岡崎良介氏による経済徹底分析 一枚岩ではない米国経済の多様性

注目ニュースとしては、米国のベージュブック(地区連銀経済報告)についてです。米国の経済は地域によってバラついているという印象ですから、今の米国経済を見てみようと思います。

米国の州で一番大きな州はカリフォルニア、2番目はテキサス、3番目はフロリダで、4番目にニューヨークなんですよ。カリフォルニアに本社があるマグニフィセント7は、AppleとMeta、NVIDIA、Googleなどです。シアトルのワシントン州にはAmazonとMicrosoftがあります。Teslaはテキサスでしたね。

簡単に言うと、カリフォルニアが一番圧倒的に今の米国最先端なんですよ。逆にフロリダ本社はほとんど聞かないし、昔のニューヨークは今も金融の街なんですよね。

その他のグループに入っているのは、ペンシルバニア、イリノイ(シカゴ)、オハイオ、ジョージア、ノースカロライナ、ミシガンなどですね。人口で見てみるとこういう分類になりますが、恐らく利益を上げている会社で言うと、やはりカリフォルニアとワシントンに拠点を構えているのだと思います。

カリフォルニア、テキサス、フロリダの州ごとに失業率を見ていきます。先週発表された数字を見てみると、全米の失業率は3.4から3.9まで上がってきました。驚いたのはカリフォルニアが5.3まで上がったことです。テキサスはほとんど変化していません。フロリダは低い位置まで下がっていましたが、失業率はかなり上昇しており、0.6%ぐらい上がっています。

今米国で全米平均3.9%の失業率を超える州はどんなところがあるのかを調べてみました。そうすると、カリフォルニア、イリノイ、ワシントン、アラスカ、ケンタッキー、テキサス、ニューヨークなどが入ってきます。結果として、それなりに経済の推進力を持っている州の失業率がすごく上がっているんですよ。

今度は時間軸で調べてみました。カリフォルニアの2007年1月から州別データがあるのですが、カリフォルニアの失業率を各期で分けると、確実にカリフォルニア州の失業率の水位は景気後退期の前に先行して上がり出しています。平均すると、6回の統計でボトムから0.7%ぐらい上昇したところで景気後退期が始まっています。今回はすでに1.5%の上昇なんですね。

また、ピークの位置を見ると、例えばコロナの時は16%超えています。その前の金融危機の時は10.3%ぐらいでしょうか。かなり高いのですが、テキサスとは傾向が異なります。カリフォルニアの失業率は低いですが、テキサスはシェールオイルの主要生産地です。

1980年代は失業率が圧倒的に高かったのは、原油価格が低い20ドル、30ドルの時代が続き、まだシェールが開発されていない頃で、テキサス州は不景気な街だったのですが、90年代に入って新興国景気が始まり、原油価格が上がっていきました。さらに2000年代ぐらいからシェールの採掘が始まって、さらに金融危機の後も全米では10%まで失業率が上がった失業率がテキサスは8%で止まっています。

テキサス州は恐らく米国全体の景気とは関係なく、あくまで原油のマーケットに依存しています。シェールの生産量が増えれば景気が良く、生産量が減れば景気が悪いという米国の平均とは違う経済圏が作られていることがイメージできると思います。

さらにフロリダはどんな推移だったかを見てみましょう。2001年から2008年のところを見るとフロリダの失業率は2%まで下がっているんですよ。この時期に何があったかというと、不動産バブルです。定年退職を迎えて暖かいフロリダに移り大豪邸を持つというのがブームになりました。その結果、どんどんフロリダ経済は良くなっていきました。しかし金融危機が起きると、全米平均を超えて11%まで失業率が上がっていきます。その後またどんどん下がっていくんですが、現在は徐々に上がり出しています。

米国と言うと、我々は平均値3.9%の失業率だとかGDPで1.3だとか、長期金利が4.6だとかで米国単体で見ているんですけども、考えてみれば米国は国土が日本よりも圧倒的に大きく、かつ人口は日本の倍以上ありますよね。

日本の場合、本社が東京に集中しているため、日本全体を見るためには東京を見ればおよその傾向は分析できますが、米国というのはこんなに複合的な州の合体の経済だということがわかります。

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岡崎良介氏 金融ストラテジスト

1983年慶応義塾大学経済学部卒、伊藤忠商事に入社後、米国勤務を経て87年野村投信(現・野村アセットマネジメント)入社、ファンドマネジャーとなる。93年バンカーストラスト信託銀行(現・ドイチェ・アセット・マネジメント)入社、運用担当常務として年金・投信・ヘッジファンドなどの運用に長く携わる。2004年フィスコ・アセットマネジメント(現・PayPayアセットマネジメント)の設立に運用担当最高責任者(CIO)として参画。2012年、独立。2013年IFA法人GAIAの投資政策委員会メンバー就任、2021年ピクテ投信投資顧問(現・ピクテ・ジャパン)客員フェロー就任。

マーケット・アナライズ編集部

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