悲しすぎるドラマも…炭治郎&禰󠄀豆子だけじゃない『鬼滅の刃』が描く「きょうだい」たちの美しき絆

『鬼滅の刃』3巻[DVD](アニプレックス)

吾峠呼世晴氏の同名漫画を原作としたアニメ『鬼滅の刃』の新シーズンとなる「柱稽古編」の放送が5月12日より開始され、世界中のファンから注目が集まっている。

鬼との過酷な戦いを描く同作は、家族の絆、想いの連鎖にフォーカスしている作品でもある。特に、敵味方関係なく多くのキャラに「きょうだい」がおり、竈門炭治郎と妹・禰󠄀豆子のような強い「きょうだい愛」が物語のカギを握る重要な要素となっている。

敵としても味方としても、『鬼滅の刃』の中で描かれる様々なきょうだいの絆は悲しくも美しく、見る者の心を揺さぶって涙を誘う。今回は、「柱稽古編」までに登場したきょうだいたちを振り返ってみよう。

■炎柱の家系に生まれた強き者たちの絆「煉獄兄弟」

まずは、2020年10月に公開され、国内最高の興行収入を記録した映画『劇場版 「鬼滅の刃」 無限列車編』で爆発的人気となった兄・煉獄杏寿郎と弟・千寿郎だ。煉獄家は古くから鬼殺隊の最高位である柱のひとつ、炎柱を輩出してきた家系で、杏寿郎は独学で炎の呼吸を学び、剣を捨てて酒に溺れてしまった父親の元炎柱・槇寿郎の後を継ぎ炎柱となった。

二人は、歳の離れた兄弟である。外見は瓜二つで、ともに思いやりに満ちた優しい心の持ち主だが、芯が強く漢気あふれるヒーロータイプの杏寿郎と、内気で気弱な千寿郎とでは、性格の違いは大きかった。さらに、剣の才能も正反対。炎の呼吸を極めた杏寿郎に対し、千寿郎は日輪刀の色が変わらず剣士になれずじまい。これらの対比が、煉獄兄弟の個性と魅力を引き立てている。

そんな二人は、実は作中で同じ時間軸で描かれたことはない。千寿郎の初登場は無限列車で魘夢に見せられた杏寿郎の夢の回想であり、杏寿郎はそのまま帰らぬ人となったため、会えないまま永遠の別れを迎えたのだ。だが、この回想は煉獄兄弟の強い絆が描かれた名シーンの一つである。

夢の中で杏寿郎は父に柱になった報告をするが、「くだらん」と冷たくあしらわれてしまう。陰から見ていた千寿郎が「父上は喜んでくれたか、自分も柱になったら父上に認めてもらえるだろうか」と問うと、杏寿郎ははっきりと彼に「父上は喜んでくれなかった」と伝えた。

さらに杏寿郎は「しかしそんなことで俺の情熱は無くならない! そして千寿郎 お前は俺とは違う!お前には兄がいる 兄は弟を信じている どんな道を歩んでもお前は立派な人間になる!燃えるような情熱を胸に頑張ろう!頑張って生きていこう!寂しくとも!」と続け、千寿郎を抱きしめた。

母の記憶を持たず酒に溺れる父を見て育った千寿郎を、時には父として、時には母として懸命に守り育ててきた杏寿郎。彼は千寿郎が剣士になれないことを分かった上で彼の全てを認め、どんな道を歩んでも素晴らしい人間になると力強いエールを送ったのだ。

■悲しすぎる生涯を送った鬼の兄妹「妓夫太郎&堕姫」

『遊郭編』に登場した十二鬼月の上弦の陸・妓夫太郎&堕姫は、𠮷原遊郭に古くから住みついて22人の柱を殺してきた凶悪な鬼であり、また悲しい過去を持つ兄妹である。

誰もが見惚れる美しさの妹・堕姫に対し、兄の妓夫太郎は見てくれが悪く、恵まれた人への劣等感や憎悪が強い。一方で、「俺たちは二人で一つだからなあ」という言葉通り、堕姫に対してはボスである鬼舞辻無惨への忠誠心以上の親愛を抱いていた。

妓夫太郎の信念は、「人にされて嫌だったこと苦しかったことを人にやって返して取り立てる」こと。それは人間だった頃の生い立ちに起因していている。

遊郭の最下層・羅生門河岸に生まれ、生きる価値がないと虐げられていた妓夫太郎。味方など誰もいない状態で死と隣り合わせの生活を送っていたある日、妹の梅が生まれた。妓夫太郎は美しい梅を自慢の妹と言い、取り立ての仕事をしながら彼女を守り一心に愛を注いだ。

しかし、13歳のときに梅が客の侍の目を刺した罰で生きたまま焼かれてしまう。妓夫太郎は、天に向かって「元に戻せ俺の妹を!! でなけりゃ神も仏もみんな殺してやる」と叫ぶが、梅はおろか自身も侍から受けた傷で瀕死の状態に。そこに現れた童磨に血を与えられ、二人は鬼として生まれ変わった。

妓夫太郎は戦いに敗れた後、梅に戻った堕姫を突き放すが、梅は「ずっと一緒にいるんだから!! 何回生まれ変わってもアタシはお兄ちゃんの妹になる絶対に!!」と兄を追い、共に地獄へ行った。

愛を知り、鬼に傷つけられ人間に手を差し伸べられた炭治郎と、愛を知らず、人間に傷つけられ鬼に手を差し伸べられた妓夫太郎。対比のような二組の兄弟だが、奪われ続けてきた妓夫太郎と堕姫には鬼になる以外の選択肢がなかったことが切ない。

公式ファンブック『鬼殺隊見聞録』によると、梅が侍を刺した理由は兄を侮辱されたから。梅の妓夫太郎への想いとその代償の重さに胸が痛くなると同時に、一番怖いのは鬼ではなく二人を追い詰めた人間だと痛感するエピソードだ。

■互いを想う気持ちがすれ違いを生んだ「時透兄弟」

最後は、『刀鍛冶の里編』で描かれた双子の兄弟、時透有一郎・無一郎を見ていく。上弦の伍・玉壺との戦いの中で無一郎が記憶を取り戻す際に描かれた回想は、あまりの切なさに涙する読者が続出した名エピソードだ。

かつて、有一郎と無一郎は両親と幸せな生活を送っていた。だが、10歳のときに母が肺炎で死に、悲劇の連鎖が始まる。父が嵐の中を薬草探しに出かけて転落死してしまった。。

両親に無理をしないよう頼んでいた有一郎は絶望し、「どれだけ善良に生きていたって神様も仏様も結局守ってはくださらない」「誰かのために何かしてもろくなことにならない」と悲観的な考えのリアリストになる。

そこから二人暮らしとなるが、幼い有一郎は精神的に余裕がなく楽観的な無一郎に怒りをぶつけ、「無一郎の無は“無能”の“無”」など心無い言葉を投げかけた。

11歳のときに、鬼殺隊当主の妻・産屋敷あまねが「始まりの呼吸」の剣士の子孫である二人を隊に誘った際も、有一郎は入隊しようとする無一郎に「お前に何ができる」と激怒し、あまねを追い返し続けた。そして二人の間には会話すらなくなっていく。

すれ違いによる不仲が続く夜、鬼の襲撃に合う。無一郎は怒りで我を失いながら鬼を倒すが、有一郎は「どうか…弟だけは…助けてください… 弟は…俺と…違う…心の優しい…子です…」と虚ろな眼差しで神に祈りながら命を落としてしまった。

これまでの厳しさは、すべて無一郎を死なせないため。心から彼を大切にしているからこそ、危険から遠ざけ鬼殺隊にも入れないようにしていた、有一郎の不器用な愛だったのだ。「わかって…いたんだ… 本当は… 無一郎の…無は…“無限”の“無”なんだ」という彼の最期の言葉は本当に胸を打つ。

無一郎はその後あまねに助けられ、最低でも2年はかかる柱までの道のりを隊士になってわずか2か月で駆け上がり、霞柱になった。

今回のきょうだいの他にも、『鬼滅の刃』に登場するきょうだいたちはみな絆が深い。大切な人の“死”という辛い経験を乗り越え、“想い”を繋いでいく彼らの生きざまは、感動を呼び起こすものだ。

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