高エネ研と筑波技術大 物理学入門 点字本に 宇宙と物質の謎 考えて 茨城

点字本「宇宙と物質の起源」(高エネルギー加速器研究機構提供)

視覚障害者が宇宙や物理について詳しく知る機会をつくろうと、高エネルギー加速器研究機構(KEK、茨城県つくば市)と筑波技術大(同市)が、点字本「宇宙と物質の起源 『見えない世界』を理解する」を刊行した。自然科学系の専門書は点訳が難しく流通が少ないのが実情。第一線の専門家同士がタッグを組み、素粒子物理学の入門書として作り上げた。

点字本は全10章で構成。宇宙の始まりから構造、膨張の起源や素粒子などについて解説されている。通常版は講談社ブルーバックス(320ページ)から刊行された。

同大の前身となった筑波技術短大の初代学長は、KEKのルーツとなった研究所に勤めていた故・三浦功さん。その縁が現在も続いており、点字本の企画につながった。KEKが約2年前に同大に協力を要請し、KEK研究者ら10人が執筆。同大の研究者ら5人が点訳を進めていた。

KEK素粒子原子核研究所の斉藤直人所長は「素粒子は私たちの目に映らない世界。宇宙と物質の謎について一緒に考えてもらえるようになればうれしい」と話す。

同大の宮城愛美准教授によると、点訳はボランティアが手がけることが多く、理系の専門書は「ハードルが高い」(宮城准教授)ため、物理学の点字本は国内で約30冊とわずかだ。本の読み上げ機能も活用できるが、「自分のペースで繰り返し読み返せる点字本での学習は大切」と指摘する。

今回の点字本は、同大側が執筆者に専門用語などについて意味や読み方を確認しながら点訳。点訳が省略されることもある触図も36点作成した。

中でも、欧州合同原子核研究所(CERN)の大型加速器の図では、通常版では奥行きを表現するため楕円(だえん)形の立体図で表示されるが、視覚障害者の誤認を防ぐため触図では真上から見た真円形を表示する工夫を加えた。

つくば市内の書店で5月下旬に開かれた出版記念トークショーで、執筆者の一人で同研究所の中浜優准教授は「高校生でも頑張れば理解できるような内容になっている」と読者の広がりに期待を寄せた。

点字本のデータはインターネットで公開されており、KEKと同大のホームページなどで無償で入手できる。通常版の印税は全額寄付され、盲学校や点字図書館への点字本の寄贈につなげられる予定。

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