フードシステムは今どう変革しつつあるのか――身近な3ブランドの動きと思いを知る

Day2 ブレイクアウト

気候変動や生物多様性の喪失など、地球のサステナビリティに関わる重要課題を解決するために、生産から流通、廃棄まで、食に関わる全てのバリューチェーンを含む「フードシステム」全体の変革が強く迫られている。企業の原材料調達や商品開発の最前線では、今、どんな変化が起こっているのだろうか。マクドナルドとスシロー、キユーピーと、日常に身近な3ブランドの動きや考え方を知り、私たち消費者にも深く関わる、「食」の課題に思いをはせた。(眞崎裕史)

ファシリテーター
足立直樹・SB国際会議サステナビリティ・プロデューサー
パネリスト
ウォーリー・ボッケル・日本マクドナルド サプライチェーン本部 執行役員 本部長
木下嘉人・FOOD & LIFE COMPANIES 商品本部管掌 常務執行役員
綿貫智香・キユーピー GREEN KEWPIEプロジェクト プロジェクトリーダー

冒頭、ファシリテーターの足立直樹氏は、全世界の温室効果ガス排出量の最大3分の1、生物多様性喪失につながる森林破壊の8割が、フードシステムに原因があると解説。続けて、2021年の国連フードサミットでは95億人になろうとする地球の人口を支えるために各国がフードシステムを変革していくことに合意したこと、そしてこれまでの研究から、食品ロスの削減に加え、農業や食習慣を変えることによって、排出量を4分の1にまで減らすことができるという道筋が見えていることを紹介。「つまり、フードシステムは問題の原因であると同時に解決策にもなる。そのためには企業だけでなく、生産者や私たち消費者も変革に参加していかなくてはいけない」とセッションのテーマとなる問題意識を提示した。

食を巡って、生産者と消費者をつなぎ、変革のきっかけを起こすのは企業だ。セッションはここから、私たちの日常生活になじみ深い3社が取り組みを紹介する形で進んだ。

第三者認証は取得して終わり、ではない――日本マクドナルド・ボッケル氏

ボッケル氏

日本マクドナルドのウォーリー・ボッケル氏によると、マクドナルドは、世界100カ国で4万店舗を展開し、そのうち日本では約3000店、年間延べ約14億人が来店している。ボッケル氏は2050年までに温室効果ガスの排出ゼロを目指す取り組みを紹介した上で、「責任ある食材・資材の調達」の面から、定番メニュー「フィレオフィッシュ」で使われる魚はMSC認証(海洋環境を守る漁獲、加工、流通を行う業者を認証)を、コーヒーはレインフォレスト・アライアンス認証(森林や生態系を守り、労働者に適切な労働条件を提供する業者を認証)の豆を使うなど、マクドナルドがグローバルで第三者機関による認証制度の活用に力を入れてきたことを説明した。

フィレオフィッシュの原材料調達については、独自のガイドラインを設ける動きが2001年に始まり、世界的に持続可能な原材料を使う機運が高まった2012年のロンドンオリンピックを契機に、前年の2011年、欧州の店舗がMSC認証を初めて取得。日本の店舗では、アラスカでとれたスケソウダラをタイの工場で加工し、それが日本に届くまでのトレーサビリティーの仕組みが確立した2019年から、「100%MSC認証」となったという。

日本ではまだまだ同認証を取得している商品が流通している事例は少ない中、毎日大量に売れるフィレオフィッシュの100%MSC認証を早い段階から取り入れてきた苦労を、ボッケル氏は、「取得して終わり、ではない。取引先、店舗レベルでのデータの見える化など、水揚げから物流までの全部がつながっている状態をいかに維持するのかが大きなポイント」と語る。足立氏が、「第三者機関による監査には莫大なコストがかかることから、認証の取得に踏み切れない企業も多いが」と水を向けたのに対しては、「(同社では)非常に大きな投資とみている。サプライチェーン全体で見ると、長期的なリターンは出る。お客さまを中心に置いて、環境、社会、経済にもプラスになることを常に心掛けている」と強調した。

共創をテーマに循環型調達モデルへ転換図る――FOOD & LIFE COMPANIES・木下氏

木下氏

回転寿司の「スシロー」などを運営するFOOD & LIFE COMPANIESの木下嘉人氏は、海外展開に力を入れていることも背景に、「クオリティの高いものをどのように獲得して、世界中の店舗に届けるか」と問題意識を明かし、調達の課題を中心に話を進めた。水産物の確保においては「天然50%、養殖50%を目標にしている」と説明。日本の漁獲量の減少を背景に、「しっかりと養殖魚をつくっていかないと商品が用意できないし、事業も成り立たない」と述べ、「循環型の調達モデルへの転換」を目指し、「獲る時代から、創る時代へ」と変革を進めていることが明かされた。

養殖の重要性が増す中、木下氏はテーマとして「共創」を挙げた。餌の高騰や人手不足など、養殖現場にはさまざまな課題がある一方、人口種苗など先端技術を使って「病気になりにくい魚をつくる」といった取り組みもある。思い描いているのは、生産者や専門家とチームを組み、「協力して養殖事業における取り組みを強化していく」という意味での共創だという。

木下氏は「フードシステムの変更を通じ、より安定的にうまい食材を仕入れて、お値打ち価格で提供していく。日本だけでなく世界に届けていく」と力説。一方、新たな養殖事業に挑戦しつつも、天然魚の確保も必要であることから、「種を継続できるような漁法やコンプライアンスなど、世の中に訴求できる基準づくり」に取り組む考えも示した。

卵の代替商品が、卵アレルギーの人たちの人気に――キユーピー・綿貫氏

綿貫氏

上記2社がサプライチェーンを中心とした報告だったのに対し、キユーピーの綿貫智香氏は「地球と人の双方が持続可能で日々続けられる食生活に挑戦したいという思い」で昨年立ち上げた新ブランド「GREEN KEWPIE(グリーンキユーピー)」について紹介した。綿貫氏によると、大豆など植物性原材料を使用したプラントベースフードを展開する同ブランドが発表された背景には「環境負荷への配慮」や「アレルギーなどの体質、宗教、動物福祉など、さまざまな理由による食に対する選択基準の多様化」といった外部環境の変化があったという。

最初に商品化したのは、マヨネーズやドレッシングで知られ、「日本で最も多く卵を使用しているメーカー」である同社が、卵を1滴も使用せずに、植物性の原料のみを使用して作った「まるで卵のような味わい」の卵の代替商品、「HOBOTAMA(ほぼたま)」だった。これを2021年6月に発売すると、卵アレルギーで苦労している人たちを中心に「想定以上」の反響があり、グリーンキユーピーの立ち上げにつながった。業務用からスタートし、今では「マヨネーズタイプの調味料」「植物生まれのカルボナーラ」など一般家庭用の商品数の方が多い。

綿貫氏は「卵のリーディングカンパニーとしては、やはり卵の魅力を伝え続けたい。未来においても卵を食べる食文化を失わず、継続していきたい」とする思いとともに、日本よりも市場が大きいと考えられる海外での展開も見据え、「グリーンキユーピーを世界で展開するグローバルブランドにしていきたい」と強調。来年100周年を迎えるキユーピーマヨネーズの歴史に重ね、「より良い社会につながるように、グリーンキユーピーも皆さんと一緒に育てていきたい」と笑顔を見せた。

3氏の発表を受けて足立氏は、会場に「食を巡る大きな課題の一端で、努力が進んでいることがご覧いただけたと思う」と呼び掛け、改めて「フードシステムの問題が解決できないと、1.5度目標も達成不可能だと言われている。ただ、逆にフードシステムを変えることができれば達成できる」と、行動変容を訴えた。セッションは、食品に関わる企業のみならず、参加者自身も足元(Local)を見直す契機となったはずだ。

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