メタバースで撮影された映画の祭典『第2回VRCムービーアワード』 受賞作から3作品を紹介

5月11日、ソーシャルVR『VRChat』にて、『第2回VRCムービーアワード』の授賞式が開催された。『VRCムービーアワード』は、作品のジャンルを問わず『VRChat』で撮影された作品を対象としたコンペティションだ。

ソーシャルVRサービス『VRChat』にはカメラ機能が用意されており、その機能を用いて写真や動画撮影を楽しむユーザーがいる。そうしたなかで、バーチャル空間とアバターのみで撮影された映像作品も多数生まれていた。

今回は、授賞した作品から3作品を紹介しよう。いずれもYouTubeで公開されており、10分程度で楽しめる短編作品となっている。純粋な映像作品としてはもちろん、VR機器なしで『VRChat』のカルチャーが楽しめるものになっているので、気軽に視聴してみてもらいたい。

■残業終わりの職場に起こる奇妙な怪異『22:00』

『22:00』は、時刻22時の職場を舞台にした作品だ。RYUKKO氏が演じる主人公「残業ちゃん」が仕事を終えて帰宅しようとすると、奇妙な怪異に出くわすことになるのだが……?

一見すれば正統派のホラー作品。しかし、本作はいわば“ホラー風コメディ”である。そんな『22:00』は監督賞、主演俳優賞、短編作品の3部門を授賞。本編ではセリフは一切ないため、主演俳優賞を受賞したRYUKKO氏は秀逸な動きと表情の使い分けで賞をもぎ取った形だ。

職場でただ1人仕事をし続けていた後に謎の怪異に振り回される姿は、動きのみで表現するからこそ引き出せる可愛さなので、ぜひ注目してみてもらいたい。

また本作は『VRChat』のアバター文化を知る意味でも良い作品だ。残業ちゃんはぷらすわん作の人気アバター『真冬』を使用しているが、他の登場人物は雰囲気がまったく異なるアバターを使っている。

一般的には作品の雰囲気に合わせてアバターのデザインをある程度統一させるのだが、『22:00』はシルエットだけでも一人ひとりを判別できるほどに豊富なアバターを使用しており、まったく異なるタッチ・等身・表情のアバターたちが登場する後半部分におけるコミカルさを際立たせている。

仕事終わりのふとした瞬間、YouTubeを開いて笑いながら見てもらいたい作品である。

■10分で事件を未然に防ぎ続ける『未然探偵』

つづいて紹介する『未然探偵』は、事件を未然に防ぐ「未然探偵」なる人物を描いた作品だ。10分以内の短編作品にも関わらず、複数の事件が詰め込まれているテンポの良さが評価され、脚本賞を受賞した。

また本作は脚本賞以外に助演俳優賞も授賞しており、「強くてニューゲーム」を演じる花琴いぐさ氏の演技も素晴らしく、未然探偵に対して事件の解決を依頼する姿は可愛さもありつつも、上位存在のような底知れなさも垣間見えた。

作品の世界観を彩る美術や演出に関しても統一感があり、コラージュや絵画を取り入れた独特の雰囲気は、2010年前後のシャフト作品のようでもあり、少し懐かしい気分にもさせてくれた。

『未然探偵』は作品そのものの面白さはもちろん、『Unity』をフルに活用して作られている点も、VRでの映像作品の可能性を感じられて興味深い。本作は役者の声以外のすべてを監督・カキノキ氏が1人で制作しているのである。

『VRChat』とゲームエンジン『Unity』を活用し、演者からカメラマン、美術まで1人で回せるように体制を整えたうえで撮影された『未然探偵』は、バーチャルによって映像制作の裾野が広がっていることを感じられる作品だ。

■『VRChat』でできる表現を最大限に活かしきった『Monotone-君と僕が出会うまで-』

『Monotone-君と僕が出会うまで-』は、裏社会の中で無機質な日常を過ごしている主人公・ムリフェインが、ある日猫に出会うことで日常が変わり始める作品だ。

映画としてはモノトーンの映像にセリフはなしと、こう聞くと地味にも思えてしまう作りになっている。しかし、劇中の音楽や美術、演技のクオリティが高く、引き込まれるような作品に仕上がっている。美術賞と音響音楽賞を授賞したのも、こうしたポイントを評価されての結果だ。

くわえて同作は、『VRChat』に慣れ親しんでいる人ほど「どうやって撮影したのだろうか」と疑問に思う場面が多々あり、良い意味で『VRChat』らしさを感じられないところも評価ポイントだ。

筆者が特に目を見張ったのは終盤の町中をムリフェインが出歩くシーン。街へ出歩くシーンを普通に撮影すると単調な動きになり、光の当たり具合もキレイにならないように思える。しかしそういった不自然さは少しも感じられない。作品のために撮影スタジオを作り上げているので、キレイに撮影できるポイントを設けるなど、工夫しているのかもしれない。

この他にも『VRChat』では難しいとされる物体に干渉するような演技も見どころだ。劇中で挙げるのであれば、ドアを開ける動作や食事、タイピングといったものだ。その動作自体を真似ることはできても、映像作品として見たときにCG同士が干渉して貫通してしまったり、物体と人物の動きがズレてしまったりすると不自然に見えてしまい、「ああ、『VRChat』だな」と現実に引き戻されてしまう。

『VRChat』やソーシャルVRに明るい人ほど、萎えてしまうポイントなのだともいえる。本作ではカット割りで違和感を抑えているほか、モデル/アクター経験が豊富なALDLA氏による演技力によって、ムリフェインの動きを自然に見せている。

バーチャル空間で撮影された映像作品で、炎や爆発といった派手な特殊効果に頼らず、地力が試されるような「演技力」「構図」を中心にした画作りを実践する。それができるのは、長年の制作で培った経験と技術の賜物だろう。

『Monotone-君と僕が出会うまで-』を見た後は、普段の『VRChat』を楽しんでいるユーザーの映像なども見てもらいたい。制作者の努力が直感的に分かるはずだ。

今回紹介した3作品以外にも、『第2回VRCムービーアワード』には多数の作品がノミネートされた。冒頭でも伝えた通り、授賞式自体も『VRChat』内から生放送で行われており、現在もアーカイブが視聴可能だ。

会場の雰囲気や受賞者たちのスピーチを見るだけでも、コミュニティの大きな熱量を感じられるはずだ。3時間弱の長丁場にはなるが、興味のある方はぜひチェックしてみてほしい。

(文=東雲りん)

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