散がない、5月後半ないし6月から始めることをお勧めします」

――その根拠とは?

「スギ花粉飛散時期はスギ花粉に対する感受性が高まっていることが多いため、治療の開始時期はスギの飛散が収まった頃が望ましいです。簡単に言うと、副作用が出やすいという報告があるということですね。舌下免疫療法は効果が1ヵ月以内に期待できる治療ではないので、花粉が飛散している間に開始することはメリットが小さく、デメリットが大きいと言えます。ゆえに、花粉に暴露していない5月後半から6月以降が推奨期間となっています」

■舌下免疫療法、どんな人に合っている?

――どのような方に合っている治療法ですか。

「まず、花粉症の症状が酷い方ですね。具体的に言うと、点鼻薬や点眼薬を使っても、アレルギーの飲み薬を飲んでも良くならない方。こうした方には間違いなく適しています。それ以外の方でも、花粉症を克服したいという方には提案しています」

――副作用はないのでしょうか?

「舌の下にアレルギー物質を乗せる治療法なので、舌の下にヒリヒリ感やむくみという症状が出る方はいます。アレルギー症状で皮膚がかゆくなるのに似た症状ですね。ですが、それがアナフィラキシーにまで至る例はこれまで一度もなく、99%以上安全。中等以上の副作用が出る可能性は、何百人に1人の割合です。病院で点滴される抗生物質よりも、薬疹などの副作用の可能性は低いので、医師としては『極めて安全性が高い』と言えます。

ただ、人によっては舌の下に薬を乗せる違和感に耐えられない方もいるので、その場合は症状を和らげる薬を併用、耐えられない場合は中止します。しかし、ほとんどの方は1週間以内には慣れるようで、そのまま続けられますね」

――新しい治療となると、価格は高いのでしょうか?

「薬価がだいたい月に千数百円程度なので、一般的なお値段で処方が可能です」

――ならば安心ですね。

「この舌下免疫療法は推奨期間が3年以上で、最大で5年。つまり5年以上は続けられません。そもそも、ほとんどの方が3年で効果を感じ、5年続けた方自体がほとんどいません。また、効果が出るのは早くて数ヵ月ですが、強く効果を感じるには1年前後は続けた方が良い。来年の花粉症シーズンのためにも、今から始めてみることを推奨します」

【監修者】
加納永将(かのうながまさ)
クリニックフォア亀戸院院長。順天堂大学を卒業後、順天堂医院に勤務し、プライマリーケア領域を中心とした診療を行う。その後、離島の村医として、僻地医療や在宅医療に携わり、2023年にクリニックフォア亀戸院院長に就任。

(文:衣輪晋一)

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