『セクシー田中さん』芦原さんの要求を日テレPが脚本家に伝えていなかった可能性

日本テレビ(「Wikipedia」より/Suicasmo)

昨年10月期の連続テレビドラマ『セクシー田中さん』(日本テレビ系)で、原作者・芦原妃名子さんの意向に反し何度もプロットや脚本が改変されていたとされるトラブルが表面化し、芦原さんが死去した問題をめぐり、芦原さんの原作代理人である小学館は3日、特別調査委員会がまとめた調査報告書を公表。芦原さんは再三にわたり原作のエピソードの入れ替えなどを行わず原作に忠実にしてほしいと要求していたが、それを日本テレビのプロデューサーが脚本家に伝えていなかった可能性があることがわかった。また、オリジナルドラマとなる9・10話の脚本を芦原さんが執筆するという条件や、芦原さんが制作・修正した脚本に創作を入れないでほしいとする要求についても、プロデューサーから脚本家に伝わっていなかった可能性がある。報告書は

「芦原氏が何度も同じ指摘をしないと原作に沿った脚本の修正がなかったことと、日本テレビ側が芦原氏の修正意見について反論して、従前の脚本を維持しようとしたことがあり、芦原氏や社員A(編注:小学館社員)に大きな負担を強いた」

「日本テレビ社員Y氏が、芦原氏の意向をふまえて社員Aがアレンジやエピソードの入れ替えなどをしないように何度も強く求めたことを本件脚本家に伝えていなかったり、監督など制作陣の意見を反映したりした可能性がある」

と総括しているが、改めて日本テレビ制作陣の姿勢が適切だったのかが問われている。

報告書は、小学館の取締役2名と外部の弁護士3名からなる特別調査委員会がまとめたもの。

脚本家が芦原さんの説明に拒否反応を示していると小学館に伝達

トラブルの原因は制作が始まる段階から存在した。小学館は当初から日本テレビ側に脚本家の人選について「原作を大事にしてくれる方でないと難しい」などと日本テレビに伝えていたが、脚本家は脚本作成を受諾する際に日本テレビから、この話を聞かされていなかった。そして制作が始まると、脚本家が制作したプロットと脚本に対し、芦原さんは

「エピソード順番を入れ替える度に、毎回キャラの崩壊が起こってストーリーの整合性が取れなくなってるので、エピソードの順序を変えるならキャラブレしないように、もしくはできる限り原作通り、丁寧に順番を辿っていって頂けたらと思います」

「アレンジが加わった部分から崩壊していってしまいがちな気がしていますので、何卒宜しくお願い致します」

「不用意なセリフの挿入で理解困難になっている」

などと指摘することが相次ぎ、「オリジナル展開の 9 話 10 話で、収拾つかなくなっちゃうんじゃないかと、不安に感じてます」との懸念も表明。これについて脚本家は調査委員会の調査に対し、聞いていなかったと証言している。

8月に入り、第6話および第7話の各脚本(第2稿)が日本テレビから小学館に送られるようになると、芦原さんからの修正要請と日本テレビ側からの修正版のやり取りが繰り返され、日本テレビ側が芦原さんの修正要請を断るとともに、脚本家が芦原さんの説明に拒否反応を示していると小学館に告げた。

そして芦原さんが自身の制作した8~10話の詳細プロットについて「一言一句絶対に変えない」ことを要求していることを小学館は日本テレビに伝えたが、日本テレビから小学館に送られた脚本には詳細プロットからの変更が入っており、不審に思った小学館は確認のため日本テレビに以下のメールを送信。

「確認なのですが、芦原さんが描き下ろした8~10話は基本的に変更無しで使用してほしい、という話は●●さん(本件脚本家。原文は実名)に伝わっていますか?●●(社員B。原文は実名)から●●さん(日本テレビ社員X氏。原文は実名)にもお電話差し上げたのですが、そのお話しは●●さん(日本テレビ社員Y氏。原文は実名)に伝わっていますでしょうか?」(報告書より)

日本テレビ社員はこのメールに回答をせず、そして脚本家は一切聞かされていなかったという。そして芦原さんの憤りは、小学館の社員に以下文面のメッセージを送るほどであった。

「●●さん(本件脚本家。原文は実名)のオリジナルが少しでも入るなら、そもそも私は9、10話永遠にオッケー出さないです。●●さん(本件脚本家。原文は実名)の度重なるアレンジで、もう何時間も何時間も修正に費やしてきて、限界はとっくの昔に超えていました」(報告書より)

脚本家「脚本を芦原氏が書くという条件であれば脚本を引き受けなかった」

ちなみに日本テレビ社員はヒヤリングに対し「詳細プロットを書くとの申し出があっただけで、自分は、脚本とは聞いていない」と回答しているが、日本テレビ社員は小学館から送られてきた「芦原先生の方から、脚本もしくは詳細プロットの体裁でご提案させて頂けませんでしょうか」とのメールに対し、「結果進めさせて頂くとのことで承知しました」と返信しているため、報告書は「脚本を書く場合もあることを合意したことは明らかである」と判断している。脚本家は「脚本を芦原氏が書くという条件であれば脚本を引き受けなかった」と回答している。

また、日本テレビは「もし脚本が芦原先生の意図を十分汲まず、芦原先生の承諾を得られないときは、芦原先生に脚本も書いてもらうこともある」と言われた記憶はないとしている一方、調査に対し「6 月 10 日の貴社●●様(社員B。原文は実名)から●●(日本テレビ社員Y氏。原文は実名)へのメールよりも前に、明確な条件としてはお伝えいただいておりません」と回答しており、報告書は「話があったことを否定してはいない」と結論づけている。

そして報告書は一連の調査に基づき、次のように総括している。

「芦原氏が何度も同じ指摘をしないと原作に沿った脚本の修正がなかったことと、日本テレビ側が芦原氏の修正意見について反論して、従前の脚本を維持しようとしたことがあり、芦原氏や社員 A に大きな負担を強いた。この度、本件脚本家の回答によれば、その大きな原因として、日本テレビ社員Y氏が、芦原氏の意向をふまえて社員 A がアレンジやエピソードの入れ替えなどをしないように何度も強く求めたことを本件脚本家に伝えていなかったり、監督など制作陣の意見を反映したりした可能性がある」

「10月2日の『芦原さんが描き下ろした8~10話は基本的に変更無しで使用してほしい、という話は本件脚本家に伝わっていますか?』との問いかけも本件脚本家は知らされておらず、結局、芦原氏の詳細プロットの改変を極力避けて欲しいとの小学館の希望が本件脚本家に伝わっていなかった可能性が高い」

日テレ側と小学館側の認識が食い違っている部分も

小学館に先立ち日本テレビは5月31日、社内特別調査チームがまとめた調査報告書を公表していた。そのなかで、芦原さんが日本テレビに「ドラマ化するなら『必ず漫画に忠実に』。漫画に忠実でない場合は本件原作者がしっかりと加筆修正すること」を条件として提示していたのかという点について、日本テレビは「条件は伝えられていなかった」との認識を示している。一方、小学館は

「条件として文書で明示しているわけではないが、漫画を原作としてドラマ化する以上、『原作漫画とドラマは全く別物なので、自由に好き勝手にやってください』旨言われない限り、原作漫画に忠実にドラマ化することは当然」

という認識であった。

また、「ドラマオリジナル部分については、原作者が用意したものを、そのまま脚本化する者を想定する必要や、場合によっては、原作者が脚本を執筆する可能性もあること」について、日本テレビは「上記のような条件を言われたことはなかった」との認識を示している。一方、小学館は日本テレビに対し「脚本が原作者の意図を十分汲まず、原作者の承諾を得られないときは、原作者に脚本を書いてもらうこともある」と伝えたとの認識であった。

「小学館からは、未完部分はドラマオリジナルのエンドでよい、という話であった」(日本テレビ/同社報告書より)

「未完部分は原作に影響を与えないよう、原作者が提案するものをベースにしたドラマオリジナルエンドで良いという趣旨で言った」(小学館/同)

テレビ局関係者はいう。

「日本テレビの報告書では、同社のプロデューサーが小学館から受けたプロットと脚本に関する修正などの要望を、脚本家にきちんと伝えていたのかどうかという点がすっぽりと抜けている。一方、小学館の報告書ではその点に関する検証が繰り返し出てきており、日本テレビから脚本家に伝えられていなかったケースが多かったことがわかる。また、日テレ側と小学館側の認識が食い違っている部分も目立つが、両者ともに重要な点を曖昧にしたまま進めたことが不幸な結果を招いた」

ドラマ制作関係者はいう。

「プロデューサーがきちんと芦原さんからあがってきた指摘や要請を脚本家に伝えていなかった点が根本原因だろう。脚本家に仕事をお願いする際に、芦原さんから原作にできるだけ忠実であることを要求されている旨を伝えていなかったため、脚本家から『話が違う』と言われて揉めることを恐れたためだろうが、たとえ脚本家が降板する事態になったとしても、きちんと小学館から示された修正依頼を伝えるべきだった。小学館と芦原さんからすれば、何度も『これ以上創作を入れないで』と言っているにもかかわらず、それが無視され続けたわけで、そのストレスは相当なものだったと考えられる。

もちろんテレビ局の名前でドラマを制作・放送する以上、原作サイドからの要望をすべて丸のみする必要はないし、提案や要望を行うのは当然のことだ。だが、報告書に書かれているように芦原さんからの修正要請を断わったり、脚本家が芦原さんの説明に拒否反応を示していると告げるというのは、明らかにルール違反だ」

(文=Business Journal編集部)

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