『くる恋』全てが“くるり”とひっくり返る衝撃的な展開  まことが思い出した非情な真実

人間不信になるかと思った。火曜ドラマ『くるり~誰が私と恋をした?~』(TBS系)第9話を観て、素直にそんな感想を抱いた。それほどに衝撃的な展開が、我々を待っていた。

まこと(生見愛瑠)の胸元には、お守りとして記憶喪失になってからずっとつけていた指輪のネックレスがなくなっていた。指輪は記憶を失ってからの自分を支えてくれた、かけがえのないアイテムだ。しかし、新しい一歩を踏み出すためには、時として大切なものを手放す勇気も必要なのかもしれない。

一方、まことにフラれたことを香絵(丸山礼)に話す朝日(神尾楓珠)。香絵からまことにストーカーがいたかもしれないという話を聞き、朝日は心配そうな表情を浮かべる。もしそれが事実なら、まことは大きな危険に晒されていたことになる。いまでこそ、朝日・律(宮世琉弥)・公太郎(瀬戸康史)と頼もしい面々が彼女の側にいるようにも見えるが、3人の中にストーカーが潜んでいるとすれば、彼女の安全を願わずにはいられない。

そんな中、街歩きデートを楽しむまことと公太郎。春の陽気に誘われるようにして、2人は賑やかな通りを歩く。公太郎の優しさに触れると、まことの表情は一層明るさを増す。それはつまり……というのは多くの視聴者が察するところでもある。虫が苦手だという公太郎の意外な一面も明らかになり、2人の仲は一層深まっていく。

そんな時、まことのクリニックの先生・井口(肥後克広)から、千草(片平なぎさ)が行方不明になったと知らされる。「もしかしたら道を忘れてしまったのかもしれない」と井口は語る。記憶障害を抱える千草にとって、迷子になるのは珍しいことではないのかもしれない。まことと公太郎は、井口と共に千草を捜索する。2人の協力あって千草は無事に見つかり、井口と千草が夫婦だったことが明らかになる。

肥後克広演じる井口は、とても穏やかで診療の言葉も優しい。記憶を失っていく妻を傍で見守るのは、想像を絶するつらさがあるだろう。たとえ一瞬だったとしても、千草が思い出したことは井口の記憶に刻まれているはずだ。井口夫妻の絆が記憶喪失の壁に向き合う2人の心の琴線に触れたのか、そっと互いの感情を確かめ合うように手を繋ぐ公太郎とまこと。2人の間には、言葉にできない温かな感情が通い合っていた。

そしていよいよ物語は、まことの記憶が蘇り始める重大な局面を迎える。律、朝日、公太郎、3人の記憶が交錯し、真実と記憶の矛盾に戸惑うまこと。井口が「記憶が嘘をつく」と表現するように、時として記憶は真実を歪めてしまう。「こんな曖昧な状態な私で大事なことを正しく判断できるのか」とまことは不安を口にする。そんな彼女の不安を、公太郎は「記憶、なくてもあっても、いるから俺」と力強く受け止める。公太郎の言葉は、いつだってまことの心に光を灯すのだった。

しかし、公太郎とのキスをきっかけに、蘇ったのは律との記憶だった。水族館でのキス、1年記念日の記憶……。甘くて切ない思い出の数々が、まことの脳裏をかすめる。記憶が呼び覚ます真実は、時に非情だ。朝日がフラれたことを察しながらも「俺のことはまだ決めないで」と律は告げていたが、彼が指輪の人なのであれば、その理由にも納得がいく。

しかし、そうなると「公太郎の“自称元カレ”は嘘だった?」というのは考えたくもない説に辿り着くが……。インターホンが鳴り開けたドアの先に佇む公太郎の姿に、今は少し恐怖すら感じてしまう。

この思わぬどんでん返しに「心臓に悪い」「来週が気になって眠れない」とSNSでも多くの反響が集まっている。ドラマのタイトル通り“くるり”と全てがひっくり返ってしまった第9話を踏まえて、まことは3人の男性たちとどう向き合っていくのだろうか。

(文=すなくじら)

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