不動産投資初心者「どうして自分が犯罪者に!?」ウマい儲け話に乗ったばかりに…「逮捕→起訴」の絶望ルート【弁護士が解説】

(画像はイメージです/PIXTA)

資産形成のため、多くの方が投資にチャレンジするようになりました。しかし、初心者がうまい話に乗っかると、損をするどころか、犯罪者になってしまうリスクもあるため、要注意です。不動産を専門とする山村弁護士事務所の代表弁護士、山村暢彦氏が解説します。

借入目的を偽り融資金をだまし取った人物、逮捕される

先日、借入目的を偽って「住宅ローン」を申し込み、融資金をだまし取ったとして、詐欺容疑に問われた人物が逮捕されたとの報道がありました。

不動産投資の知識がない方にとっては、いまひとつピンとこない内容かもしれません。しかし、うまい儲け話に乗っかったところ、いつの間にか詐欺の片棒を…という可能性がないとはいえません。ここでは、住宅ローンと投資用ローンについて見ていきたいと思います。

大前提として、不動産は非常に高額です。そのため、住宅を購入する場合でも、投資用の収益不動産を購入する場合でも、金融機関から借り入れてローンを組んで購入することが一般的です。

「住宅ローン」と「投資用ローン」では、金利が大きく違います。金利は、個人の属性や金融機関によっても変わりますが、住宅ローンの金利は安く、不動産投資ローンの金利が高いというのは、ほとんど共通しているといえるでしょう。

住宅ローンの場合は1%未満の金利も珍しくありませんが、投資用ローンの場合は2%以上5%未満程度が多い印象です。個人の属性、すなわち、安定した収入があるか、保有している資産の価値はどうか…といった個別の背景によっても金利は上下しますが、「住宅ローン金利」と「投資用ローンの金利」には、およそ上記程度の差があることが多いのです。

また、そのときどきの情勢や、新築物件なのか築古物件なのかによって、想定利回りも異なってきます。新築・築浅の物件が年3~5%、築古物件が年8%~10%程度の利回りだとすると、年数%の売り上げに対し、金利の数%の違いというのは、非常に大きなウエイトを占めることになります。

ざっくりとした計算ですが、築浅で年5%の利回りの物件に2%の金利がかかれば、差し引き3%が利益になる…というのが、収益不動産による収益の仕組みです。

もしこれが、金利1%未満の住宅ローンで同じことができれば、差し引き4%の利益をあげることができます。3%の利益と4%の利益を比べると、収益不動産による利益が25%ほど違ってきます。そのため「住宅ローンで不動産投資ができたなら…」という思いは、不動産投資家ならだれもが抱くものだといえるでしょう。

住宅ローンと投資用ローン、金利が大きく違うワケ

しかし「住宅ローンで不動産投資」という行為は、今回の詐欺罪での逮捕からもわかるように、許されない行為です。

金融機関からすれば、借り入れ目的によって金利を変えている理由は、貸し付けた際のリスクに起因するものです。同じ「5,000万円」の融資でも、「住宅ローン」と「不動産投資ローン」では、まったく異なる前提に立っているといえます。したがって、住宅ローンとして貸し付けたつもりの銀行からすれば「騙された」という話になるわけです。

住宅ローンと投資用ローンで大きく金利が違うのは、

①住宅ローンは国民の居宅の確保のため、政策的に低めに設定されている

②住宅ローンを支払わなければ自宅がなくなってしまうため、未返済のリスクは低い

③不動産投資は住宅ローンに比べて貸し倒れリスクが高いため、金利も高い

等が、おおむねの理由といえるでしょう。

投資初心者「すごい裏技がありますよ!」などと勧められ…

じつは、このような事情を知らない不動産投資初心者の場合、怪しげな不動産会社や不動産コンサルを名乗る人物に「すごい裏技がありますよ!」などと勧められ、まんまと罠にかかってしまうことがあるのです。

ただし、この詐欺行為において注意が必要なのは、被害者は「金融機関」であり、詐欺罪の実行犯は「不動産会社」と「借入を起こした本人」になるという点です。「借入を起こした本人」に、自宅を所有するための住宅ローンを不動産投資目的で利用したという認識があれば、詐欺罪に問われても致し方ないといえるでしょう。現実になれば絶望的です。

不動産会社や不動産コンサルがこのような不法行為に手を染めるのは「不動産の売却益や不動産売却による仲介手数料を稼ぐため」という、極めてシンプルな理由です。

投資初心者の方は、今回のような「裏技」や「抜け道」として勧められる不動産投資の話には、十分な注意を払っておく必要があります。

とはいえ、刑事罰を課すために起訴するかどうかは検察庁の裁量で決めることです。不動産会社や不動産コンサルが実刑になっても、ローンを利用した本人は不起訴…というケースもあるかもしれません。しかし、「詐欺罪」に問われるリスクは間違いなく存在します。

不動産投資に興味のある初心者を騙して、このような詐欺スキームに巻き込む事例はあとを絶ちません。不動産投資に興味がある場合も、おいしい話には重々注意のうえ、事前に勉強してから挑戦することが大切です。

(※守秘義務の関係上、実際の事例から変更している部分があります。)

山村 暢彦
山村法律事務所 代表弁護士

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