バイデン氏、亡命申請を制限する大統領令を発表 国境管理を強化

アメリカのジョー・バイデン大統領は4日、メキシコとの国境に押し寄せる記録的な人数の移民の抑制を目的とした包括的な大統領令を出した。

新たな大統領令では、不法越境した移民について、亡命申請を処理することなく迅速に立ち退かせることができる。

不法越境者が1日当たりの制限人数に達し、国境管理当局が対応し切れなくなった場合に適用されると、ホワイトハウスは声明で説明した。

バイデン氏はこの日、国境の自治体の首長数人と参加したイベントで命令に言及。「この措置は国境を管理するのに役立つだろう」と述べた。

また、野党・共和党が今年、超党派の移民制度改革法案を可決させなかったと批判。今回の大統領令には一部の移民活動家らから批判が出ているが、そうした人たちに「辛抱」を求めた。

「私たちは現在、限界に近付きつつある。何もしないという選択肢はない」

当局によると、7日間における1日当たりの平均越境者数が2500人に達した時点で、この制限が発動される。1日当たりの平均越境者数が7日間連続で1500人を下回れば、2週間後に移民に対して国境を再び開放する。

ホワイトハウスは、「これらの措置は、南部の国境が対応し切れない状況の場合に実施される。入国管理当局は、滞在する法的根拠を持たない個人を迅速に排除することが容易になる」と述べた。

大統領令にはこのほか、裁判で移民事件を迅速に解決するための措置や、アメリカ国内にとどまる法的根拠がないと判断された人を迅速に国外退去させる措置などが含まれている。

バイデン政権になって以降、640万人以上の移民が不法に入国しようとしたとして国境地帯で止められた。

今年は移民の入国が激減しているが、専門家はこの傾向は続かないだろうとみている。

移民問題は、11月の大統領選挙で多くの有権者の主要関心事になっていることが、世論調査で示されている。

ギャラップの4月末の世論調査では、米国民の27%が、経済やインフレよりも移民問題を最重要問題としてとらえているとの結果が出た。

AP通信と全国世論調査センター(NORC)の3月の世論調査では、バイデン氏の国境問題への対応について米国民の3分の2が不支持であることが示された。これには、民主党の有権者の約40%も含まれている。

批判の声

今回の大統領令には、批判の声が噴出している。

民間団体「全米移民フォーラム」のジェニー・マリー会長は、「政治が移民の話を、ますます制限する方向へ向かわせているのは残念だ」と話した。

国境でハイチ人移民を支援する「ハイチ・ブリッジ・アライアンス」のガーリーン・ジョゼフ代表は、今回の発表を「亡命を求める基本的人権に対する直接的な攻撃」だとした。

移民問題の活動家や民主党議員ら十数人は、連邦議会の前で記者会見を開き、バイデン氏の決定を批判した。下院民主党の進歩派議員連盟トップのプラミラ・ジャヤパル議員は、大統領令に「深く失望」したとし、「間違った方向への一歩」だと批判した。

大統領選で共和党の指名候補となる見通しのドナルド・トランプ前大統領の陣営は、今回の大統領令について、「恩赦に関するものであり、国境警備に関するものではない」と主張した。

共和党も、選挙目当ての策略だと批判。不法移民を防ぐための法律はすでに存在しており、バイデン政権が正当に執行していないと主張している。

昨年末は歴史的な多さ

国境管理当局とホワイトハウスは、国境管理を強化する超党派の法案の成立を、今年に入って共和党が妨げたと非難している。

ホワイトハウスは「共和議員らが国の安全保障より党派政治を優先した」とした。

税関国境警備局(CBP)によると、移民との「遭遇」事案は、4月は約17万9000件だった。昨年12月は30万2000件で、歴史的な高水準となっていた。

アメリカとメキシコは、メキシコ当局による取り締まりの強化が大きな理由だとしている。

アメリカの港湾部での亡命申請は引き続き処理される。港では毎日約1500人が亡命を申請している。

(英語記事 Biden announces asylum restrictions to ‘control border’

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