子どもの歯磨き力を育てる“3・3・3の習慣”と磨き方のコツ【専門医が解説】

By 学研キッズネット編集部

子どもの歯とお口の健康を守るためには、毎日の歯磨きが欠かせません。とはいえ、実は大人でも難しいと言われている歯磨き。磨くタイミングや、コツなど何が正しくて何が間違っているのか……悩むこともあるのではないでしょうか。

今回は、歯磨きの基本について、大阪大学 名誉教授・予防歯科学講座 特任教授の天野敦雄先生にお話を伺いました。

“食後すぐ”を習慣に。“3・3・3の歯磨き”の法則

むし歯予防にいちばん有効なのは毎日の歯磨きですが、歯磨きが苦手…というお子さんも少なくないはず。なぜ歯磨きが大切なのか、どうしてお口の中を清潔にしなければいけないのか、子どもにしっかり説明することも重要なポイントです。

歯磨きをするいちばんの理由は、むし歯にならないためです。口の中に食べ残しがあるとむし歯菌のエサとなるため、むし歯のリスクが高まります。だからこそ、食事が終わったらすぐに食べ残しをキレイにお掃除しなければいけません。

歯磨きは、基本的には朝昼晩の3回必要です。10年以上前に、食後30分は歯磨きをしてはいけないという風説が流れましたが、各学会がホームページで否定しています。食後は食べ残しを速やかに取り除くために、3分以内に歯磨きをしましょう。

朝と昼はむし歯予防のために、夜はむし歯予防だけでなく歯周病予防のためにも歯磨きを行います。1日3回、食後3分以内、3分磨く“3・3・3の歯磨き”で、お口のトラブルを予防することができます。

いちばん大事なタイミングは夜寝る前の歯磨きです。というのも、歯周病を起こすような病原性が高いプラークは、形成されるまでに48時間かかると言われているから。3度の歯磨きが難しい場合でも、就寝前は必ず丁寧に磨きましょう。

手磨きだと歯科医でもプラーク除去率50~60%!上手に磨くコツは?

歯磨きのポイントは、歯と歯の間に歯ブラシの毛先が入っているのを意識して、小刻みに歯ブラシを動かすこと。また、噛み合わせ面の溝に毛先を当てて、同じように動かしながら磨くことです。

とはいえ、どんなに歯磨きを頑張っても、一般の人が自分で除去できるプラーク(歯垢)は5割と言われています。歯ブラシの形状を変えても、プラークの除去率にあまり差はないんですね。

また、歯磨きにくわしいはずの新卒の歯科医でも、歯磨きによるプラーク除去率は多くて50~60%というデータも。実は歯医者さんも、定期的にクリーニングに通って磨き残しを取り除いてもらっているんですよ。

歯はくぼんでいるので毛先がなかなか入りませんし、そもそも人間の手では1分間に240回程度しか歯ブラシを動かせずみがき残しができてしまうため、電動歯ブラシを使うのもおすすめです。

フッ素入りの歯磨き剤は、むし歯予防に

歯磨き剤は、フッ素(フッ化物)配合の歯磨き剤を使用すると、むし歯ができにくい歯になります。

フッ素の推奨使用量と濃度は年齢によって異なります。2023年1月に更新されたので、最新のものをチェックしましょう。

▼歯が生えてから2歳
フッ素濃度:1000ppm
使用量:米粒程度(1~2mm程度)※飲み込む可能性があるため少なめに。 ▼3~5歳
フッ素濃度:1000ppm
使用量:グリーンピース程度(5mm程度) ▼6歳~成人・高齢者
フッ素濃度:1500ppm
使用量:歯ブラシ全体(1.5cm~2cm程度)

本来歯磨きは、1日3回がベストですが、この濃度と使用量であれば就寝前を含め1日2回でも十分効果的です

歯磨きの習慣をつけるためにも食後3回を目標にしたいところですが、どうしても時間がとれなければうがいをしましょう。大切なのは、食事の後はお口の中を清潔にする、という意識を持たせることです。

フロスと仕上げ磨き、歯医者での歯磨き指導も取り入れよう

むし歯や歯周病は歯と歯の間からやってきます。プラーク1mg中に1億個の細菌がいると言われていますから、乳歯がすべて生え揃って、歯と歯が隣り合うようになったら、子どももデンタルフロスを使いましょう。

歯ブラシとフロスを使う順番は、最初にフロス、次に歯ブラシで磨くが正解です。順番が逆になると、フロスでかき出した汚れが歯の表面に再びついてしまうため、効率がよくありません。

とくに小学校低学年までの子どもは、歯の形をなかなかイメージできず、磨きやすいところしか磨けないため、親が仕上げ磨きをして、歯磨きのサポートをしましょう。

とはいえ、歯磨きの仕方にも個人のクセが出てしまうため、どうしても磨き残しが出てしまうもの。

定期的に歯医者に通い、磨き残しをキレイにするのはもちろん、歯磨き指導を受けて、1人で上手に磨けるように練習をしていくことも大切です。歯医者は散髪屋や美容院と同じように、定期的に行くところなのです。

親がいつまでも仕上げ磨きをしていると子どもの歯磨きがおざなりになるため、小学3年生を目安に仕上げ磨きは卒業しましょうね。

取材・文/末永陽子 編集/石橋沙織

天野 敦雄(あまの あつお)さん

大阪大学歯学部卒業。ニューヨーク州立大学バッファロー校歯学部博士研究員、大阪大学歯学部附属病院障害者歯科治療部講師などを経て、現在は大阪大学 名誉教授・予防歯科学講座 特任教授。2021年日本口腔衛生学会理事長。代表的著作は『長生きしたい人は歯周病を治しなさい』(文春新書)など。

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