新垣結衣「昔より、人を頼ったり、甘えたり、隙を見せたりできるようになった」

突然の交通事故で両親を亡くした15歳の田汲朝(たくみ・あさ)と、彼女を引き取ることになった叔母の高代槙生(こうだい・まきお)。親戚という言葉だけでは到底表すことができない二人のぎこちなくも温かい関係性を描き、多くの人の心を掴んだヤマシタトモコの同名漫画を実写化した映画『違国日記』。人見知りの小説家である槙生を演じるのは、「原作は、もともと友人に薦められて読んでいました」という新垣結衣さんだ。

「作品で使われている言葉が、吹き出しの外に手書きされているユーモアのあるものも含めて、すごく好きです。でも、とても好きな作品だからこそ、オファーをいただいた時に私でいいのだろうか、魅力的な槙生ちゃんという役が務まるのだろうかという想いもありました。思い入れが強すぎると、いつまでも納得できないなど、自分で自分に対するハードルを上げたりもしてしまうので。でも、やっぱり嬉しい気持ちの方が強く、ありがたくお受けしました。槙生ちゃんは人見知りかもしれないけれど、人が嫌いではないよな、と思うんです。朝に対してもですが、ファーストコンタクトでは戸惑うものの、相手を拒絶しているわけではなく、適当にせず、ちゃんと向き合う。私も初めての方とお話をする時は緊張したり、失礼なことがないかなどと構えてしまい、話をするのに勇気が必要なこともあるので、槙生ちゃんもそうだったりするのかな? と思いました」

また、槙生は自分に対しても人に対しても、嘘がない人だと分析する。

「だからこそ、演じるにあたって、いろいろな表情を見せることは意識していました。愛想笑いをしなかったり、鋭い表情も印象的な人ですが、一方で、関わりの深い人の前では普通に笑うし、目を大きく開けてびっくりするようなこともあれば、戸惑いの顔が見えることもある。眉間に皺をよせているようなベースとなるイメージはちゃんと頭に入れつつも、そこに囚われすぎず、笑いたい時には笑ったり、自然にしていました」

朝を演じた早瀬憩(いこい)さんとは、「いい関係だったと思います」と微笑む。

「第一印象は本当にフレッシュで、ピュアが全身から溢れている…という感じでした。それが、本読みの時に初めてちゃんと話をしたのですが、シャイな感じはありつつも、すごく堂々としていて。監督の指示を聞いている時に積極的に質問をしたり、言われたことを受けてからのアウトプットがすごく早いのを見て、とても心強いなと思いました。現場では、二人とも基本的にいつも近くの椅子に座っていて、何気ない会話をすることもあれば、お互い別のことをしている時も。それがまったく気にならない空気感でしたね。一つの作品を作り上げる仲間として、できることがあればしたいと思ったし、私自身も頼りにしていて、『今のどうだった?』と聞くこともできました。会った時にいつも、すごく喜んでくれるのも、本当に可愛かったです(笑)」

こちらの質問に対して深く考えながら言葉を紡ぐ新垣さんの姿は、嘘のない槙生と重なっても見える。自身のコミュニケーションについて尋ねると、以前と少し変化したことを教えてくれた。

「昔は、“この人とこんな話をした”ということを、何年経ってもよく覚えていたんです。でも、30歳を過ぎてしばらくした頃からか、覚えていないことが増えてきて…。年齢も関係あるかもしれないけれど、前よりは構えず、力を抜いて、人と接することができるようになったような気がしています。相手に全意識を集中してガチガチになっていたからこそ、その時のエピソードがずっと頭に染み付いたのかなと。今は、その時に自然に出てきた言葉や気持ちをちょっとずつ伝えられるように。人を頼ったり、甘えたり、隙を見せたりできるようになったのかもしれません。もちろん、一人になってから反省することや、ずっと忘れられないこともたくさんありますけどね」

今作でも描かれているとおり、人と関係性を築くことは容易ではなく、傷つくことも少なからずある。それでも、誰かと繋がりたいと思ってしまうのはなぜなのだろうか。

「私は、人と関わることで本当に救われてきた人生だと思っているんです。自分では見つけられなかった視点や考え方を教えてもらえることもあれば、他者の目を通じて自分を知ることもある。それに、話を聞いてもらえるだけでも、単純に、すごく救われます。槙生ちゃんと同じで、私もわりと一人の時間を大事にしたい人ですが、でも、人とも一緒にいたいんですよね。朝は槙生ちゃんと出会うことで世界が広がり、槙生ちゃんは朝と出会うことで自身のトラウマに触れるなどヒリヒリした気持ちになりつつも、知らなかった自分の感情に気が付いていく。誰かとの出会いによって見える世界が広がることが、原作の魅力の一つだと思うし、人と関わるということの魅力かもしれません。映画にも、そういうところが映っているといいなと思っています」

『違国日記』 無愛想で人付き合いが苦手な小説家・高代槙生と、天真爛漫な15歳の田汲朝。年齢や性格、過ごしてきた環境も違う二人が同居生活をスタート。葛藤しながらもまっすぐに向き合う日々を描く。監督は瀬田なつき。6月7日より全国の劇場で公開。

あらがき・ゆい 1988年6月11日生まれ、沖縄県出身。俳優。映画『ミックス。』で第41回日本アカデミー賞優秀主演女優賞を受賞。主な出演作に映画『ゴーストブック おばけずかん』『正欲』、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』などがある。

シャツ¥53,900 エプロンドレス¥42,900(共にTHE RERACS TEL:03・6432・9710) ピアス¥7,700 右手のリング¥5,500(共にloni loni_info@auntierosa.com) 左手のリング¥198,000(oeau/Harumi Showroom TEL:03・6433・5395)

※『anan』2024年6月5日号より。写真・野呂知功(TRIVAL) スタイリスト・小松嘉章(nomadica) ヘア&メイク・藤尾明日香(kichi) 取材、文・重信 綾

(by anan編集部)

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