韓国・延世大学、牛肉風味の米を開発 実験室生まれのハイブリッド食品は持続可能なタンパク質になりうるか?

Image credit :Yonsei University

韓国・延世大学の研究者らは食品合成技術を新たなレベルに引き上げた。同大学の研究チームは最近、牛の筋肉と脂肪の幹細胞を米に加えて培養し、タンパク質を強化した新しい米を開発した。研究者らによると、培養牛肉米は硬めで、筋肉成分の多い米は牛肉やアーモンドのような香りがあり、脂肪分が多い米はクリームやバター、ココナッツオイルのような化合物を有しているという。チームは、その米を従来の牛肉よりも手頃でCO2排出量が少ないタンパク質源ととらえている。身近な主穀物を新たな完全食にすることは、途上国や食料不足の国に数え切れないほどの恩恵をもたらすだろう。(翻訳・編集=小松はるか)

延世大学の化学エンジニアで主任研究員のホン・ジンキ氏は、米サステナブル・ブランドの取材に対し、「私たちはこうしたハイブリッド食品には大きな市場があると考えています。これは、従来の食品が発展したというだけではなく、おそらくそれ以上に重要なのは、特定の脅威や特有の環境条件に対応するということです」と話す。

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研究室で培養した食品と従来の食品を組み合わせたハイブリッド食品は未来のタンパク質になりうるのだろうか――。代替タンパク質業界は今、岐路に立っている。動物性食品に代わる植物性代替食品が食の未来の姿と見なされていたのは、それほど昔のことではない。市場をけん引するインポッシブル・フードやビヨンド・ミートによると、両社のバーガーは自社調べで、同等の牛肉よりもCO2排出量が91%少なく、またビーフパティと比べて必要な土地の面積は93%少ないという。

しかしながら、2022年、数年間にわたって急成長してきた植物由来のタンパク質の成長が急停止した。2023年はさらに悪かった。自然界の食材を高度な技術で加工し、肉をまねた植物由来の肉の普及は伸び悩んでいる可能性がある。注目を集めているインポッシブル・フードとビヨンド・ミートのダンキンドーナツ、バーガーキング、タコベルとの連携のほとんどは、弾みがつくことなく失敗に終わった。では、なぜこの動きは勢いを失ったのだろうか?

マンモス・ミートボールを開発したオーストラリアの培養肉スタートアップ「ヴォウ(Vow)」の創業者兼CEOのジョージ・ペッポウ氏は、「食品そのものではなく食品の製造方法を変えることで、地球に恩恵をもたらすために行動を変えるよう消費者に求めているのです。しかし私たちが目指すことに関わらず、実際に購入する大多数の消費者にとって、こうした問題は私たちが考えるよりも重要ではないのです」と話す。

なかには、植物性の代替肉の質は過剰宣伝されていると感じている人もいる。その一方で、価格の高さや、物価が高騰するなか、より環境的に持続可能な製品にプレミアム(割増料金)を支払うという消費者の意思がないことを指摘する声もある。食肉業界は助けるでもなく、植物性食品の評判を落とし、植物性食品の持続可能性に疑念を投じることに全力を挙げている。また、加工度の高い食品を消費することへの健康上の懸念も、こうした潮流に一役買っているもしれない。

しかし、知られている通り、タンパク質の製造に関しては現状維持では問題がある。従来の方法で飼育された牛肉は、気候変動の主要因であり、土壌の健全性や水の汚染に非常に大きな影響をもたらす。ホン氏によると、投資家はいまもなお新しく革新的な代替食品を支援したいと考えているという。

「私たちはすでに投資家や企業からさまざまな提案を受けており、現在、そうした経路を通じてさまざまなチャンスを探っているところです」(ホン氏)

これはより大きなトレンドの一部であり、人気のある家畜食品に代わる実験室生まれの食品の可能性には注目と期待が高まっている。アレフファームズ(Aleph Farms)やヴォウのような企業は、植物由来の食肉ブランドが築いてきた市場を足場とし、より良い解決策を生み出していきたいとさえ考えている。

アレフファームズのマーケティング・コミュニケーション部門でシニアマネージャーを務めるヨアフ・レイスラー氏は、「インポッシブル・フードやビヨンド・ミートのような企業は、持続可能な食の選択に関して大衆を啓発する上で多くのことを成し遂げており、より持続可能な食料システムの構築に向けて新たな道を切り開くのに役立っています」と話す。

Image credit :Aleph Farms

イスラエルのアレフファームズは、細胞農業、または動物の細胞を使った研究室で育てられた培養肉製品などの多くの可能性を秘めた、新興テクノロジーに重点を置く。同社は最近、培養牛肉を販売する許可をイスラエル政府から得た。培養鶏肉を生産するアップサイドフーズ(Upside Foods)グッドミート(Good Meat)が2023年にFDA(米国食品医薬品局)やUSDA(米国農務省)の承認を得たように、より広範な規制当局の承認を得るための第一歩だ。レイスラー氏は、こうした過程がより高品質な代替タンパク質の提供につながると感じていると述べた。

「細胞農業は、食事をする人たちが食べたいもの、すなわち、質に妥協せず、新しく、わくわくする選択肢を提供するという点で戦略的だと思います」(レイスラー氏)

同様に、ペッポウ氏もより良い製品を提供することはより多くの顧客を引きつけるのに役立つと考えている。「私たちは模倣する代わりにイノベーションを起こすのです。そうして、消費者が利己的に選ぶものを提供するのです。なぜならそれが違いになるからです」。

研究室で培養されたタンパク質製品は、シンガポールをはじめいくつかの場所で手に入れられるものの、大規模な市場拡大はまだかなり先のことだ。しかし、注目や楽観論をよそに、ホン氏は培養肉や培養ビーフライスのような、ハイブリッド食品などが地元の食料品店の棚に並ぶまでには時間がかかると警告する。

「市場導入に関して言うと、実験室で培養された牛肉米や同じような製品が近い将来、手に入れられるようになるとは思えません。技術的に成熟していても、それぞれの国の規制の内容や消費者に受け入れられるかどうかは別の問題です」

幸いにも、多くの人は実験室で培養された肉を食べる未来を待ちわびてはいない。一方で、農業による地球への影響を減らすために、リジェネラティブ農業や植物由来のタンパク質など他の代替食品に関心を向けている。しかし、食料システムを将来においても有効であり続けるよう設計するには、そのための道具箱にすべてのツールが揃っていることが必要だろう。

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