【社説】規正法改正、特別委可決 国民感覚とのずれ 甚だしい

 「政治とカネ」の問題を二度と起こさせない。そんな改正案とはとても言えない。

 自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受けた政治資金規正法改正に関し、自民党の改正案がきのう衆院特別委員会で可決された。自民、公明両党と日本維新の会の賛成多数だった。

 政党から政治家個人に支出される政策活動費は、現行法だと使途を公開する必要がない。それをいいことに自民党が国政選挙に投入した実態が明らかになった。新たな修正案で領収書や明細書の公開を盛り込みはしたが、はるか先の10年後という体たらくだ。しかも、公開のルールは法成立後に検討するという。

 裏金事件に悪用された政治資金パーティーを巡っては、金の流れの提示を求める規定が中途半端である。購入者名の公開基準額を現行の「20万円超」から「5万円超」に引き下げたが、なぜ全面公開にしないのか。禁止されている政治家個人への企業・団体献金の隠れみのとなってきた実態が、最大の問題点のはずである。これを温存した。

 裏金につながった抜け穴をふさぐ気はないと、宣言するかのような改正案だろう。

 自民党はきょうの衆院通過を見込むが、理解し難い。維新は立憲民主党とともに企業・団体献金の禁止を主張していたはずだ。政治不信を払拭する原点に立ち返り、23日までの国会会期を延長してでも徹底的に審議し、「政治とカネ」の根絶に資する修正を果たすべきだ。

 裏金事件が浮上して半年以上たつ。終始見えたのは、改革に後ろ向きな自民党の姿勢である。

 実態解明からして遅々として進まなかった。検察当局の捜査を理由に説明責任から逃げ、野党や世論に押される形で党所属の国会議員に聞き取りを始めた。衆参の政治倫理審査会を経てもなお、裏金の使い道や、安倍派が2022年にいったん中止した所属議員への資金還流を復活させた経緯が分かっていない。

 規正法改正に向けても、自民党の案は出し遅れた上に、中身が公明や野党案に比べて最も緩かった。

 岸田文雄首相は当初、明言していた。党総裁として裏金事件を猛省し、国民からの信頼回復のために「火の玉」となり再発防止に取り組むと。その具体策が、規正法改正ではないのか。

 しかし、肝心な中身よりも政局を優先した姿勢が目に余る。衆院3補欠選挙や静岡知事選で自民党が敗北するたび、他党に歩み寄る協議を指示した。象徴は首相自ら、公明、維新のトップと会談し、それぞれの要求を取り込んだ動きだ。今国会中の成立ありきの判断に映る。

 はなから抜本的な改正案を出すのが筋であり、国民感覚とのずれが甚だしい。

 政治活動を何か特権的に考え、金がかかっても全て公開しなくて構わないとの考え方自体が問われている。首相はきのうも答弁で「政治への信頼回復に取り組む」と強調した。いいかげん、その真逆をいく改正案と気付くべきだ。

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