自立した高齢者を介護状態にさせないために何が必要なのか?【正解のリハビリ、最善の介護】

酒向正春氏(本人提供)

われわれ医療者は、急性期医療、回復期リハビリ医療、慢性期医療を行います。慢性期医療の多くは介護ケアになります。つまり、病気やケガで後遺障害が残ると介護状態になり、医療保険と介護保険で一生、国から支援してもらえるということです。病気や介護状態になった時、世界の中で日本ほど安心して生活できる国はほかにありません。しかし、それでいいのでしょうか。大切なのは、自立した高齢者が介護状態にならずに、その人なりの人生をすてきに楽しく暮らすことなのです。

現在の要介護者の割合は、70歳代で1割、80~84歳で3割、85~89歳で6割、90歳以上で9割になります。人生は100年時代に突入しています。このままでいいのでしょうか。もちろん、このままでは困ります。いま挙げた数字で“10歳の若返り”が求められます。つまり、要介護者を70歳代で数%、80~84歳で1割、85~89歳で3割、90歳以上で6割以下に低下させる必要があるのです。

そのためにどうすればいいかというと、加齢によるフレイル(身体的機能低下)、サルコペニア(筋肉量低下)、認知症の問題に正面から立ち向かわなければなりません。体の関節可動域とバランス、体力を保ち、筋肉量の低下を防ぎ、認知機能の低下を防ぐ必要があるわけです。

そしてその分岐点は、還暦である60歳だと考えます。60歳になったら、自分の筋肉量と体力、認知機能をきちんと評価してもらい、今後、維持する目安を40年計画で立てることが不可欠です。ただ、こうした評価と計画は病院では行えません。まだ病気になっていない状態なので、“対象”にならないのです。かといって、介護保険の対象になってから、デイサービスやデイケアでそれらを始めるのでは遅すぎます。

介護状態になる前に、自主管理ができるタイミングで開始する必要があるのです。そうすれば、自分が好きなように、自分のペースで、自分の尊厳を保つことができます。

■「ブレインヘルスタウン産業」が重要になる

では、その役割を果たしてくれるのは“どこ”なのでしょう? それは、医療保険でも介護保険でもなく、50歳以上の方を主な対象にした「スポーツジム」の役割になると思います。

先ほどお話ししたように、高齢になっても介護状態にならず、自立した人生を送るためには、60歳以降は健康に注目することが欠かせません。そのポイントは、筋肉量と体力、柔軟性とバランスをその人ごとに計画して保つことです。この機能をサポートしてくれる拠点が全国にあるスポーツジムなのです。そこで、体と心のカルテを作ってもらうのです。自分の自由と健康を保つために、毎月のジム会費を払うことは、介護状態にならないための上手なお金の使い方だといえるでしょう。

こうした取り組みをさらに充実させるには、高齢化した大人たちのすてきな人生計画が一人一人に必要で、それには「ブレインヘルスタウン産業」が重要になります。脳の健康を維持する街づくり、といえばいいでしょうか。

欠かせない要素は3つあります。1つ目は「運動機能」で、筋力量と体力を維持して、かっこいい臀部と大腿部を保つことです。2つ目は「コミュニケーション機能」です。認知機能を保つためには毎日の刺激が必要で、人に喜んでもらえる活動ができている間は認知機能が保たれます。その具体的な方法については、今後の連載であらためて詳しくお話しします。

3つ目は「楽しむこと」です。これは、その人の人生経験によって楽しみの質が異なります。たとえば、楽しみは、学び(生涯教育)、エンタメ、挑戦活動、無理のないギャンブル、生活スタイル、工夫、おもてなし、飲食、調理、旅行、スポーツ、スポーツ観戦、アート……などさまざまです。これらの楽しみをどのように継続できるか、仲介する産業が必要になるかもしれません。

これらの3つの要素を実践してくれる拠点が、人口7万~12万人当たりに1カ所は全国に必要だと考えます。各拠点が地方自治体と連携することでさらに設備や内容も充実できます。

実現に向けて、これからもさらに尽力していきます。

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