大建工業、岡山工場で“音響設計”技術の神髄に触れる 独自商材を組み合わせて最適解を提供

__大建工業は建材メーカーとして、天井材、壁材、床・壁・天井下地材、ドアなど様々な自社開発の防音建材・音響製品を組み合わせて、顧客それぞれのニーズに合った最適な音環境ソリューションを提供する。
進化し続ける音響技術の最前線の開発拠点が岡山工場にある。__

同社は1958年にインシュレーションボード、64年にロックウール吸音板「ダイロートン」を開発し、82年の騒音問題の社会現象化に合わせて、「開発部 防音課」を新設した。そして、翌年には「ダイケン防音システム」を構築し東京・大阪・岡山に「サウンドセンター」を設置した。このサウンドセンターは業界で唯一の施設で、音響分野の専門知識を有する約30人の専任者が個別相談などに対応する。加えて全国のショールームなどで定期的に予約制の防音説明会も開催している。月1000件の問い合わせがあり、約300件の個別見積もり提案をしている。他にも、音を切り口に事業部で連携し、空間全体で音に対する課題に対応してきた。

岡山工場で音響シミュレーションを体感

防音室、シアタールームの内部。最新の映像・音響機器も装備。音の響き方も含めて音環境を体感できる。楽器などを持込み、どのように聞こえるかを確かめることも可能だ
防音相談では、基本的に「スタンダード防音(40dB低減)」、「プレミアム防音(50dB低減)」の、主に二つの遮音性能のスペックで提案している

その音響技術の最前線の研究開発拠点は岡山工場R&Dセンターにある。音響製品部 開発課の槇永昌弘課長は、「いつの時代も、自宅で楽器の演奏をしたい、ホームシアターを楽しみたい、といった要望はあり、音響に関する底堅いニーズはある。防音の相談では、まずはどれぐらいの音量を出すのか、外部にどれぐらいの音まで出していいのかをお聞きして、次に図面をいただき、どのように室内で音が響くのかも含めて様々なシミュレーションを行い、最適なソリューションを提案している」と話す。

岡山工場では、最上位の防音室、シアタールームを用意しており、音の響き方なども含めて、体感することが可能だ。音の大きさは、デシベル(dB)という単位で表される。例えばグランドピアノの音の大きさは、90~100dB。岡山工場の防音ルームでは、他の部屋ではピアノの音が小さな声くらいに聞こえる「スタンダード防音(40dB低減)」、他の部屋では音がひそひそ声くらいに聞こえる「プレミアム防音(50dB低減)」の、主に二つの遮音性能のスペックで提案している。「スタンダード防音」は、ピアノを弾いたり、カラオケを楽しんだりする部屋に最適なレベルの防音、「プレミアム防音」は、ホームシアターやAVルーム、楽器練習室など本格的に音を楽しむためにふさわしい遮音性能と定義する。

防音室にシアタールームの防音ドア。40dB低減、50dB 低減の2段階で、どのように室外に音漏れするのかを確認できる

防音室用天井材「オトテン」、高吸音音響壁材「オトカベL80」、家の中での音漏れにも配慮した「防音ドア」、床からの音漏れを軽減する「遮音マット」などを組み合わせて防音室を構成する。また、壁内部についても、吸音ウールや遮音シートなど、様々な商材を組み合わせの断面構造を用意しており、要望に合わせて遮音性能をコントロールする。さらに、換気扇、コンセント部材、コーキング材なども遮音性能を高めるために重要なアイテムであるため、独自の製品を開発、ラインアップする。開口部も遮音性能を高めるために重要なアイテムとなるため、最適な窓の提案も含めて行っている。

価格の目安は、例えば、8畳の楽器練習室として提案するプラン(※施工費などは含まない)で、「スダンダード防音」が約115万円~、「プレミアム防音」が約230万円~となっている。

そのほか、コロナ後、ニューノーマル時代になり、自宅で過ごす時間が増えたことに伴い、「在宅ワークで家族の声が気になる」といった相談も増えており、「在宅ワークRoomプラン」の提案も強化している。

オフィス向けの音環境提案も強化

25年6月、「新・音響実験棟」を開設

加えて近年は、オフィスや商業施設などにおいても、防音室への需要が高まっている。23年6月に関連の新商品を発売した。「サウンドトロン」は、部屋の四隅・壁際に設置することで室内の音響調整が可能な音響調整部材。低い音から高い音までバランスよく吸音する。従来は布クロスなど、吸音材の設置が必須だったが、「サウンドトロン」を部屋の四隅に置くことで部屋のデザインに制限がなくなり、性能と意匠性を両立する。

音響製品部 開発課の槇永昌弘課長は、「いつの時代も変わらず、『快適な音環境』に対するニーズは存在する」と話す

病院でのカウンセリングや学校での進路指導において、スピーチプライバシーの問題で、外部への音漏れを防ぎたいという相談は増えているという。従来は会議室、補聴器試着室、動物病院の診察室、カラオケボックス、カウンセリングルーム仕様の5種類の提案を行っていたが、クリニック(診察室)仕様を新たに追加し、施設ごとの音のメニュー化による提案を開始。同社サウンドセンターがサポートする。

住宅、非住宅を問わず、空間における「音環境の快適性」について様々な需要が高まっていることに対応し、23年度の同社の音環境事業の売上高は前年度比30%増と伸長した。

23年にオフィス向けのあらたなビジネスとして「音環境ソリューション事業」の構想をスタートしており、更なる音響事業の強化・拡大を目的に、現在、岡山工場の敷地内に、新たな音環境の開発拠点となる「新・音響実験棟」の建設を進めている。25年6月に運用を開始する予定だ。昨今注目されているWell‐Beingなオフィスづくりに貢献するとともに、開発のスピードアップや音響製品の販売機会の拡大を目指す。

岡山工場のR&Dセンター内に、取引先企業や、一般消費者などを対象に、同社の製品を体感できる製品技術展示エリアを設けている。その一部に、防音室、シアタールーム

現在、音響事業の売上の内訳は、住宅と非住宅で9対1となっているが、オフィス向けの研究開発、提案を強化することで、2年後には、売上高全体を拡大するとともに、非住宅向けの比率を2割にまで拡大させる計画だ。

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