実現可能な未来のアイデアは、高校生の感性から生まれる――第4回SB Student Ambassador全国大会

高校生は、自分たちが主役となる未来の社会について、どんな希望と課題を感じているのか。そして、企業や行政が高校生と連携するポイントはどこにあるのか――。2月22日、「第4回 SB Student Ambassador全国大会」が開かれ、全国9カ所で開催されたブロック大会から選考された14校計54人の高校生が独自のアイデアを披露した。高校生たちは2日間のSB国際会議で関心のあるセッションを聴講し、学びを深めた上でこの日の発表に臨んだ。(横田伸治)

発表のトップバッターを務めたのは札幌日本大学高等学校(北海道北広島市)だ。彼らが注目したのはオリンピックにおけるごみ問題で、スポーツ、アート、環境問題の3つをかけ合わせた国際イベント「クリーンオリンピック」を提案した。競技を通してごみの処理を進めるイベントで、具体的な競技案を8つ考案。例えば、制限時間内にエリア内のごみを拾い、その量と質で得点を競う「スポGOMI」や、競技で集めたごみを使い、アート作品を制作する構想もある。高校生たちは「(ごみが減っていくことで)開催するたびに、アート作品が小さくなることを目指す」と意気込む。

「香りとSDGs」をテーマに活動しているのが、中部大学第一高等学校(愛知県日進市)だ。原点は「私たちの学校がある日進市には何もありません。だからこそ、見落とされている資源から地域を再評価したい」という思いだと語り、実際に、ヒバの葉、ミカンの皮といった地域の廃棄物のアップサイクルによって自然香料である精油を抽出し、「日進市らしさ」として自分たちで考えた「冬の空気」や「春の芽吹き」をイメージした香りを生み出した。今後は企業や行政と連携し「香りが地域の観光・社会・経済・文化をつなぐ未来を実現したい」と展望を述べた。

修道高等学校(広島市)も、地域の特色に根差したアイデアを披露した。カキの養殖が盛んである一方で、養殖に使用するプラスチック製のパイプが年間で約68万本、海へ流出。「実際に海岸で集めてみると、1時間で約1キログラムのパイプが集まった」という。そこで、廃棄されるカキ養殖用パイプを「ガチャ」として再利用、お土産品として販売することを考案した。廃棄されたパイプを集めて洗浄・選別し、再資源化技術を持つ地域企業に再生を依頼。玩具メーカーの協力のもと、高校生が考えたデザインにアップサイクルするという構想で、「全国にも展開していきたい」と締めくくった。

「学びながら旅をする」を意味する「まーケーションくまもと」の構想を発表したのは、熊本市立必由館高等学校(熊本市)。プロジェクトは2年目を迎えており、昨年は、豪雨災害を受けた球磨・人吉エリアの再生案を提案した。熊本県や熊本市が2024年秋に開催予定の「世界津波の日高校生サミット」で、実際に国内外の高校生向けの観光プランとして採用される予定だ。今年は第2弾として、熊本市役所と連携し、学生などの若者層をターゲットとした観光開発に取り組んできた。「熊本市は、都市部に海、山、川がある。持続可能性があり、観光開発に適している」と分析し、自転車で市内を移動しながら市内の自然やサステナビリティを学ぶ旅行プランに仕上げた。

「私たち高校生は、将来について考えたり悩んだりすると同時に、無限の可能性を秘めている時期だ。将来に悩む高校生と、人材不足に困る事業者をつなぐ」と宣言し、「仕事のトビラ」というサービスを提案したのが東福岡高等学校(福岡市)だ。企業を招いて、ブースごとに高校生と企業担当者が対話できるイベントを博多エリアで実施。JR九州と連携して、大規模な広報を打つ構想も明かした。さらに、興味を持った高校生は実際に企業内での職業体験が可能で、その活動内容をほかの高校生に発表する機会を設けるという。

「高校生は無限の可能性を秘めている時期」と熱く語る​​​​東福岡高等学校

雲雀丘学園高等学校(兵庫県宝塚市)は、物流の2024年問題を「身近で深刻な問題。積み替えの効率化などの輸送可能量維持には限界がある」と捉え、必要輸送量を減らす取り組みを考案。食の地産地消を進めることで食料品の輸送量を減らすという。提案の軸は、農業総合研究所と連携した食品直売の推進だ。それに加え、売れ残り品の値下げ状況を消費者に通知するサービスや、複数の野菜などを「カレーセット」などのセットとして販売することで一定の割引を設けるなど、価格を下げて消費者にとっての魅力を高めようとするアイデアも披露された。

雲雀丘学園高等学校は物流の2024年問題を食の地産地消から解決するアイデアを発表

育児中の親世代にインタビューやアンケートを実施したのは、成立学園高等学校(東京・北)だ。調査では、「自分の時間がなく、社会から孤立している」ことが分かり、子どもの見守りスペースと地域交流スペースを併設した施設「あきホ」を考案した。子育て中の地域住民らが持ち回りで子どもを見守る一方、講師となって、料理やヨガ、絵画など得意分野を生かす仕組みも設けた。高校生たちは「今日は誰かの役に立ち、次の日は誰かに頼る。『お互いさま社会』を作りたい」(成立学園)と締めくくった。

「焼肉が大好きだ」という挨拶から始まった愛媛県立今治東中等教育学校(愛媛県今治市)の発表。だが、焼肉には環境負荷、食糧危機、動物虐待といった課題があることも挙げる。そこで「培養肉を一般化することが、和牛食の文化を残していくために必要だ」と考え、「NPO法人を立ち上げ、2030年までに若者が培養肉を当たり前に食べる社会をつくる」と宣言した。そのために、「各政党の培養肉普及に対する取り組みを調査、評価する」「外食チェーンと連携し、培養肉メニューの普及を進める」といった活動を検討している。「たかが焼肉だが、可能性は無限大。培養肉焼肉が普及すれば、食糧問題、環境問題を解決できる」と強調した。

福井県立若狭高等学校(福井県小浜市)は、フードロス削減と高齢者支援をかけ合わせるというユニークな視点を展開した。構想するのは、地域の廃校や空き店舗を活用し、フードバンクや規格外野菜を使用、認知症の高齢者でも安心して働けるようなレストラン。実際に若狭市役所や福井県フードバンク連絡会にヒアリングも実施し、実現可能性を探っているという。「私たちの地域は、消滅可能性都市に指定されている。民間企業と行政の架け橋を高校生が担い、持続可能で誰もが幸せなまちをつくっていきたい」(若狭高校)と地元への思いを語った。

フードロス削減を、事業としての経済的利益と両立するアイデアを発表したのが香里ヌヴェール学院高等学校(大阪府寝屋川市)だ。同校の生徒らは、廃棄野菜を活用したジェラート販売を手掛ける会社「Infinity」を設立。学校付近の農家と連携し、野菜を使ったジェラートを商品化、自身らが運営するカフェやイベントで販売や卸売を行い、過去2か月で44万円以上の売り上げを出している。今後は、食材の宅配を行うオイシックス・ラ・大地と連携し、同社で余剰在庫となってしまう野菜をジェラートとして加工。同社とInfinityがそれぞれ販売する計画で、寝屋川市のふるさと納税返礼品への採用も目指しているという。 「私たちのつながりを駆使すれば、京橋駅などを利用する60万人にアプローチでき、CSR活動も強化できる」と企業のメリットもPRした。

AICJ高等学校(広島市)は、「LGBTQについての話題はセンシティブとされ、(当事者が)本来持っている権利を享受できていない現状がある」と問題提起した。そこで、LGBTQへの理解を広めるため、LGBTQメンバーによるアイドルグループを立ち上げる構想を発表した。アイドル活動は、YouTubeなど動画配信サービスやSNSを活用することを軸とする。オーディション過程や活動風景をドキュメンタリー方式で配信することで、「LGBTQへの無意識の抵抗感をなくし、親近感を持ってもらう」ことを狙うという。高校生らは「LGBTQアイドルは、分け隔てない社会への出発点です」と力を込めた。

校内でアンケートを実施した中央大学杉並高等学校(東京・杉並)は、「日本のジェンダー平等は他国よりも遅れている」との回答が8割に上ったことを課題として設定した。そこで目指すのが、「人と自分が違うことを当たり前に受け止められるような、ほっこりする話を集めた本(ほっこり辞典)」を出版することだ。SNSで「ほっこり」したエピソードを募集し、4コマ漫画で掲載する予定だが、イベント開催も視野に入れる。参加者らが「ほっこり」エピソードを互いに共有する機会も作ることが目的で、「普段関わらない人との交流を促し、違いを知ることで、自分らしく生きられる世界へ一歩近づく」と呼びかけ、会場に集まった聴衆にもエピソードの投稿を促した。

デンマーク語の「Hygee(ヒュッゲ)」を用いて、自分らしく生きられる世界を目指す中央大学杉並高等学校

東北高等学校(仙台市)は、「チョークの粉で守る海水と海洋生物」と題した模擬授業形式で発表した。二酸化炭素の増加に伴い、海洋の酸性化が進んでいる現状を紹介し、「本来のアルカリ性に戻す方法を考えてみましょう」と問いかけた。「水に溶かすとアルカリ性になる身近なものといえば、チョーク」として、粉末状で水に溶けやすい、廃棄物だから使いやすい、などのメリットを説明。チョークを利用して海洋環境を守る未来を見据え、「まずは全国の学校からチョークを集めながら、生徒や保護者にもプロジェクトを宣伝する」と計画を膨らませた。

最後に発表したのは文化学園大学杉並高等学校(東京・杉並)だ。廃棄される太陽光パネルの不法投棄や土壌汚染など、近い将来起こり得る課題に対し、「太陽光パネルを窓としてリサイクルする」アイデアを披露した。「透明度の高いガラスだから窓にしやすいのではないか」と考えたのが出発点で、実際に事業化するためのヒントを得るため、環境省やYKK APにヒアリングを実施。リサイクル窓を購入すると、太陽光パネルの低価格設置サービスが得られるというビジネスモデルを考案した。太陽光パネルの普及につながることから国からの補助も期待できるという。

全14校の発表は、洞察力・発想力・表現力・共創力について採点され、最優秀賞には香里ヌヴェール学院高等学校が選ばれた。同校の生徒に賞状が授与されると、「今日まで、死ぬ気でプレゼンを作ってきたので本当にうれしいです」と喜びの声を上げた。また、優秀賞には文化学園大学杉並高等学校と雲雀丘学園高等学校の両校が選ばれた。

最後に、日本旅行の吉田圭吾・取締役兼常務執行役員が総評した。吉田氏は「どの発表も本当に素晴らしかった。ビジネスの最前線にいる私たちにとっても、甲乙つけがたい内容だった」と述べ、「SB Student Ambassadorが皆さんの人生をより充実させ、輝かせていくことを願っています」と高校生全員に向けて拍手を送った。

サステナブル・ブランド国際会議2024東京・丸の内
SB Student Ambassador 参加校一覧

・札幌日本大学高等学校(北海道)
・東北高等学校(宮城県)
・中央大学杉並高等学校(東京都)
・文化学園大学杉並高等学校(東京都)
・成立学園高等学校(東京都)
・中部大学第一高等学校(愛知県)
・香里ヌヴェール学院高等学校(大阪府)
・福井県立若狭高等学校(福井県)
・修道高等学校(広島県)
・AICJ高等学校(広島県)
・雲雀丘学園高等学校(兵庫県)
・愛媛県立今治東中等教育学校(愛媛県)
・東福岡高等学校(福岡県)
・熊本市立必由館高等学校(熊本県)

2024年度も全国9都市で開催決定!
2024年度 サステナブル・ブランド国際会議 学生招待プログラム
第5回 SB Student Ambassador ブロック大会
詳細:https://www.sbsa25.com/

2023年度地域ブロック大会レポート
高校生の力で地域を、社会を変えていこう ――第4回SB Student Ambassador
① 四国・北海道ブロック大会
② 西日本・東日本ブロック大会
③ 東北・中国ブロック大会
④ 北陸・東海ブロック大会
⑤ 九州ブロック大会

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