【米大統領選2024】 トランプ前大統領に富豪ら次々と寄付 有罪評決後に

バーンド・デブスマン・ジュニア、BBCニュース(ワシントン)

ドナルド・トランプ前米大統領の「不倫口止め料」支払いをめぐる歴史的な裁判と、その有罪評決の裏で、大富豪の共和党献金者らが、前大統領の選挙戦を支えている。

11月の大統領選の共和党候補者であるトランプ前大統領は5月30日、自身の顧問弁護士だったマイケル・コーエン氏を通じて、不倫相手とされる元ポルノ映画スターのストーミー・ダニエルズ氏に口止め料を支払い、それを弁護士費用として処理したなどとして、計34件の業務記録の虚偽記載の罪で有罪となった。

選挙資金集めでは、ジョー・バイデン大統領に遅れをとっていた前大統領だが、この有罪評決が新たな活力となった。トランプ陣営はこのほど、評決が出てから24時間で5300万ドル(約82億円)近くが集まったと発表した。

また、イスラエル系アメリカ人の富豪ミリアム・アデルソン氏が今週にも、数百万ドル規模の献金を発表する予定だという。

米メディアによると、アデルソン氏は「プリザーブ・アメリカ(アメリカ保護)」という名の政治活動委員会に寄付する。政治活動委員会は、選挙の候補者を支援するために無制限に資金を使うことができる。

アデルソン氏がいくら使うつもりなのかは不明だが、政治系メディア「ポリティコ」や他の米メディアは、2020年の大統領選でアデルソン氏と亡き夫シェルドン氏が「プリザーブ・アメリカ」に寄付した9000万ドルを上回る金額が予想されると報じている。

こうした流れに乗る人々はほかにもいる。30日に評決が出た直後、多くの富豪が、ソーシャルメディアなどで前大統領への支持を表明した。

シリコンバレーの投資家デイヴィッド・サックス氏はX(旧ツイッター)に、「この選挙の争点はただ一つ、この国がバナナ共和国(政治的に不安定で、外国企業に支配され、単一産物の輸出に依存する小国を指す侮蔑表現)になることに、国民が耐えられるかどうかだ」と投稿した。

サックス氏は今月6日、同じく投資家のチャマス・パリハピティヤ氏と共に、サンフランシスコで前大統領のための資金集めのイベントを主催する予定。報道によると、参加者は最大で30万ドルを寄付するよう求められるという。

ほかにも、ヘッジファンドを運営するビル・アックマン氏が今後数日以内に、前大統領支持をソーシャルメディアで表明するとみられている。

アックマン氏は3年前、米連邦議会襲撃を受けて、前大統領は「すべてのアメリカ人に謝罪すべきだ」と発言していた。しかしそれ以来、アックマン氏は口調を和らげ、インターネット上で前大統領を支持する発言をしている。

金融街ウォール・ストリートの有力者の一人で、投資ファンドブラックストーン・グループのスティーヴ・シュワルツマン最高経営責任者(CEO)は、すでに前大統領を支持すると表明している。

アックマン氏同様、シュワルツマン氏もかつては、前大統領から距離を置いていた。

しかし5月下旬、シュワルツマン氏は、「経済、移民、外交の政策がこの国を間違った方向へ導いているという、多くのアメリカ人の懸念」を共有していると語った。

また、「反ユダヤ主義の劇的な高まりによって、私は今度の選挙がもたらす結果に、より緊急性をもって注目するようになった」と述べている。

このほか、ヘッジファンド創業者のジョン・ポールソン氏とロバート・マーサー氏、フラッキング(水圧破砕法)のパイオニアであるハロルド・ハム氏、カジノリゾート経営者のスティーブ・ウィン氏といった富豪が、現時点でトランプ前大統領を支援している。

投資家のネルソン・ペルツ氏は、2020年の米議会襲撃事件の後、トランプ氏に投票したことを後悔していると述べていた。しかし現在は意見を変え、3月にはフロリダ州に持つ海岸沿いの邸宅に、前大統領を迎えている。

Xや電気自動車メーカーのテスラを所有するイーロン・マスク氏は以前、今回の選挙ではどちらの候補者にも寄付しないと述べていた。とは言え、マスク氏はトランプ前大統領とのタウンホール形式のイベントを、ライブ配信で開催する予定だ。

同様に、共和党の著名献金者で技術系投資家のピーター・ティール氏も、トランプ陣営への寄付を拒否し、今回の選挙ではどんな寄付も予定していないと述べたと報じられている。

ベンチャーキャピタル「セコイア」のパートナー、ショーン・マグワイア氏は「口止め料」裁判は不公平だったとして、有罪評決が出てから数分以内に、前大統領に30万ドルを寄付した。

マグワイア氏はXへの長文投稿で、バイデン政権のアフガニスタン撤退への対応や、中東での「弱腰」など、トランプ前大統領を支持する理由をいくつも挙げた。

また、前大統領に対するさまざまな裁判も「過激化させる経験」になったと付け加えた。

そのうえで、「トランプ前大統領が重罪で有罪判決を受け、刑務所に収監される可能性は実際にある」と書き、「率直に言って、それが私が彼を支持する理由の一部だ。私は、司法制度が彼に対して武器化されていると信じている」と述べた。

バイデン陣営と比べると

現在までのところ、バイデン陣営の資金調達額はトランプ陣営を大きく上回っている。

4月末までに、トランプ陣営の9310万ドルに対し、バイデン陣営は過去最高の1億9200万ドルの現金を手にしている。

しかし同月、トランプ陣営は7600万ドルを調達し、この選挙期間で初めて、バイデン陣営を上回った。バイデン陣営の4月の資金調達額は5100万ドルで、前月の9000万ドル超から大幅に減少した。

だが、これだけの資金調達にもかかわらず、米オハイオ州のケース・ウェスタン・リザーブ大学の選挙資金専門家、ジャスティン・ブックラー教授は、「資金が決定打になることはない」と指摘する。

「選挙活動における資金の主な役割は、知名度を上げることだ。ドナルド・トランプとジョー・バイデンが誰であるかは、すでに誰もが知っている」

BBCがアメリカで提携するCBSのデータを検証したところ、トランプ前大統領の資金調達は、さまざまな法廷闘争の重要な局面で盛り上がる傾向があることがわかった。

先週の有罪評決より前に、前大統領の資金調達が最も好調だったのは、ニューヨークでの罪状認否が行われた昨年4月4日と、ジョージア州で撮影された顔写真が公開された8月25日だった。

BBCは、トランプ陣営とバイデン陣営の双方に、資金調達に関するコメントを求めている。

(英語記事 The billionaires rallying behind Trump after his conviction

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