社説:強制不妊の上告審 人権救済の判断に期待する

 「戦後最大の人権侵害」の被害者救済に向け、最高裁には「人権のとりで」にふさわしい判断を期待したい。

 旧優生保護法(1948~96年)の下で不妊手術を強いたのは憲法違反だとして、障害者らが国に損害賠償を求めた5件の訴訟の上告審が大詰めを迎えている。先月末に開かれた弁論を踏まえ、来月3日に統一判断が示される見通しとなった。

 焦点は、不法行為から20年の経過で原告の損害賠償請求権が消滅する「除斥期間」を適用するかどうかだ。

 人の命に優劣をつける優生思想に基づき、人の生殖機能を奪った政策が憲法違反で非人道的であることは、2018年以降に各地で起こされた裁判の判決で定着したといえよう。

 福岡地裁で先週にあった訴訟判決も、不妊手術の強制を違憲とし、除斥期間の適用は「正義、公平の理念に反する」として国に賠償を命じた。これまでに地裁と高裁で出された計21件の判断のうち、違憲判決は19件になった。

 国側は一貫して、手術時を除斥期間の起算点とすれば、提訴段階で20年以上が経過している被害者に損害賠償請求権はない、と主張してきた。

 今回、最高裁が審理対象にした5件の高裁判決のうち、国の主張を認めたのは1件で、4件は除斥期間の適用を退けた。

 22年2月の大阪高裁判決は、除斥期間の起算点を、旧法が母体保護法に改正された1996年とすべきとして、適用を違法とした。その後も同様の判断が積み重ねられている。

 理不尽な政策と社会の差別の中、被害者や家族は羞恥心や自責の念を抱かされ、相談などへのアクセスや名乗り出が難しい実情があった。被害の訴えが20年以上後になった責任は被害者ではなく、国にあることは明らかである。

 国は「例外を認めれば法秩序が不安定になる」と主張するが、国家の過ちと不作為の被害者を放置する理由にはなるまい。

 そもそも除斥期間の一律的な適用は、過去の最高裁の判断に基づいており、戦後補償や公害などの訴訟にも通じる「時の壁」を定着させた。

 だが、今回の弁論で被害者たちは「自分で決めたかった」「最後の希望です」などと声を震わせて訴えた。その叫びを受け止めねばならない。

 強制不妊手術の被害者に、本人の申請で一時金(320万円)を支給する法律が19年に成立したが、申請者数は伸びない。裁判では一時金の4倍以上の慰謝料が認められており、救済法の不十分さは明らかだ。

 被害者は高齢化し、残された時間は多くない。原告団や弁護団などは全ての被害者の救済を求めている。最高裁は期待に応えるとともに、行政、立法府も対応が問われている。

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