川崎・脇坂泰斗の名古屋戦後の涙の意味。勝てない時のキャプテンの辛さと覚悟

[J1第17節]川崎 2-1 名古屋/6月2日/Uvanceとどろきスタジアム by Fujitsu

雨の等々力。

試合終了のホイッスルが響くと、川崎の14番はその場にうずくまった。チームメイトたちに優しく労われた男の目には光るものがあったのだ。

川崎にとっては4試合ぶりの勝利だった。アウェー2連敗、しかも、鳥栖(●2-5)とG大阪(●1-3)には計8失点を喫し、前節の柏戦もホームで先制しながら後半に追いつかれて勝ち切ることができなかった(△1-1)。

だからこそ、名古屋戦に懸ける思いは強かったのだろう。序盤からエンジン全開で攻めた川崎は6分にCKから家長昭博がダイビングヘッドでネットを揺らす。

ただ直近の3試合はすべて先制しながら1分2敗。この日も名古屋に決定機を作られたが守護神のチョン・ソンリョンを中心になんとか耐える。すると18分には今度は家長が相手DFからボールを奪って欲しかった追加点を決めてみせたのだ。

2-0で折り返した後半、こちらもここ数試合の課題のように、テンポが落ち、攻め込まれる時間もあった。それでも、この日は粘り強く試合を進める。3点目のチャンスはモノにできず、89分にはCKから1点を返された。それでも勝利のために走り続けたチームは、歓喜の瞬間を迎えたのである。

【動画】川崎×名古屋のハイライト!!

17試合を終えて、5勝5分7敗の14位。悲願のACLでも敗退を強いられた。ここ数年で主力が抜け、技術力や相手を“見る目”で相手を凌駕した、川崎らしいスタイルを示せない時間も増えた。

そんな2024年、満を持してキャプテンに就任した川崎一筋、28歳の脇坂は大きな葛藤を抱えていたはずである。それでも彼は常に前向きな姿勢を崩さず「今だからこそ得られるものがある」とポジティブに語ってきた。

そのなかでの涙である。彼の苦闘を思えばグッとくるものがあったが、本人は名古屋戦後に端的に語ってくれた。

「その時の感情は分からないですね。(涙は)勝手に出たものだったので。でも良かったなという、純粋な喜び。いろんな感情があるのが人間ですが、シンプルに嬉しかったです」

多くを語らず、自分は今後もプレーで見せたいとの思いもあるのだろう。それはキャプテンの重責を背負っていく覚悟でもある。

「辛い部分があるのは当たり前で、そこで負けちゃうのか、頑張ってあがいて立ち向かうのかは自分次第。それは今日勝って終わるものじゃないですし、これから続いていくもの。それを自分なりに打ち破っていきたいです」

その気持ちは周囲も深く理解しているに違いない。試合後、脇坂に誰よりも早く駆け寄ったのは、中盤で組んだ瀬古樹だった。瀬古に想いを聞けば、こう返ってくる。

「彼はキャプテンですし、人一倍責任を背負ってやっていると思うので、そういう意味でなかなか結果が出ていないなかで、こういう勝利をできたというのはホッとしているんじゃないですかね。僕自身も横浜FCの時(キャプテンを務めた時)にそういう想いはあったので、分かるような気持ちはありました」

そして鬼木達監督もこう語った。

「僕は直接(涙を)見られなかったんですが、いろんな人から話を聞きました。本人にも伝えたところがありますが、こういう勝てない時にキャプテンの姿勢というものはやはり大事になりますし、去年(橘田)健人の時もそうでしたが、やはり勝てない時のキャプテンというのは、自分自身もそうでしたが、きついと思います。でも、それを乗り越えていくからこそ次のステージに辿りけると思っていますし、やった人にしか分からないことというものが大きいので、まだひとつですが勝ったことで重圧から少しでも解き放たれればいいなと思います。ただ、これはもうずっと今シーズンやり続けることなので、そこはみんなでサポートしながら、やっていければいいと思います。ホームで勝てて良かったですね、本当に。ヤス(脇坂)にとっても本当に良かったと思います」

この一勝を次につなげなければ意味はない。それでも、価値のある一勝にもなったはずである。

取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)

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